527.飛翔篇:あなたの世界観を書く

 今回は「あなたの世界観」についてです。

 二次創作ばかり書いていると、「あなたの世界観」が生まれません。

 二次創作でプロの書き手になるのはとても難しいのです。

 オリジナル作品で「あなたの世界観」を生み出すことに集中してみましょう。





あなたの世界観を書く


 小説の醍醐味は、見知らぬ世界を体験できるところにあります。

 すでに知っている世界観の作品を読むのは、連載を追っている作品か二次創作だけです。

 著作権管理者の許可を得ているのかどうかわかりませんが、『pixiv小説』は二次創作の宝庫。現在は男子に人気は渡航氏『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』、女子に人気はマンガ・青山剛昌氏『名探偵コナン』の独壇場です。

 いくら二次創作で人気を得たとしても、プロの書き手になるのは難しい。

「あなたの世界観」を書いた小説で人気を得なければなりません。




あなたの世界観がないと

 二次創作ばかりに励んでいると、どうしてもオリジナル小説を書きにくくなってしまいます。

 世界観を自ら構築する力が衰えていくからです。

「あなたの世界観」が構築できなければ、あなたの伝えたい「テーマ」や「メッセージ」を読み手に届けることは難しくなります。

 無理やり形にしたとしても、上滑りした文章になってしまうのです。

 二次創作も、極めてしまえばあなたの伝えたい「テーマ」や「メッセージ」を盛り込むことができるようにはなります。

 そんな二次創作はあなたの強力な武器になりますが、先ほど述べたように「世界観を自ら構築する力」は身につきません。

 しょせん借り物の器に盛りつけているにすぎず、世界観もあなたらしさではなく原作らしさが立っているからです。

 もしこれから小説を書いてプロを目指そうと思うのでしたら、二次創作をやめてオリジナル小説に挑戦してみましょう。

 『pixiv小説』の上位にランクインしている書き手であっても、オリジナル小説には二次創作の「ネームバリュー」はいっさい通用しません。

 いかに「あなたの世界観」が築けているのか。それがひとつの判断材料になります。

 二次創作は世界観だけでなく、キャラ設定や人間関係なども借りてきているのです。

 二次創作ばかり書いていると、オリジナルなキャラ設定や人間関係を構築することすら難しくなります。

 その作品のあるキャラのことが大好きで、オリジナルな展開を皆に読んでもらいたい。

 そういう無償の愛情が二次創作の源泉だと思います。

 だから二次創作しか書きたくない人に、無理やりオリジナル小説を書かせるようなことは致しません。

 もしあなたが将来「プロの書き手」を目指しているのであれば、いつまでも二次創作にしがみついているべきではないのです。

「あなたの世界観」を持っているかどうか。持っていてもその大きさや深さはどうか。それがオリジナル小説に求められます。

 アニメの巨匠である宮崎駿氏といえば『未来少年コナン』や『ルパン三世 カリオストロの城』でその名が売れましたが、いずれも「原作あり」のいわゆる「二次創作」です。

 徳間書店がアニメーターにオリジナルアニメ映画を作ってもらおうという企画を始めました。そのとき候補に上がったのが『未来少年コナン』『ルパン三世 カリオストロの城』を大ヒットさせた宮崎駿氏だったのです。しかし彼には原作となる作品がない。そこで『風の谷のナウシカ』をマンガ化して知名度を高めたのち劇場アニメ化しようという流れになりました。ここで宮崎駿氏は初めて「自分の世界観」の作品を形にできました。その後『天空の城ラピュタ』や『となりのトトロ』などの大ヒット作を連発したのは言わずもがなでしょう。

 アニメーターにオリジナル映画を作ってもらおうという企画の流れで、アニメ『機動戦士ガンダム』においてキャラクターデザインを手がけたアニメーターの安彦良和氏が『アリオン』という劇場アニメを作りました。こちらは先にマンガ連載がされており、すんなりと企画が通ったそうです。ただ興行収入が同時公開の『天空の城ラピュタ』に遠く及ばず、名誉挽回のために『ヴイナス戦記』が作られましたがこちらも惨憺たる結果で、安彦良和氏は専業マンガ家の道を歩むこととなります。その後著書『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』の映画化によって再び劇場アニメの舞台へと帰ってきました。二次創作でこじ開けた扉だと言えるでしょう。

 二次創作からオリジナル作品を連発するようになった宮崎駿氏と、オリジナル作品がヒットせず専業マンガ家を経て二次創作で表舞台に返り咲いた安彦良和氏という対極に位置するふたつの偉大なる才能があります。

 二次創作をいつ行なったかが問題なだけで、ふたりともオリジナル作品をきちんと生み出しているのです。

「自分の世界観」を持っていたからこそ劇場アニメ化の話もやってきたのです。




共感する人が現れる

「あなたの世界観」を形にしていくと、その世界観に共感する人がまず間違いなく現れます。平たくいえば「ファン」です。

「あなたの世界観」がどんなに偉大でも、それが読みやすい文体で書かれていなければ「ファン」のなり手は少なくなります。

 たとえば「あなたの世界観」がほどほどのものであっても、読みやすくて感情移入しやすければ「ファン」はたくさん生まれるのです。

 昨今横山光輝氏『マーズ』とアニメ『六神合体ゴッドマーズ』の関係についてネットが賑わいました。

『六神合体ゴッドマーズ』は『マーズ』を原作にしていますが、参考にしたのはマーズに陽子爆弾が埋め込まれていることくらいで、他はまったくのオリジナルと言ってよいでしょう。これは横山光輝氏が「どんな改変をしてもいいですよ」とあらかじめ許可していたそうなのです。

 そうして作られた『六神合体ゴッドマーズ』はロボットアニメにもかかわらず世の女性ファンを一気に獲得した人気作となりました。

『マーズ』の世界観にとらわれることなく、「オリジナルな世界観」を追求したことで共感する人が現れたのです。

 とくに主人公・明神タケル(マーズ)と双子の兄・マーグとの関係が女性ファンのハートを射抜きました。この作品から「腐女子」が大量発生したとも言われています。

 もし横山光輝氏『マーズ』を忠実に再現していたら、これほどの人気にはなっていなかったでしょう。これは『マーグ』のOVAや『神世紀伝マーズ』の売上と比べても一目瞭然です。

「○○のパクリ」「○○の二次創作」では人気を博すことはできません。

「オリジナルな世界観」を読み手に見せることで、共感する人が必ず現れます。

 アニメのスタジオぬえ『超時空要塞マクロス』の続編である『マクロス7』は日曜午前中の放送にもかかわらず視聴率は3%台という低迷ぶりを見せていました。しかしBGMはすべて歌曲であり、主人公・熱気バサラを中心とした「Fire Bomber」の出した1stアルバム「LET’S FIRE!!」はオリコン初登場4位を獲得するなど、視聴率とグッズ販売とに格段の差が生まれました。

 当初は「ロボットアニメに戦わない主人公とはなにごとか」と抗議を受けたそうですが、話が進んでいくにつれ今度はバサラが戦いそうになると「バサラを戦わせようとするとはなにごとか」と抗議を受けたそうです。

「戦わない主人公」という「独自の世界観」が多くのファンを獲得する原材料となりました。

 そして放送から24年経った今年になっても、シリーズ最新作『マクロスΔ』や『マクロスF』から入って『マクロス7』ファンになる方が続出する、まさに「モンスター作品」と化したのです。

(2019年5月にNHK BSプレミアムで放送された『全マクロス大投票』において作品部門第3位、キャラクター部門で熱気バサラが第2位、歌部門で「Fire Bomber」の「突撃ラブハート」が第3位と根強い人気を伺わせる結果が出ました)。


 芸術において「あなたの世界観」ほどたいせつなものはありません。

「あなたの世界観」が明確だからこそ、ファンが自然と発生するのです。

 先に「ファンを獲得するにはどうすればよいのか」を考えても良い結果は生まれません。それは受け手に媚びているだけだからです。

 そうではなく「あなたの世界観」を明確にして、受け手の前に広げてみせます。

 小説なら物語の展開や登場人物の設定などを読み手に読んでもらって、「あなたの世界観」を余すところなく表現できていれば、ファンは必ず生まれるのです。

「なんとかして読み手を増やしたい」と思って読み手に媚びるような物語は、結局のところ誰にも受け入れられません。媚びが目につくからです。

「読み手を増やしたい」のなら「あなたの世界観」をもっと尖らせましょう。

 誰もこんなことは思いつかないだろう。そんな「あなたの世界観」にするのです。


『超時空要塞マクロス』の監督をしていた石黒昇氏の作品に『メガゾーン23』というOVAがあります。『超時空要塞マクロス』のように「歌」がキーワードになっている作品です。宇宙船「メガゾーン23」の艦内にある街が1980年代の日本に設定してあるのは「その時代がいちばん幸せだったから」という理由付けをしています。

 この衝撃的な作品は当時のOVA販売記録を更新し、多くのファンを獲得しました。

 誰も思いつかないような「あなたの世界観」この場合「石黒昇氏の世界観」が尖っていたからこそ、今日まで続く熱烈なファンを生み出したのです。





最後に

 今回は「あなたの世界観を書く」ことについて述べてみました。

 二次創作は世界設定もキャラ設定も人間関係もすでに存在するものを利用するので書きやすいのです。

 しかし二次創作ばかり書いていては、オリジナル小説が書けなくなります。

「あなたの世界観」で書いたオリジナルな作品を書くことによって、文章が洗練され、物語が魅力的になって、結果としてファンを獲得できるのです。

 先に「いかにファンを集めるか」を考えるのではなく、「いつの間にかファンが集まっていた」ようにしましょう。

 そのためには「あなたの世界観」の確立が大前提です。

 宮崎駿氏が偉大な劇場アニメ監督となったのも、「宮崎駿氏の世界観」が多くの観客を虜にしてきたから。いつの間にか「宮崎駿アニメのファン」が生まれたのです。

 順序を間違えないでください。

 芸術では「あなたの世界観」を確立することが最優先事項なのです。



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