522.飛翔篇:時は流れる
今回は小説内で「時が流れる」ことについてです。
『ピクシブ文芸』毎日連載499日目です。いよいよ明日500日目を迎えます。
ここまで大型連載になる予定はなかったのですが、ひとつの区切りがついたと思っております。
時は流れる
小説はイラストのように止まった空間で物事を書いていく芸術ではありません。
マンガやドラマや映画のように、文字を読み進めることで時間が経過していくのです。
もちろん「一時間が経過した。」という一文を読んで実時間で一時間待つ必要はありません。
ですが心の中では「ここで一時間過ぎたんだな」と思わせます。
時間を操ることで、小説は躍動してくるのです。
時の流れ
小説を読んでいて「時間が流れた」という感覚がなければ、それは小説ではないのです。
芥川龍之介氏『蜘蛛の糸』は短編小説ですが、天国の朝に蜘蛛が糸を垂らして、地獄にいる主人公がそれを伝って登っていく。それに気づいた者たちが我も我もと蜘蛛の糸を登り始め、主人公が「これは俺のだから登るんじゃねぇ」と言った途端に糸が切れて全員が地獄へと落ちていきます。それは天国のお昼のことだった。というオチです。
つまり短編小説であろうとも、物語を書いたら時は流れます。
物語が進むにつれて時間も過ぎていくという感覚が、小説には求められるのです。
超能力バトル小説を書いたとします。
開始とともに主人公が時間を止めて、全員を場外に押し出してから時間を進めると一瞬でバトルの決着がついてしまうのです。
この小説は時間が流れていなかったのか。流れていましたよね。
たしかに物語の時間は止めました。主人公以外は全員止まっている。そこから主人公が全員を場外に押し出す作業をあなたは読んだはずです。つまり物語の時間は止まっていても、主人公の動きを追っていられました。そこから時間を進めても、他の登場人物のようにいきなり場外に押し出されたわけではないのです。
私たちは主人公の動きをたしかに見ていました。だから私たちは主人公の時間を感じることができたのです。
時が流れて変化する
小説は「時の流れ」を感じる芸術だとも言えます。
時が流れていれば、自然も朝から昼へそして夕方から夜へと進んでいくのです。
それに伴って人間はなにかを経験して変化します。
受験勉強をしているのであれば、時間が経つと記憶した知識が増えているはずです。
勉強をしていて記憶が減っているなんてことはまずありません。
記憶が増えていないのでは勉強しているとは言えないですよね。
だから通常なら人間は時が流れれば良い経験をしてプラスの結果をもたらします。
それを逆手にとって、時が流れるほどマイナスの結果をもたらすような物語もあるでしょう。
アメリカドラマの『24』は、刻一刻と状況が悪化していきます。それに抗うように主人公ジャック・バウアーは戦い続けるのです。そして最後の戦いに勝利して平和な日常を取り戻します。
『24』の大ヒットとともに同じような作品つまりテンプレート作品が数多く生まれました。このあたりは日本の小説投稿サイトの流れに似ているのではないでしょうか。
時が流れると歴史が生まれる
現実世界でも同じことが言えますが、小説内で時が流れるとそこに歴史が生まれていきます。
主人公は時を過ごすことで物語世界に歴史を刻むのです。
その歴史はいずれ伝説になります。
ただ日常を暮らしているだけでも、小説の主人公の行動は歴史に刻まれるのです。
なぜでしょうか。
小説という形で現実世界に記録されているからです。
現実世界の人が、小説を読んで主人公の言動を知ります。つまり読み手の歴史に刻むのです。
多くの人が読めば、それだけ小説の主人公は伝説の存在となっていきます。
夏目漱石氏『吾輩は猫である』の主人公もフィクションですが、今では伝説の存在ですよね。
紫式部氏『源氏物語』の主人公・光源氏なんて偉大すぎるほど伝説の存在となっています。
主人公とともに時を過ごすことで、読み手は感情移入して主人公に没入するのです。
そして主人公は読み手自身となり、時を経ることで歴史が生まれます。
あなたの体験はいずれあなたの歴史となり、晩年になって振り返ると伝説であったことがわかるのです。
疑似体験して成長する
読み手は小説の主人公に感情移入して物語世界を楽しみます。
前述のとおり小説には時が流れているのです。
読み手は主人公とともに時の流れをともにし、次々と現れる課題をクリアしていくことで成長していきます。
主人公の成長とともに読み手も成長していくのです。
主人公が次々と現れる課題をクリアしていくのに、いっこうに成長しない物語もあります。
マンガの藤子・F・不二雄氏『ドラえもん』やマンガの長谷川町子氏『サザエさん』が好例でしょう。
双方ともテレビアニメが毎週放送されていますが、何十年、何千回と話が続いているのに主人公はいっこうに成長しません。
のび太はあいかわらずぐうたらで、サザエさんはあいかわらずのんびり屋。
これはエピソードだけで連載しているからできることです。
これらを例外とすれば、やはり物語は必ず時が流れており、それに伴って主人公に課題がやってくる。それを読み手とともに乗り越えていくことで成長していきます。
成長物語は多くの読み手を惹きつけるのです。
主人公に自分を重ねて、ともに成長していけるから人気が出ます。
水野良氏『魔法戦士リウイ』、鎌池和馬氏『とある魔術の禁書目録』、川原礫氏『ソードアート・オンライン』、渡航氏『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』と新旧ライトノベルもそのほとんどが成長物語です。
時に破滅的な最後を迎える作品もありますが、たいていは大団円で終わります。
この大団円が読み手にとって最後の成長であり、その余韻に浸って物語は幕を閉じるのです。
小説は読み手が主人公に感情移入して、出来事を疑似体験して主人公とともに成長していく芸術だと言えます。
絵の力で魅せていくマンガやアニメでは、小説ほど深い感情移入はしづらいのです。
マンガやアニメでは好みの絵柄かどうかで没入度が変わってしまいます。
小説は表紙や挿絵を除けば文字だけで表現されますから、読み手が先入観なく感情移入しやすいのです。
最後に
今回は「時は流れる」ことについて述べてみました。
小説はいつでもあなたを成長させてくれます。
それは時が流れているからです。
時の流れを主人公とともに経験することで、感情移入しているあなたも成長します。
マンガやアニメにはできないことも、小説ならできてしまうのです。
小説には読み手を変革させる強い力があります。
小説を書くとき、つねにそのことを考え続けてください。
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