516.飛翔篇:ら抜き言葉・さ入れ言葉

 今回は書き言葉の「禁じ手」である「ら抜き言葉」と「さ入れ言葉」についてです。

 話し言葉なら「時代を写す鏡」として用いてもかまいません。

 ただ地の文では「ら抜き言葉」と「さ入れ言葉」はなくしたほうがいいでしょう。

 たとえ物語が面白くても、「ら抜き言葉」「さ入れ言葉」で評価が下がる原因になります。





ら抜き言葉・さ入れ言葉


 最近の方が文章を書いていると、つい「ら抜き言葉」と「さ入れ言葉」を使ってしまいます。

 使用している人にはそれなりの理由があるようです。しかし「正しい日本語」が書けなければ「小説賞・新人賞」を獲ることは難しくなるでしょう。

「ら抜き言葉」「さ入れ言葉」をなくす方法をご紹介します。




ら抜き言葉

「ら抜き言葉」は現在では日本人の過半数が「可能活用」として使っている一般表現となっています。しかし出版業界では依然として「禁止表現」です。

 では出版業界が忌む「ら抜き言葉」とはどのようなものでしょうか。


 まず「ら抜き言葉」でない「可能活用」は、未然形「〜ない」の活用が「(-a)」になるもの(五段活用)が基本です。五段活用は「-eる」と活用して「可能動詞」にできます。

「ら行五段活用」がわかりやすいと思います。

「走れる(走raない)」「乗れる(乗raない)」「座れる(座raない)」「踊れる(踊raない)」「釣れる(釣raない)」「蹴れる(蹴raない)」「掘れる(掘raない)」「練れる(練raない)」「張れる(張raない)」「集まれる(集まraない)」「焦(あせ)れる(焦raない)」

 では他の「五段活用」を見てみましょう。

「歩ける(歩kaない)」「書ける(書kaない)」「起こせる(起こsaない)」「立てる(立taない)」「死ねる(死naない)」「読める(読maない)」「編める(編maない)」

 このように「五段活用」は「可能動詞」として表現することが可能です。


 では「ら抜き言葉」とはどんなものでしょうか。

「得れる(得-ない)」「見れる(見-ない)」「出れる(出-ない)」「食べれる(食べ-ない)」「寝れる(寝-ない)」「起きれる(起き-ない)」「受けれる(受け-ない)」「立てれる(立て-ない)」「褪せれる(褪せ-れる)」はすべて語幹が活用の元となっており、未然形「〜ない」の活用が「-a」にはなっていません。このような「上一段活用」「下一段活用」は必ず「ら」を入れる必要があります。

 またカ行変格活用「来れる(来-ない)」も、未然形「〜ない」の活用が「-a」にはなっていません。

 だからこれらは「ら抜き言葉」なのです。

 よって正しくは「得られる」「見られる」「出られる」「食べられる」「寝られる」「起きられる」「受けられる」「立てられる」「褪せられる」「来られる」です。

「ら抜き言葉」は動詞の活用を知っていれば回避することは難しくありません。

 未然形「〜ない」が「ア段」に活用する「五段活用」なら「ら」は要らない。

 語幹だけの「上一段活用」「下一段活用」また「カ行変格活用」は必ず「ら」を入れなければならないのです。


 サ行変格活用「する」の可能形は「できる(saない)」です。


「見れる」を許容する人は、「見れる」には受身や尊敬や自発といった「見られる」の機能を有さず「可能」だけを持つ活用だからいいんだ。という立場をとっています。

 しかし、会話文の中ならともかく、地の文で「ら抜き言葉」を使うと、それだけで下読みさんの評価が減点されてしまうのです。

 皆様も正しい「可能動詞」を身につけて、「ら抜き言葉」で減点されないようにしてください。




さ入れ言葉

「さ入れ言葉」とはなにか。

 助動詞「〜させる」「〜される」「〜させられる」において必要がないのに「さ」を入れてしまうことです。


 まず「さ入れ言葉」でない「使役活用」は、未然形「〜ない」の活用が「(-a)」になるもの(五段活用)が基本です。

 五段活用は「-aせる」と活用して「使役動詞」にできます。「さ」は入れません。

「歩かせる(歩kaない)」「書かせる(書kaない)」「起こさせる(起こsaない)」「焦らせる(焦raない)」「立たせる(立taない)」「死なせる(死naない)」「読ませる(読maない)」「編ませる(編maない)」「走らせる(走raない)」「乗らせる(乗raない)」「座らせる(座raない)」「踊らせる(踊raない)」「釣らせる(釣raない)」「蹴らせる(蹴raない)」「掘らせる(掘raない)」「練らせる(練raない)」「張らせる(張raない)」「集まらせる(集まraない)」

 このように「五段活用」では「さ行五段活用」だけが「さ」が必要(というより活用で発生しますの)で、他はすべて「さ」をとりません。

 このように「五段活用」は、「さ行五段活用」以外は「さ」を入れないようにしてください。


 では「上一段活用」「下一段活用」の「さ入れ言葉」はどうなっているのでしょうか。

 「得させる(得-ない)」「見させる(見-ない)」「来させる(来-ない)」「出させる(出-ない)」「食べさせる(食べ-ない)」「寝させる(寝-ない)」「起きさせる(起き-ない)」「受けさせる(受け-ない)」「立てさせる(立て-ない)」「褪せさせる(あせ-ない)」はすべて語幹が活用の元となっており、未然形「〜ない」の活用がありません。

 このような「上一段活用」「下一段活用」は必ず「さ」を入れる必要があります。


 サ行変格活用「する」の使役形は「させる」です。


 また「見せる」は「見させる」の省略形ですが、ニュアンスが少し変わります。

 口調として「歩かせて」を「歩かして」、「見せて」を「見して」、「立たせないで」を「立たさないで」のように変形して言うこともありますが、基本的にこれらは文法違反です。



 似た語形に「〜される」「〜させられる」があります。

 これは「使役受身動詞」とでもいい、「〜させる」+「〜られる」で作られ、「〜aされる」または「〜-aせられる」と表します。

「〜aされる」は「〜aせられる」の「-aSerAれる」の「S」と「A」から「さ」に略したもので、ニュアンスの違いはありますが基本は同じ語です。

 なので原型は「〜aせられる」のほうになります。

「五段活用」の「使役受身動詞」を見てみましょう。

「歩かされる・歩かせられる(歩kaない)」「書かされる・書かせられる(書kaない)」「起こさされる・起こさせられる(起こsaない)」「焦らされる・焦らせられる(焦raない)」「立たされる・立たせられる(立taない)」「死なされる・死なせられる(死naない)」「読まされる・読ませられる(読maない)」「編まされる・編ませられる(編maない)」「走らされる・走らせられる(走raない)」「乗らされる・乗らせられる(乗raない)」「座らされる・座らせられる(座raない)」「踊らされる・踊らせられる(踊raない)」「釣らされる・釣らせられる(釣raない)」「蹴らされる・蹴らせられる(蹴raない)」「掘らされる・掘らせられる(掘raない)」「練らされる・練らせられる(練raない)」「張らされる・張らせられる(張raない)」「集まらされる・集まらせられる(集まraない)」

「〜-aされる」はすべて「さ」が必要です。「〜aせられる」と表記する場合は、「さ行五段活用」のときに「さ」をとります(活用で「さ」が発生します)。


 では「上一段活用」「下一段活用」はどうでしょうか。

「得させられる(得-ない)」「見させられる(見-ない)」「来されられる(来-ない)」「出させられる(出-ない)」「食べさせられる(食べ-ない)」「寝させられる(寝-ない)」「起きさせられる(起き-ない)」「受けさせられる(受け-ない)」「立てさせられる(立て-ない)」「褪せさせられる(あせ-ない)」

 すべて「させられる」の形だけを用います。ですが近年ではあまり使わない形です。

 この中で日常で使われるのは「大嫌いなにんじんを食べさせられる」くらいではないでしょうか。


「サ行変格活用」は「される・させられる(介saない)」です。

 しかし「される」は「受身・尊敬・自発」などの「-aれる」の機能と同じなので、あいまいな表現になりかねません。使い方に気をつけましょう。


 このように「〜aされる」「〜aせられる」はかなり特殊な助動詞ということになります。ひとつの動詞に複数の属性を付けること自体に無理があるので、分けられるのなら二文に分かつべきです。





最後に

 今回は「ら抜き言葉・さ入れ言葉」について述べてみました。

 いずれも「日本語の乱れ」として国語調査の際に統計がとられる項目になります。

 しかし出版業界では依然として「ら抜き言葉」「さ入れ言葉」は禁止表現とされているのです。

「小説賞・新人賞」に応募している方は、絶対に「ら抜き言葉」「さ入れ言葉」をしないよう注意してください。

 推敲の段階でしっかりと確認して、漏れのないようにしましょう。

 できれば執筆の段階から書かないことが望ましいのですが、慣れるまでは推敲に頼りましょう。



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