523.飛翔篇:企画書を書く(毎日連載500日達成)

 今回は(『ピクシブ文芸』での)毎日連載500日目記念で「企画書」についてです。

 小説を書くとき、最初に決めなくてはならないのは「主人公」と「物語の結末」です。

 それを導き出すために「企画書」を書きます。





企画書を書く


 あなたが小説を書くために、まずやらなければならないことがあります。

「主人公」と「物語の結末」を考えることです。

 小説投稿サイトでは「主人公」と周りの人物を考えて、物語は流れに任せて書く人が多いと思います。

 それで「エタる(エターナル:永遠に終わらない状態になる)」わけです。

「エタる」小説を書く人は、いっとき人気が出たとしても、二作目、三作目を書くほどに「またエタるんじゃないか」と読み手が疑心暗鬼します。




ジャンルを決める

 まず決めなければならないのが「ジャンル」です。

「ジャンル」が決まれば、どんな「主人公」がどんな「物語の結末」を迎えるのか見えてきます。

 基本的には小説投稿サイトの「ジャンル」分けに従えばいいので、真っ先に自分の書きたい「ジャンル」を見つけてください。

 おそらく最も書きやすいのは、なんでもありの「ハイファンタジー」と現実世界にスパイスをプラスした「ローファンタジー」、「異世界恋愛」と「現実世界恋愛」だと思います。

「空想科学(SF)」には科学技術の知識が必要です。

推理ミステリー」では今までにない独創的な「破綻しないトリックとアリバイ」を生み出さなければなりません。

「歴史」は史実に詳しくなければ扱えません。史実と矛盾しない設定を考えるのは、一からすべて創り出す「ハイファンタジー」とは比べ物にならないほど大量で高度な知識が必要です。

 これらに比べれば「純文学(文学小説)」は現実世界でも成立しますし、「空想科学(SF)」「推理ミステリー」「歴史」のような予備知識がなくても書けます。

 難易度が高そうな「純文学(文学小説)」も、これらに比べれば格段に書きやすいのです。

 とくに書きたい「ジャンル」がなく決めかねている方は、その小説投稿サイトで最も読まれている「ジャンル」を選びましょう。

 読み手の反応が最も集まるのは人気のある「ジャンル」です。

 執筆のモチベーションを高めるためにも、元からパイの大きな「ジャンル」を狙いましょう。


「ジャンル」を決めたら、「レベル」を定めてください。

 事件は「ケンカ」レベルなのか「戦術」「戦略」「政略」「謀略」レベルなのか。これだけで物語の大きさが変わってきます。

 町のチンピラを相手にした「ケンカ」なのか、国家を股にかけた「謀略」なのか。それがわからなければ「物語の結末」を想定することもできません。

「異世界ファンタジー」の「勇者」ものなら、基本的に「戦術」レベルでじゅうぶんでしょう。軍を率いて戦う「戦略」レベルほど大仰な描写はまず必要ないですよね。




主人公を決める

 物語には「主人公」が必要です。

 誰も登場しない物語なんてものはありません。

 宇宙創生のビッグバン理論ですら、なにもないところで大爆発する「モノ」が登場します。

 この段階で「主人公」の名前を決めてもいいですし、決めなくてもいいです。

 とにかくまず「主人公」の存在を強く意識してください。

 では「主人公」はどんな人物でしょうか。

 「物語の結末」にも関係してきます。


「異世界ファンタジー」を例にとりましょう。

「物語の結末」を「主人公が人々から勇者として讃えられる」だとします。

 そうであれば「物語の始まり」から「主人公」がすでに「勇者」だと感動しないと思います。元の状態と最終的な状態に変化がないからです。

 それに比べて、一介の「村人」が旅の経験を通じて「人々から勇者として讃えられる」という「成長する主人公」は、読み手が感情移入しやすい利点があります。

「主人公が人々から勇者として讃えられる」結末なら、「村人」からの「立身出世」型の物語形式が有利です。

 始まりは「勇者」だったのに、いったん堕落して「元勇者」と蔑まれ、汚名返上の旅を続けた果てに「人々から勇者として讃えられる」という物語形式もあります。

 このような「汚名返上」型の物語形式は、「立身出世」型の物語形式よりも感動は薄いのです。

 主人公が底辺から「立身出世」するので物語は面白く感じられます。

 ですが『小説家になろう』では現在は「堕落した勇者」の「汚名返上」型の人気が高いのです。

 読み手心理として「自分も実力はありながら現在は不遇の身。それを打破して世間に実力を見せつけてやる」という願望が大きく働いています。

 つまり小説の「主人公」に自分をかこつけて、「主人公」の成長を自分に重ねたいのです。

 そのことは小説投稿サイト『小説家になろう』のハイファンタジージャンルのランキングを見ればわかります。

 現在は「追放」モノが流行りです。元は「勇者」パーティーの一員だったのに「追放」されて底辺に落とされる。そこから這い上がって「汚名返上」し、そのまま「勇者」パーティーを見返す「下剋上」、『小説家になろう』でいう「ざまぁ」の人気が高いのです。

 おそらく草創期は「村人」の「立身出世」ものが全盛だったことでしょう。

 そんな物語が大量にあふれていたら、あなたの書いた小説はまったく目立てなくなります。

 そこで「異世界転移ファンタジー」として、現実世界の人物をなにも知らない世界へと送り出すことで変化をつけたのです。

 ですがこれもそのうち蔓延しますから、そんな物語にあふれてしまいます。

「異世界転生ファンタジー」はその流れで生まれました。現実世界からなにかを持って異世界で生まれ変わるという、「異世界転移」よりもさらに「底辺」からスタートさせようというものです。

 これも遅からずあふれてしまいました。

「異世界転生」の残滓ざんしは今もありますが、前述した「追放」モノと「引退スローライフ」モノが現在の主流です。

 現在はこのふたつがあふれていますから、そろそろ次の「主人公」像が生まれてくることでしょう。

 時流に乗って「追放」モノと「引退スローライフ」モノを書いてもいいですし、次の「主人公」像を模索してみるのもいいと思います。


「現実世界恋愛」を例にとりましょう。

「スクールラブ」と「ラブコメ」が流行っていますが、「主人公」としては「高校生」が多いですね。

『小説家になろう』の主要層は三十代〜四十代の男性ですが、「現実世界恋愛」を読む主要層は中高生になります。

 思春期で「恋愛」に敏感な中高生が「スクールラブ」な「恋愛」小説を支えているのです。

「主人公」が「高校生」なのは、そんな読み手を想定しているからでしょう。

 ですが『小説家になろう』の主要層にも「高校生」はウケます。なにせ一度は「高校生」を経験してきた方ばかりだからです。

「スクールラブ」に次いで人気のある「オフィスラブ」は、『小説家になろう』の主要層が実際に仕事をしているからこそでしょう。

 現在「主人公」は「高校生」の人気が高いのですが、とくに「高校二年生」の人気が高い。

 なぜかといえば、「同級生」だけでなく「上級生」と「下級生」が存在し、恋愛対象となる登場人物に幅が出せるからです。

「ハーレム」にしやすいのが「高校二年生」だとも言えます。

 平坂読氏『僕は友達が少ない』の主人公・羽瀬川小鷹も「高校二年生」、渡航氏『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』の主人公・比企谷八幡も「高校二年生」。

 ちなみに庵野秀明氏『新世紀エヴァンゲリオン』の主人公・碇シンジもシャフト『魔法少女まどか☆マギカ』の主人公・鹿目まどかも「中学二年生」。

 中学校も高校も「二年生」なら「上級生」も「下級生」もいるはず。

「中学二年生」は精神的に未熟なため、「主人公」を「高校二年生」にしたほうが恋愛物語ラブ・ストーリーは作りやすいと思います。




物語の結末を決める

「主人公」を先に決めておくのが一番です。

 ですが先に「物語の結末」を決めてもよいでしょう。

「物語の結末」から遠い「主人公」で開幕すれば、より振り幅の大きな物語になります。

 先ほどの「人々から勇者として讃えられる」は、「異世界ファンタジー」では鉄板の「物語の結末」です。

「異世界ファンタジー」の「ハッピーエンド」はたいていがこのパターンといえます。

「バッドエンド」は「主人公の死」「守るべき者の死」「守るべき国や世界の崩壊」などですね。「異世界ファンタジー」の「バッドエンド」は命にかかわることが多くなります。

「人々から勇者として讃えられる」結末を映えさせるために、できるだけ遠い「主人公」を設定してみるのです。

 そうなると「勇者」スタートでは幅が出ませんよね。「村人」スタートならその世界では「勇者」からかなり遠いと思います。

「女村人」や「辺境で隠居したお爺さん」であればより遠いですよね。

「辺境で隠居したお爺さん」は「引退スローライフ」で実際に使われているのでイメージが湧きやすいと思います。「女村人」は「女主人公」となりますので、女性の書き手なら書きやすいのですが、男性の書き手ではなかなか書けないでしょう。

「勇者」スタートなら、開始直後に堕落させて「元勇者」にしてしまえば、評価が反転します。「勇者」パーティーから「追放」されるのも「人々から勇者として讃えられる」ことから離れるのです。

 ゼロからスタートする「異世界転移」「異世界転生」もありますが、どんな「物語の結末」を用意するかで面白さが変わってきます。「元の世界に戻る」ことが「物語の結末」であってもよいのです。


「現実世界恋愛」であれば「意中の異性と結ばれる」が「物語の結末」の基本です。「悲恋」にするなら「意中の異性と別れる」ことが「物語の結末」になります。生き別れか死に別れかは選択する必要がありますが、基本的に別れれば「悲恋」です。

 ですが「意中の異性がろくでもないヤツだった」場合、フッて別れることが「ハッピーエンド」ということになります。


 察しのよい方はこのあたりでわかってきたと思いますが、「物語の結末」は「ジャンル」を決めた段階で数種類に絞られてくるのです。

 どんな「物語の結末」を思いつくかは、読書量に左右されます。

 世界の神話や童話や寓話の類いを調べてみるのも「あり」です。

 悲劇のパターンを知りたいのなら、ウイリアム・シェイクスピア氏の作品に親しむとよいでしょう。

 物語の形は神話・童話・寓話とシェイクスピアで出尽くしたとされているほどです。

 であればそれらに触れることで「物語の結末」のパターンを増やすことができます。




主人公の属性

「物語の結末」が定まれば、再び「主人公」を決めていきます。

 どんな属性を持っているのか。それを決めていくのです。

「片田舎に住む村人」も「高校二年生」が「異世界転移」をしたというのも属性。

「由緒ある勇者の末裔」や「魔王をすることになった」というのも属性。

「特定のスポーツが得意(スポーツ選手)」「メガネをかけている」というのも属性。

 そういった属性を「主人公」に付け加えていってください。

 属性が付けてあれば、それをネタにして小説を続けていくことができます。

 たとえば百メートル走の選手なら、逃げ足も速いはずです。

 であればパーティーの偵察や囮として活躍できます。

 切り込み隊長として先陣を切る役割を担うこともできるのです。

 長期連載を目指しているのであれば、「主人公」の属性はたくさんあったほうがよい。

――のですが、てんこ盛りにしてしまうと、人物の性格を把握しづらくなります。

 これぞという属性以外は、「主人公」パーティーの仲間に割り振るのがベストです。




テーマを決める

「ジャンル」と「主人公」と「物語の結末」が決まれば、次は物語で書き手が訴えたい「テーマ」を決めましょう。

 えっ「テーマ」は真っ先に決めるものなんじゃないの? とお思いの方もいらっしゃることでしょう。

「主人公」の属性も「物語の結末」もわからない状態で「テーマ」を考えても、たいていの場合徒労に終わります。

 逆に、物語の登場人物をすべて決めたあとに「テーマ」を決めると、人物の躍動感が失われるのです。

「テーマ」を決めるならこのタイミングに限ります。

 実は「テーマ」も「ジャンル」である程度選択肢が少なくなってくるのです。

「異世界ファンタジー」なら「戦乱終結」「天下統一」「平和到来」などがあります。

 四字熟語にする必要はありません。単に並べてみたら四字熟語になっただけです。

「企画書」作りも大詰めに入ってきました。




主人公以外の人物を揃える

 次は「主人公」以外の登場人物とその役割を決めましょう。

 これも「物語の結末」を彩る重要なポイントです。

 彼ら彼女らは「主人公」とどんな関係にあるのか。仲間なのか敵なのか支援者なのか邪魔者なのか。

 人物とその関係をまとめ、主人公との出会いと別れのチャートを書き、物語の出来事でどんな働きをするのか。そういったことを決めていきます。

 登場人物は短編小説なら数人でかまいません。長編小説なら最低でも三人は欲しいです。連載小説ならエピソードにつき数人でまわしていきましょう。

 同じ役割をするのであれば、同じ人物でこなせないかを検討してみます。

 必要以上に人物を増やさないためです。


 また「名前」をつけるべき人物は誰にするか。

 できれば今後の物語に絡んでくる人物にだけ「名前」をつけるべきです。

 



謎と解明を作る

 人物が出揃ったら、物語で起きる出来事に関する「謎」を作りましょう。

 これは「推理ミステリー」だけでなく、異世界ファンタジーや現実世界恋愛であってもです。

 出来事が起こるということは、起こるに足る「なにか」があったから。

 この「なにか」がわからないから「謎」になるのです。

 そして物語が進んで状況が変化することで、「謎」の正体が明かされます。

 正体がわかればあとは「解明」するだけです。

「なぜそんなことを起こすに至ったのか」「なぜこんな出来事になったのか」

 それがわからなければ物語を終えてもスッキリしません。

 すべての「謎」の「解明」は物語が終わる前に必ず行ないましょう。

 長編連作の場合は、物語の主軸になる「謎」は残しておいて少しずつ「解明」していくようにしましょう。

 お手本はマンガ・青山剛昌氏『名探偵コナン』です。

 コナンはいつも事件に遭遇しますが、すべてのエピソードが「黒の組織」と関係しているわけではありません。

 しかし「黒の組織」関連の場合、そのエピソードが終わるときに「少しだけ」今後の展開を匂わせるような描写を必ず入れています。

 マンガといえども「物語」としては侮れない作品なのです。


推理ミステリー」を書いているときは、「企画書」の段階で密室とアリバイとトリックを揃えてまとめておきましょう。

 説明不足や状況の取り違えを防ぐ役割があります。

 もちろん出版社の編集さんに見せれば「密室とアリバイとトリック」が誰かの作品とかぶっていないかチェックしてもらえます。

 アマチュアの書き手のうちは、自力で類似作がないかチェックしなければならないため、「推理ミステリー」の書き手は少ないのです。

 ただし時代や犯人のタイプや動機や手口が少しでも異なっていれば「オリジナル」を主張できるので、そこまで臆病になる必要はありません。




企画書の完成

 それらが出来あがると、晴れて「企画書」が完成します。

 この「企画書」が物語のたたき台です。

 出版社の編集さんが知り合いにいれば見てもらえたらいいのですが、そんな人は少ない。

 家族や友人に話して聞かせ、「面白い」と言ってもらえれば、執筆へ向けて「あらすじ」「箱書き」「プロット」の段階に進んでいきます。





最後に

 今回は「企画書を書く」ことについて述べてみました。

 企画書に関しては、コラムNo.114「応用篇:企画を立てる」、No.189「再考篇:企画を立てる」でも触れています。

 ですが300回以上も前のことを憶えていろというほうが無理な話です。

 そこで今回「飛翔篇」でプロの書き手を目指した「企画書」について書いてみることにしました。

「企画書」だけを読んで「面白くない」と思う物語は、どんなに文章を飾っても「面白くない」のです。

 面白い「企画書」が作れれば、名作になる可能性は高くなります。

 物語の骨格を担う「企画書」がしっかりしていれば、きちんとした形のある小説が書けるようになるのです。



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