525.飛翔篇:三千字しか書けない方へ

 今回は「十万字が書けない方」への処方箋です。

 小説を書きたいのに「三千字」書くのがやっとな方は、殊の外多い。

「三千字」を突破する方法を見ていきましょう。





三千字しか書けない方へ


 長編の小説賞に応募したくて書き出してみたはいいのだけれど、どうしても「三千字」しか書けない。

 応募要項には「十万字前後」とある。

 到底足りませんよね。

 実は文章にとって「三千字」がひとつの壁なのです。

 原稿用紙で十枚に満たない分量しかないのですが、それを突破することができない。

 この壁をぶち破る方法を知らないと、本コラムをここまで読んできても長編小説は書けません。




内容を無視して好き放題に書いてみる

「三千字」しか書けないという方は、いったん内容は無視して自分が思っていることを好き放題に書いてみてください。

「三千字」しか書けない境遇を書きなぐってみましょう。

 書けない苛立ちや無力感なども書き込むのです。

 書けましたか。では何千字書けたか確認してみてください。

 おそらく三千字を大きく超えた文章が書けたと思います。

 あなたは「三千字の呪縛」から解放されたのです。

「三千字」しか書けないのは、書く材料が少なかったから。

 もし今回のテストで「三千字」に満たなかったら、何文字でもいいのでグチるだけグチってください。

「なんで私は三千字すら書けないんだ」ということを畳み込むです。

 すると「三千字」は必ず埋まります。

 今回は書けない境遇や苛立ちや無力感、またグチといった材料がたくさんありました。

 だから「三千字」を大きく超えた文章が書けたのです。

 それってただ書きなぐった文章であって、小説ではないですよね。

 そんな声が聞こえてきます。

 しかし事実として「三千字」を超える文章を書けたことに価値があるのです。

 これまで「三千字」を超える文章を書いたことがない。だから書けなかった。

 苦手意識の克服には、とにかく目標超えを目指しましょう。

 内容よりも結果を受け入れてください。

 あなたにとって「三千字」はもはや通過点でしかなくなりました。

 試しに小説を書いてみてください。

 きっと「三千字」を超える分量が書けるはずですよ。

 このトレーニングは定期的に行なってください。

 一度突破したから「三千字」を超えることはたやすくなっています。

 しかし定期的にトレーニングをしなければ、また「三千字」の壁の前に逆戻りしてしまうのです。




日記を書いてみる

「三千字」を超える文章が書けるようになるには、内容にこだわらずとにかく「三千字」を突破する経験を経ることに集中してもらいました。

 しかしそのままで小説の分量を三千字以上書けるようになる保証はありません。

 壁を破ったことで書けるようになることがほとんどなのですが、それでもまだ苦手意識を持っている人はいるものです。

 そこで毎日日記を書いてみましょう。

 日記帳は方眼用紙がオススメです。何文字書いたかを一目で確認できます。

 最初は単語だけでもかまわないので、とにかく今日体験したひとつの出来事に絞って「三千字」を超えるような日記を毎日書くのです。


 最初のうちは「三千字」に届かないとしても、単語をつなげて文に仕立てていくと、途端に文字数が増えていきます。単語は二字から四字程度ですが、文に仕立てると二十字や四十字くらいあっという間に書けるようになるのです。仮に一文三十字書けるとすれば、百文書けば三千字を突破できてしまいます。

 百文なんて書けないよ。そんな声が聞こえてくるようです。

 ですが百文なんてすぐに書けてしまいます。

 まず日記にどんな出来事を書くのかを明確にするため、単語や短文でかまいませんから見出しを書いておきましょう。

 それに関連する事柄を箇条書きで書き出してみる。

 そのときどんな気分になったのか。どんな感情を抱いたのか。それも書いていきましょう。周辺情報を拾い上げる訓練になります。

 箇条書きで二十文書ければ、一文につき周辺情報を四文書けばそれで百文達成です。

 周辺情報は、グチでもうんちくでも感じたことでも考えたことでも妄想でもかまいません。

 とにかく穴埋めを続けていけば必ず「三千字」は突破できます。


 慣れてきたら文章としてのまとまりを意識しながら書いていきましょう。

 連載小説を毎日書くようになったら、日記は書かなくてもよいのです。

 あくまでも毎日「三千字」以上書けるようにするためのトレーニングだと思ってください。




小説のワンシーンを六千字で書く

 いよいよ小説に移っていきます。

 これまで小説を書こうとして全体で「三千字」しか書けなかった。

 ですが、あくまでも小説のワンシーンだけを「五千字から七千字」を目安に書いてみてください。このシーンを四つつなげたものが一章であり一エピソードということになります。

 平均するとワンシーン六千字です。そして一章は四シーン単位なので二万四千字ということになります。

 気がつきましたか。長編小説の目安である十万字はたった四章で到達可能なのです。

 足りないぶんはプロローグかエピローグを書けばよい。

 ワンシーン五千字であれば一章は四シーン二万字であり、五章仕立てで十万字に到達します。

 初めて十万字を書く方は断然四章仕立てがおススメです。

 四章仕立てなら、文章構成でお馴染みの四部構成「起承転結」がそのまま当てはめられます。


 どうしてもワンシーン三千字近辺になってしまう方は、四シーン単位で一万二千字、八章仕立てで書いてください。

 複雑な物語を書くことはできますが、ワンシーンが短いので人物の掘り下げが弱くなってしまいます。

 ライトノベルはキャラクター小説なので、人物の掘り下げが弱いと魅力が半減します。

 この問題を掌編連作の形でクリアしたのが、『ピクシブ文芸大賞』を受賞した小林大輝氏『Q&A』です。

 つまりワンシーンを短く書くことしかできなくても、長編の小説賞を授かることはできます。

 ただし『Q&A』は着眼点のよかった小説でした。

 もしあなたが異世界ファンタジーでワンシーン三千字しか書けないとすると小説賞を受賞するのは困難です。

 だからまずはひと投稿を五千字から七千字まで増やしてから連載小説をスタートさせることをオススメします。

(追記:『小説家になろう』『カクヨム』などでは毎日連載で一日二千字以下の投稿が最も好まれるようです。六千字を四分割して千五百字前後を毎日投稿するようにすれば、格段に読まれやすくなるはずです)。





最後に

 今回は「三千字しか書けない方へ」ということについて述べてみました。

 とにかく一回でも「三千字」をぶち破る経験をすることがたいせつです。

 それから日記を書いて「三千字」を超える分量を毎日書く習慣をつけてください。

 それができてから初めて長編小説に挑みましょう。

 連載小説に挑戦するのは、長編小説を何本か書いてからのほうが良いと思います。

 小説投稿サイトには過去作が掲載されますから、連載小説が面白くなりそうかを見極めるために過去の長編小説を参照することが多いからです。



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