515.飛翔篇:主語と述語を近づける

 今回は「主語と述語を近づける」ことについてです。

「主語」は修飾語、「述語」は被修飾語の関係です。

 修飾語と被修飾語を近づけることもついでに説明しています。





主語と述語を近づける


「主語」と「述語」はできるだけ近づけるべきです。

 英語では「I love you.」「I can’t speak english.」など、ほとんどの場合「主語」と「述語」は隣接しています。

 これが日本語になると、間に品詞がさまざま入り込み、距離が遠くなるのです。




主語と述語の距離

「主語」はできるかぎり文頭に出すべきです。「述語」はできるかぎり文末に出すべきです。

 倒置法以外ではこれが原則になります。

 「I love you.」は「私はあなたを愛している。」です。主語「私は」と述語「愛している」の間に「あなたを」が入っています。

 「I can’t speak english.」は「私は英語が喋れません。」です。主語「私は」と述語「喋れません」の間に「英語が」が入っています。

 このように英語では「主語」と「述語」は隣接していますが、日本語では文頭と文末に分かれてしまうのです。

 間に入っている語を外に出して「私は愛している。あなたを。」「私は喋れません。英語が。」と表現することもできます。しかしこれはレトリックの倒置法であり、自然な日本語ではありません。


「私は駅前の交番にいる警察官を事故現場へ案内した。」という一文。

 主語「私は」と述語「案内した。」までに五つの品詞が入っています。

 修飾語の「駅前の交番にいる」と被修飾語の「警察官」は隣接しているため、ここで混乱することはありません。

 これを、「駅前の交番にいる私は警察官を事故現場へ案内した。」と書いてしまうと、修飾語「駅前の交番にいる」の被修飾語は「私」になってしまいます。

 主語「私は」を述語「案内した」に近づける原則があるとすれば、「駅前の交番にいる警察官を事故現場へ私は案内した。」か「駅前の交番にいる警察官を私は事故現場へ案内した。」が最良になるはずです。

 ちなみに「私は」が「駅前の交番にいる」までで一見すると主人公が「駅前の交番にいる」ように思われますよね。それをすぐに「警察官を」を入れることで「あ、『駅前の交番にいる』のは警察官か」とわかるわけです。

 この意味でもわかりにくい文章であることは確かです。




修飾語と被修飾語を近づける

「私は駅前の交番にいる警察官を事故現場へ案内した。」は「駅前の」は「交番に」にかかり、「交番に」が「いる」にかかり、「いる」が「警察官」にかかっています。だから「駅前の交番にいる警察官」という連文節は修飾語と被修飾語を近づける原則からして語順は動かせません。

 それに対し「私は」「駅前の交番にいる警察官を」「事故現場へ」が「案内した。」にかかります。

 この場合は三つの修飾語の順番を動かしても意味は通ります。ただし、「案内した。」より後ろへ持っていくと、倒置法になって すっと入ってこないおかしな文になります。

「駅前の交番にいる警察官を事故現場へ案内した。私は。」

「私は事故現場へ案内した。駅前の交番にいる警察官を。」

「私は駅前の交番にいる警察官を案内した。事故現場へ。」のような倒置法です。

 倒置法抜きで修飾語と被修飾語を近づけるには、順番も考えなければなりません。


一.「私は駅前の交番にいる警察官を事故現場へ案内した。」

二.「私は事故現場へ駅前の交番にいる警察官を案内した。」

三.「駅前の交番にいる警察官を私は事故現場へ案内した。」

四.「駅前の交番にいる警察官を事故現場へ私は案内した。」

五.「事故現場へ私は駅前の交番にいる警察官を案内した。」

六.「事故現場へ駅前の交番にいる警察官を私は案内した。」

 まず主語「私は」を文頭に持ってきた一と二では、一のほうがスムースに理解できます。これは「対象」である「駅前の交番にいる警察官を」を先に出したほうがわかりやすいからです。

「対象」である「駅前の交番にいる警察官を」を文頭に持ってきた三と四では、どちらかというと四のほうが理解しやすい。ですが文頭に主語「私は」を持ってきた一と二よりもすっと入ってきません。

「場所の方向」である「事故現場へ」を文頭に持ってきた五と六では、三と四よりもさらに頭に入ってこない文になります。


 ただし「主語と述語を近づける」ことを優先するなら、

四.「駅前の交番にいる警察官を事故現場へ私は案内した。」

六.「事故現場へ駅前の交番にいる警察官を私は案内した。」

 もいいでしょう。しかし「主語」が出てくるまでの文字数が多いため、脳が疲れます。

 それにどこに「主語」があるのかひと目見てわかりません。

 そこで主語の前に読点を打つ方法があります。

四.「駅前の交番にいる警察官を事故現場へ、私は案内した。」

六.「事故現場へ駅前の交番にいる警察官を、私は案内した。」

 こうすれば、少なくとも「主語」の位置がひと目でわかるのです。

 文頭に「主語」を持っていくか、「述語」の直前に「主語」を持っていくか、それ以外の場所に「主語」を持っていくか。

 それを決めないと「品詞」と「述語」の修飾語と被修飾語の関係は決められません。

 ただし、一般的には長い修飾語から順に書いていくように勧められています。

 今回の場合では四の「駅前の交番にいる警察官を事故現場へ私は案内した。」が最良とされているのです。


 でもやはり文の「主語」はなるべく早いうちに出しておいたほうが、読み手のことを考えています。

 そこで読点を使って「私は、駅前の交番にいる警察官を事故現場へ案内した。」とすることで「主語」を読み手が見つけやすいようにする手法が有名です。




修飾語と被修飾語をきちんとかける

「警察官は金属バットをムキになって振り回している太い男の腕をとり、投げ飛ばした。」

 この例では修飾語と被修飾語がわかりにくくなっています。

 主語「警察官は」と述語「投げ飛ばした。」は文頭と文末なのですぐわかる。

「金属バットを」は「振り回している」にかかる修飾語です。しかし「ムキになって」は「ムキになる」つまり動詞の連用形です。それに対して「金属バットを」は「名詞+を」なので、純粋な修飾語の品詞です。だから「振り回している」を直接修飾しているのは「金属バットを」なので、「金属バットを振り回している」は密接に結びついています。

 こうして「ムキになって金属バットを振り回している」の順番は確定するのです。

 次に「太い男の腕をとり」は、「太い男、の腕」なのか、「太い、男の腕」なのかが判然としません。「太い」は「男」か「腕」のどちらを修飾しているのか。「太っている男の腕」と書くか「男の太い腕」と書くかしてどちらかを明確にしましょう。ここでは「男の太い腕」を採用してます。

 では「とり」の「主語」はなにか。文全体の主語が「警察官」であり、「太い男の腕をとり」なので「男」が「主語」になりえないことから、やはり「警察官」であると思われます。

 まとめると次のようになります。

「警察官はムキになって金属バットを振り回している男の太い腕をとり、投げ飛ばした。」

 この文は単文に見えて重文です。

「とり」と「投げ飛ばした」で「述語」がふたつありますよね。

 そして「主語」は双方とも「警察官は」ですから、二文目は「主語」を省いた文です。

 これを投げ飛ばされた男側から書くと次のようになります。

「ムキになって金属バットを振り回している俺の太い腕を警察官にとられると、投げ飛ばされた。」

 今度は複文になりました。

「ムキになって金属バットを振り回している」が「俺」にかかります。「俺がムキになって金属バットを振り回している」の転回形です。さらに「俺の太い腕」は「俺の腕は太い」の転回形です。つまりふたつの複文構成を持つ文ということになります。

 投げ飛ばされた側から書くとわかりにくいのではないでしょうか。





最後に

 今回は「主語と述語を近づける」ことについて述べてみました。

「主語」は修飾語、「述語」は被修飾語の関係です。

 そこで一般的な修飾語と被修飾語の関係を交えて解説してみました。

 修飾語と被修飾語は近づける。

 修飾語は長いものから短いものへと順に出す。

 修飾語は重要なものから出す。

 というのもひとつの目安にはなります。

 小説は論文に求められる論理的よりも、イメージを優先したほうがよいのです。

 だから読み手に伝えたい順番に(重要なものから)書いていくようにしましょう。

 イメージ優先だと「主語」を文頭に持ってくるほうがわかりやすいのです。

「述語」の直前に「主語」を置きたいときは、読点「、」を打って「どんな主語の文なのか」を読み手の視界に入るよう配慮しましょう。



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