535.臥龍篇:書評を書いてみよう

 今回は「書評」についてです。

「手本」を分析しようとしても初心者の方はまずわかりません。

 小説を書くようになってようやく「この表現が見事だ」「この表現は弱いんじゃないか」などと分析できるようになります。

 初心者の方こそ「手本」の「書評」を書くべきです。

 ただ読むだけよりもさまざまなことが学べます。





書評を書いてみよう


 あなたの小説の「手本」となる作品について、「書評」を書いてみませんか。

「書評」つまり「ブックレビュー」です。




なぜ書評なのか

「小説の書き方」コラムで「書評ブックレビュー」を書けと言われるとは思わなかったかもしれません。

「書評」にはひじょうにすぐれた効果があります。

 読み手視点と書き手視点の双方から「手本」をひもとくことができるのです。

 読み手として「手本」に「惹かれた理由」とはなんなのか。

 これが明確になっていなければ、いかな名作を「手本」に選んでも得るものは少ない。

「惹かれた理由」が明確なら、それをあなたの「執筆ノート」に書いて残しておきます。書き手にまわったときの財産となるのです。

 多くの読み手は「好きな小説」の「どこが好きなのか」に気づいていません。

「なんとなく好き」という認識にとどまるのです。これでは財産になりません。

「どこが好きなのか」に気づくために「書評」を書くのです。

 書き手として「手本」を検討していきます。

 詳しくは後述しますが、物語としてのよい点と悪い点がそれぞれ見えてくるのです。

 そのため「手本」を選んだら、読み手視点と書き手視点に立って「ここはよかった」「ここはこうすべきではないか」という「書評」を書くことをオススメします。

「書評」は投稿できる小説投稿サイトが限られてしまうのが欠点です。今なら二次創作天国で著作権管理のゆるい『pixiv小説』か「創作論・評論」ジャンルのある『カクヨム』に投稿しましょう。




読み手の側から書評する

 まず「手本」を読み手の側から深く読んでいくのです。

 すると「このシーンで感動した」「このシーンがカッコよかった」「このシーンでスカッとした」というポイントがはっきりとわかります。

 また文が読みやすいか読みにくいかも評価してみてください。

「好きな作品」なのに意外と読みにくいということは起こりえます。

 どうして読みにくいのか。それを考えながら読んでみましょう。

 すると「一文がだらだらと長くて息が詰まる」「短文ばかりで幼稚な感じがする」「重文をつなげすぎる」「読点の打ち方がおかしくて意味がわかりにくい」「文末が同じで単調すぎる」「段落が適切に区切られていないので、内容がごちゃごちゃになっている」といった点が見つかることがあるのです。

 もちろんそういった読みにくさがいっさいない小説もあります。俗に言う「完璧な小説」です。

 高い競争率を勝ち抜いた「小説賞・新人賞」受賞作は「完璧な小説」なのではないかと思っておられる方がいらっしゃると思います。

 しかし「小説賞・新人賞」は将来性を考慮した授賞基準なので、受賞作は十中八九「完璧な小説」ではありません。

 まれに処女作が「小説賞・新人賞」を得てしまうことがあります。これは悲劇です。たいてい読み手からボロクソに叩かれて炎上します。

 2010年に俳優の水嶋ヒロ氏が処女作『KAGEROU』でポプラ社小説大賞を受賞したのです。そのとき相当手酷い炎上に遭っています。先ほども書きましたが「小説賞・新人賞」は将来性を買って授賞するものであり、処女作で可能性を評価するのはよくあることなのです。それなのに大炎上してしまったのはなぜでしょうか。それは「大賞の賞金が一千万円」であったことと、受賞したのが有名人だったこと、それに公言するのは憚られますが読んでみたら「小説になっていない」「つまらなかった」ことに原因があります。つまり「有名人を使った集客ビジネスではないか」という疑問が沸騰したわけです。

 2015年にお笑い芸人ピースの又吉直樹氏が『火花』で芥川龍之介賞(芥川賞)を受賞しました。このとき又吉直樹氏は炎上していません。まず又吉直樹氏にとって『火花』が処女作ではなかったこと。「文豪」太宰治氏に傾倒しており、たくさん小説を読んでいて文章もしっかりし「小説の体をなしていた」こと。そして芥川賞受賞作にしては「面白かった」ことが挙げられます。

 つまり売名か本物かは、読み手目線で「書評」すればすぐにバレるのです。

 あなたの「好きな作品」が「小説の体をなしていない」とは思えないので、基本的には好意的な「書評」になると思います。

 そんな中でも、あえてひとつくらい「悪い」ところを見つけ出してください。

 世の中に「完璧な小説」はほんのひと握りしかありません。

 あなたが「好きな小説」でも読み手として「悪い」かもと思ってしまう点は必ずと言ってよいほどあるはずです。

 なくても無理して「ここが悪い」と言い切ってください。それが重箱の隅をつつくようなものであっても、あなたにとっては「ここが悪い」ように感じた。その目付けがあなたの小説眼を鍛えることにつながります。




書き手の側から書評する

 評価すべきポイントがわかったら、次は書き手の側から深く読んでいきましょう。

「好きな作品」をあなたが書いているつもりで分析してください。

 すると「主人公をどうやって登場させているのか」「主人公が出来事にどう巻き込まれるのか、また出来事を巻き起こしているのか」「こんなところに伏線が仕掛けてあったのか」といったポイントが見えてくるようになります。見えてくるまで何度でも読み返してください。

 私も言葉を尽くして、執筆に必要なものをコラムとして上げていきますが、ご自身で気づかれるほうが何倍も己の血肉になります。

 主人公の人物像は髪や瞳や肌の色、精悍だったり端正だったり豪奢だったりした顔つき、筋肉質や脂肪質といった体型、背が高いとか体重が軽いとかいったデータのうち、どのような要素を書いているのか。また書かないのかを調べていきます。これらは主人公だけでなく、「対になる存在」や第三者(脇役)でも確認してください。それぞれの人物によって書かれている項目が異なっていることもわかるはずです。

 どういう情報の出し方をすれば、読み手に伝わる書き方になるのか。

 それを意識しながら読んでください。

 読み重ねると「この順番だからわかりやすいんだ」「ここがあやふやだったからわかりにくかったんだ」というポイントが見えてきます。

 私が好きな田中芳樹氏『銀河英雄伝説』は第一巻が始まってからすぐに「人類が銀河に広がっていった歴史」を長々と書いているのです。主人公ラインハルト・フォン・ローエングラムは次の章にならなければ出てきません。これでは冒頭から主人公に感情移入することができないのです。これが『銀河英雄伝説』において書き手視点で「悪い」ことになります。読み手のことを考えるのなら「一ページ目」から主人公が登場して、出来事に巻き込まれるか、出来事を巻き起こすかしてください。

 賀東招二氏『フルメタル・パニック!』の主人公である相良宗介は「一ページ目」のプロローグから登場しています。第一章は過去に遡りますから主人公がすぐに出てこないのです。そこでプロローグで「一ページ目」から宗介を登場させました。だからこそあれほどの長期連載が可能になったのです。外伝の『フルメタル・パニック! アナザー』を含めると、『銀河英雄伝説』の二倍以上の連載巻数を誇っています。

 長期連載された作品は「主人公の登場のさせ方」さえも巧みです。

 ちなみに水野良氏『ロードス島戦記 灰色の魔女』において、主人公パーンの髪や瞳の色は書かれていません。その情報が物語とはなんの関係もないからです。ヒロインのディードリットのことは詳しく書いています。

 男性作者が男性キャラを疎かにして、女性キャラの描写に走るのは、今に始まったことではありません。古くは「文豪」の作品を見ればわかります。とくに主人公に関する描写がきわめて少ないのです。

 他にも「正しい日本語で書かれているか」「文章のTPOを踏まえているか」「独りよがりな文章になっていないか」「論理と感情に訴えかけているか」など見るべき点は山のようにあります。





最後に

 今回は「書評を書いてみよう」ということについて述べました。

 本コラムで文章のことを学ぶのもよいのですが、やはり実際の作品を読んでいただいたほうが身につくと思います。

 ですが「ただ読む」だけでは身につきません。

 「どこがよかったのか」「どこが悪かったのか」を見分けて自身の血肉に変えていくのです。

 そうすることで学習効果は飛躍的に高まります。



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