521.飛翔篇:テーマの着眼点が第一
今回は「テーマの着眼点」についてです。
また「テーマ」を浮き彫りにする「モチーフ」についても述べていきます。
テーマの着眼点が第一
小説にたいせつなものはなんでしょうか。
アイデアや文体、心理描写に人物描写、物語のダイナミズムなどが考えられます。
ですが標題に挙げているように、「テーマの着眼点」が最もたいせつです。
独特の「テーマの着眼点」がなく、凡百なテーマで書いても「小説賞・新人賞」で目立てません。
「テーマの着眼点」がよければ目立てるだけでなく、物語がいくらでも面白くなります。
着眼点で小説賞獲得
『ピクシブ文芸』で開催された「ピクシブ文芸大賞」において大賞を射止めたのは、「テーマの着眼点」がよかった小林大輝氏『Q&A』でした。
講評も揃って「着眼点のよさ」を挙げています。
「小説賞・新人賞」を狙いたければ、エピソードのアイデアや自在に書き分けられる文体、心理描写や人物描写に凝るよりも、「テーマの着眼点」を磨くべきです。
凡百なテーマの小説とはひと味もふた味も異なる、「より目立てる」小説になります。
凡百なテーマでは書きようもない面白い物語が展開できる可能性があるのです。
実際に小説を書くときは他の要素も意識する必要があります。エピソードのアイデアや文体、心理描写に人物描写、物語のダイナミズムといったものが及第点をとれなければ企画倒れになるだけです。
着眼点の違いが「より目立てる」かを左右します。
「ピクシブ文芸大賞」を獲得した『Q&A』も、凡百な「異世界転移もの」「異世界転生もの」ではなく、「着眼点」のよいミステリーものでした。
つまり応募数が少なかった、幻冬舎が求めていた「文芸」の中からミステリーを選び、手を替え品を替え独特の「テーマの着眼点」を見せてくれました。
『ピクシブ文芸』は「検索機能がない」という小説投稿サイトとして致命的な欠点を持っています。そのせいか投稿本数が一年半前からそれほど増えていません。平日では投稿本数が100作にも満たないのです。これでやる気を維持するのは難しいですよね。
『ピクシブ文芸』で一次創作(オリジナル小説)を書くよりも、『pixiv小説』で二次創作を書いたほうが読み手が多いので、ブックマークもついて評価も増える。書いていて楽しいのです。
二次創作は原作を根本から変えてしまうとまず評価は得られません。原作の流れの中に「こんなエピソードがあってもいいんじゃないかな」くらい乖離していない作品が支持を集めます。
そんなエピソードを生み出すのも、やはり「テーマの着眼点」なのです。
テーマのモチーフ
「人の命」を「テーマ」に据える文学小説は多い。
ですがうまく表現できていない作品が多いのも事実です。
「人の命」を「重い」と定義するのなら、モチーフとして「重い」という状態を形を変えて読ませていく必要があります。
赤ん坊を抱いたときの「重さ」を書く。老人を介助するときの「重さ」を書く。これを別個に書いて「重さ」というモチーフが「テーマ」である「人の命」を照らし出すようにするのです。
また人に限らず、古びた家の門扉が「重い」、持ち運ぼうとしている荷物が「重い」、雲が立ち込めて空気が「重い」など、「重い」ということを何度でも刷り込むように書きます。
「人の命」は「重い」ですねと書くよりも、このような別のものが「重い」ことを書き連ねることで、結果的に「人の命」も「重い」んだなと読み手に思わせる。これができて初めて「テーマ」が浮かび上がるのです。
「友情」を「テーマ」に据えるなら、「どんなときでも切れない絆」として描きたいとします。
それなら「切れない」をモチーフにして、なんでも切れる刀でも「切れない」こんにゃくや固くて「切れない」鰹節、きつく結んで「ほどけない」紐といったものを書き連ねる。こんにゃくは二次創作になりますから省いてくださいね。
モチーフが「テーマ」を引き出すのです。
「権力の腐敗」を「テーマ」にしたのなら、「腐った魚」「腐った(錆びた)
放置された建造物を、園庭になんの造作もせずほったらかしにされたような汚い様を書いて、金属は腐食し、窓ガラスは割れてしまっている。「権力の腐敗」がテーマですから、国会議事堂の議場へ続く扉の蝶番が「腐って(錆びて)」いたっていいのです。「腐って(錆びて)」軋む音が鳴る。
築地市場・豊洲市場を「権力の腐敗」の具現化として、築地の錆びだらけでいつ落下してくるかわからない柱や壁や天井、豊洲市場で対策されていなかった地下水から有毒なベンゼンやシアンやヒ素などを検出したことなど。そういったモチーフを書き連ねるのです。
そんな描写もすべて「権力の腐敗」へと向かっていきます。
一見するとこのモチーフたちは「テーマ」に関係しないのではないか。そう思わせてすべてを読み終えたとき「だからあのときこんなエピソードを書いたのか」と気づかせるのです。
そのために「テーマ」は直接書くことなく、モチーフの積み重ねで「テーマ」に迫っていこうとする明確な意図が必要になります。
物語の中に入れ子構造で小さな物語を埋め込み、そこでモチーフを演出すればいいのです。
感覚と心理描写
アクションを読ませるときは、実体験の感覚を書くのが基本です。
相手の回し蹴りをガードした右手に伝わる衝撃や痺れ、右手のガードを構えたまま左手で相手の顎をぶん殴るときの肩まで伝わるクリーンヒットの手応えなどを書いていきます。
しかし恐怖を感じたときに「恐怖を感じた」と書くのはスマートではないですよね。
心理を説明しようとせず「背筋が寒くなった」「寒気がした」「悪寒が走った」のように感覚を表現して伝えましょう。ただしこれらは常套句なので、できれば独特な表現を磨いてみてください。
鼻が利く人は、これからなにか起こりそうだと感じると、ある種のにおいを想起しているそうです。焦げたにおいかもしれませんし、血のにおいかもしれませんし、コーヒーのにおいかもしれません。
少なくとも「これからなにか起こりそうだ」ということを嗅覚でとらえる人もいるのです。
感覚も心理描写も、突き詰めれば「テーマ」を引き立てるために書きます。
「人の命」を「テーマ」にしているのであれば、道を歩く蟻や水辺にいる蚊に対して抱く感覚も「人の命」を見据えたものになるのです。
つまり蟻を踏んでしまうことにためらいを覚えない、主人公の血を吸っている蚊を叩き潰したい。そんな感情も「人の命」を「軽んじる」ようなモチーフにすることができます。
最後に
今回は「テーマの着眼点が第一」について述べてみました。
「小説賞・新人賞」に応募する際、まず他人が書かないであろう「テーマ」を選べるかどうか。その着眼点のよさが選考で有利に働きます。
だからといって「テーマ」を直接文章で書いてしまってはダメです。
ありきたりな「テーマ」であっても、「モチーフ」の多彩さで「読ませる小説」に仕立てましょう。
感覚や心理描写も、突き詰めれば「テーマ」に即している必要があります。
小説では「テーマ」が重要で、その「着眼点」がすぐれていれば「より目立つ」ことができるのです。
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