526.飛翔篇:読後感を考える
今回は「読後感」についてです。
小説とは「
物語が終わったとしても、たいていの小説世界はそれからも続いていくのです。
物語の終わった後がどうなるのか。それが「読後感」を生み出します。
読後感を考える
あなたの小説を読んでくれた人にとってどんなメリットがあるのか、を想像しながらあらすじを探ってみましょう。
読み手があなたの小説を読むメリットを考えるのです。
読み手にどう感じてほしいか
小説を読んでくれた人にどう感じてほしいかを考えます。
たとえば恋愛ものなら、感情移入している主人公の恋愛が成就して、読み手の心も満たされることです。
共感力の強い女性は恋愛成就の「ハッピーエンド」を好みます。
だから恋愛小説は「女主人公」のものが多いのです。
以前にも書きましたが、男性は純粋な「恋愛小説」をまず読みません。
読むとしたら「ラブコメ」「ハーレム」くらいなもの。
一対一の恋愛構図(「純愛」)の作品は女性しか読まないのです。
男性は照れくささと浮気性があるため、「純愛」を読むと歯がゆさを感じます。
それでも女性で人気が出た恋愛小説は、耳聡い男性が読むことがあるのです。
とくに女性にモテる男性は、女性の好む話題をつねにストックしています。流行りの恋愛小説を押さえておき、女性の共感力をつかまえるのです。
「ラブコメ」は男女ともに高い人気を誇ります。
恋愛小説を読まない男性でも「ラブコメ」なら読んでみてもいいかなと思うのです。
ポイントは「コメディー」。
正面切って恋愛を語ることのない男性も「コメディー」に包めば語れます。
「コメディー」ですから「物語の結末」も笑って楽しく締めるものが多いのです。
中には「物語の結末」へ向けてどんどんシリアスになっていくものがあります。
それでもラストシーンでは笑わせてくれるものです。
たまにそのまま「純愛」に持ち込んだり「バッドエンド」に向かったりもしますが。
「ハーレム」は男性の読み手に手広くアピールして、推しキャラを見つけてもらうのが目的です。
読み手もそれがわかっているため、推しキャラ探しで読みにきてくれます。
ひとりでも推しキャラが見つかったら、その作品をブックマークに入れるのです。
今でも「ハーレム」は力を持っていて、ランキング上位が「ハーレム」だらけというときもあります。
「ハーレム」は本命が決まっていて、浮気相手を選んでいるような構図です。
女性向けの「逆ハーレム」もあります。
女性は根本では「理想の男性」を追い求めていて、その人と一対一の関係になりたいと思っているのです。
「逆ハーレム」作品は、特定の誰かと恋愛関係になることがなく、皆でわいわいしていることが多い。
連載の最後で誰かと結ばれることもありますが、たいていは「皆で楽しく」です。
感情移入している主人公の恋愛が破綻して「悲恋」で終わることもあります。
感情移入しているほど「ハッピーエンド」を求めるものですが、意外と「悲恋」も人気があるのです。
女性は共感力が高く、「悲恋」に傷つく主人公の気持ちにも共感を表します。
男性は「悲恋」だとわかっていれば、上から見下すような視点で読むのです。
男性には「誰かの上に立ちたい」という本能があるため、上から目線になります。
ですが実際に「悲恋」を読んだ男性は、たいてい気が重くなるのです。
男性は意外とメンタルが弱く、受ける衝撃が女性とは桁違いになります。
一度この衝撃を味わうと、ついつい「悲恋」ものを読んでしまう男性もいるのです。
ファンタジーはワクワクを感じてほしい
これがファンタジーだと男性ががっつりと食いつきます。
ファンタジーは読み手にワクワクを感じてほしい小説です。
「異世界ファンタジー(ハイファンタジー)」は現実世界とは異なるところですから、ワクワクしてこなければファンタジー小説として根本的に失敗しています。
見知らぬ世界を手探りで切り開き、新鮮なものに満ちている。それが「異世界ファンタジー」です。
栗本薫氏『グイン・サーガ』、田中芳樹氏『アルスラーン戦記』、水野良氏『ロードス島戦記』『魔法戦士リウイ』などが嚆矢で、小野不由美氏『十二国記』、マンガ・峰倉かずや氏『最遊記』、上橋菜穂子氏『精霊の守り人』(守り人シリーズ)、雪乃紗衣氏『彩雲国物語』など枚挙に暇がありません。
天野こずえ氏『ARIA』はテラフォーミングされた未来の火星「アクア」が舞台なので、厳密には「空想科学(SF)」に属するかもしれません。
「異世界転移ファンタジー」の代表的なアニメとして富野由悠季氏『聖戦士ダンバイン』、AIC『神秘の世界エルハザード』があります。マンガではCLAMP『魔法騎士レイアース』が有名でしょうか。他にも女神の手違いで異世界転移することになる暁なつめ氏『この素晴らしい世界に祝福を!』、異世界へ召喚されるヤマグチノボル氏『ゼロの使い魔』や、ゲームのような世界観である長月達平氏『Re:ゼロから始める異世界生活』、自衛隊がまるごと転移する柳内たくみ氏『ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり』などが近例です。
「異世界転生ファンタジー」は理不尽な孫の手氏『無職転生-異世界行ったら本気だす-』、カルロ・ゼン氏『幼女戦記』、馬場翁氏『蜘蛛ですが、なにか?』、伏瀬氏『転生したらスライムだった件』、棚架ユウ氏『転生したら剣でした』、内藤騎之介氏『異世界のんびり農家』などがあります。
小説投稿サイト『小説家になろう』では人気の「異世界転移」「異世界転生」ですが、少し調べてみたら書籍化されたけど大当たりした作品は意外と少ないんですね。
「現実世界ファンタジー(ローファンタジー)」は現実世界に近い世界観ですが、なにかが異なっています。
鎌池和馬氏『とある魔術の禁書目録』やマンガの荒木飛呂彦氏『ジョジョの奇妙な冒険』、車田正美氏『聖闘士星矢』、冨樫義博氏『幽☆遊☆白書』、加藤和恵氏『青の祓魔師』、堀越耕平氏『僕のヒーローアカデミア』、大場つぐみ氏&小畑健氏『プラチナエンド』のような「異能力バトル」が多いのも、男性が食いつきやすいファンタジーだからでしょう。
「異能力」のないバトルものは「アクション」小説にくくられます。マンガの河合克敏氏『修羅の門』や森川ジョージ氏『はじめの一歩』のような格闘技がメインで「異能力」がないものは「アクション」小説ということになるのです。
ど派手な「肉弾バトル」がある一方でマンガの大場つぐみ氏&小畑健氏『DEATH NOTE』のような「心理バトル」もあります。マンガの甲斐谷忍氏『LIAR GAME』や福本伸行氏『賭博黙示録カイジ』などはミステリーかもしれませんが、いずれも「心理バトル」が見せ場ですよね。
このように「心理バトル」に特化すると、どの部分をファンタジーにするかでローファンタジーなのかそうでないのかが決まってきます。『DEATH NOTE』は死神のノート「デスノート」の存在がありますから明確なローファンタジーです。
「異能力」として「超能力」を出すケースもあります。谷川流氏『涼宮ハルヒの憂鬱』は現代を舞台に「超能力」や「UFO」などが登場するローファンタジーです。筒井康隆氏『時をかける少女』、マンガのまつもと泉氏『きまぐれオレンジ☆ロード』や麻生周一氏『斉木楠雄のΨ難』などもあります。ただし『時をかける少女』は「青春」ですし、『きまぐれオレンジ☆ロード』は「ラブコメ」、「斉木楠雄のΨ難」は「コメディー」です。「超能力」の第一人者はマンガの聖悠紀氏『超人ロック』ですが、こちらは「宇宙」を舞台にした「空想科学(SF)」の扱いとなっています。「超能力」は人の能力の一種として扱われるため、たいていは「ローファンタジー」以外のジャンルに分けられるようです。
マンガ・藤島康介氏『ああっ女神さまっ』のように神様が登場したり、マンガ・石塚千尋氏『ふらいんぐうぃっち』やアニメ・宮崎駿氏『魔女の宅急便』のように魔女が登場したりする、ほのぼのとした「ローファンタジー」もあります。
読後感はジャンルに縛られる
読後感は「ジャンル」によってある程度決まってしまいます。
「
それを裏切る読後感があってもよいのですが、あまり
「
純文学(文学小説)は「人生のテーマ」に対する書き手なりの答えで締めますから、ここでトンチンカンな終わり方をすると、小説として成立しません。「人命」をテーマにしていたのに「友情はなにものにも代えがたい」という読後感を読ませても、「で、人命についてどう考えているの?」となります。答えが噛み合っていないので、読み手は納得しないのです。
選んだ「ジャンル」にふさわしい「読後感」を読み手に提供する義務が、書き手には生じます。
「恋愛」なら「結ばれる」か「別れる」かの二択になります。結末を出さないまま連載を終えてしまうと、読み手は肩透かしを喰らうのです。
だから「恋愛」であれば「結ばれる」のか「別れる」のかをはっきりさせてください。それにより「ハッピーエンド」になるか「バッドエンド」になるか「悲恋」になるかが決まってきます。
最後に
今回は「読後感を考える」ことについてです。
読み手がハッピーになれるような読後感を与えたい。
そうならそれにふさわしい作風で書く必要があります。
読み手に響かない書き手の自分勝手な小説は、読み手にはひと目で見抜かれるものです。
読み手を思っている書き手ほど、丁寧に「読後感」を意識して書くのです。
小説投稿サイト『小説家になろう』で連載が「エタる(エターナル:永遠に終わらない)」状態になっているものがいくつもあります。厳しいことを言うようですが「読後感」を意識できないつまり読み手を蔑ろにする書き手だということです。
とても面白いのに「エタった」小説より、ほどほどの面白さでもきちんと完結し「読後感」を与えている小説のほうが断然に上。
物語を始めたのなら、必ず終わらせること。そしてどんな「読後感」を読み手に与えたいのか。
あらかじめ決めておくのが、よりよい小説を書くために必要なのです。
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