509.飛翔篇:面白い物語を作るには

 今回は「面白い物語」についてです。

「誰に」「なにを」伝えたいのか。まずこれを決めます。

 そのうえで必要なのは「焦らし」と「急転直下」です。





面白い物語を作るには


 今回は予告どおり「面白い物語」の作り方です。

 ここでは私の発想法を明かすことにします。

 それが面白いかどうかは別問題ですが、他人の発想法を知ることで自分なりの発想法を思いつけるはずです。




誰に伝えるのか

 まず考えたいのが「誰に伝えるのか」です。

「小学生に伝えたい」のであれば、「児童文学」のような作品。

「中高生に伝えたい」のであれば、「ライトノベル」のような作品。

「社会人に伝えたい」のであれば、「大衆小説」のようなウケる小説。

「意識高い系に伝えたい」のであれば、「文学小説」が求められます。

 つまり小学生に「文学小説」を押しつけても需要はありません。

 逆に意識高い系に「児童文学」を与えてもろくに読みはしないでしょう。

 書き手としては、まずその乖離を自覚してください。

 恋愛小説にしても、男性的な人は「高嶺の花」を射止める作品が好きです。「俺はこんなに素晴らしい女性を手に入れた選ばれし者なんだ」という自己主張が強く出ます。

 対して女性的な人は「共感できる人」と一緒にいられる作品が好きです。「私のそばにいてよく話をしてくれていつも相談に乗ってくれる人と一緒にいたい」というシンパシーを優先します。

 渡航氏『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』(『俺ガイル』)の主人公・比企谷八幡は、「奉仕部」へ強制入部させられて「高嶺の花」雪ノ下雪乃と出会います。そしてある問題を解決することで「共感できる」由比ヶ浜結衣と出会うのです。

 男性的な人は雪乃ルートを思い描いているでしょうし、女性的な人は結衣ルートを思い描いているでしょう。

 だから『俺ガイル』は、ライトノベルの読み手「男女両睨み」の作品にして、不動の人気を得ました。

 まず「誰に伝えるのか」を決めること。

 たとえ爆発的に人気の出る「男女両睨み」にしたいと思っていても、当初はどちらか一方を想定すべきです。




なにを伝えたいのか

 小説は「なにを伝えたいのか」を婉曲に比喩した文章のことです。

 そうなんです。「伝えたい」ことを直接書かずに「伝える」芸術が小説になります。


 たとえば「初恋の人に会いたい」ということを直接書かず、「初恋の人に会う」ことをテーマにした小説を書けばよいのです。

 もし初恋の人に「会いたい」と書いてその人に会えたら、それはただの手紙でしかありません。これは小説でもなんでもないですよね。


 あなたの初恋の人は「○○さん」という名前かもしれませんがそれを「△△さん」に変えます。主人公の設定もあなたとは別の性格をした別の名前の人物にして、主人公と「△△さん」が偶然出会う物語を作るのです。

 そうすればそこからどんどん物語が広がっていきます。

 あなたが「初恋の人のどこに惹かれたのか」は書き手自身明らかなはずです。

 では「初恋の人はあなたのどこに惹かれるのか」を考えてみてください。相手があなたのどこに魅力を感じて気になっていたのか。これがわからなければ小説の書きようもありません。

 つまりあなたの「初恋」について書きたければ、あなた自身をプロファイルする必要があります。

 書き手であるあなたにはどんな特徴があるのか。他人から見て魅力的に思われるだろうこと、卑下されると思われるだろうこと。正負合わせてリストアップしていきましょう。


 私はマンガの桂正和氏『I”sアイズ』が好きなのですが、とくに主人公の設定に興味を覚えました。

 主人公の瀬戸一貴は同級生で「高嶺の花」の葦月伊織に惹かれています。ですが過去のある出来事により生み出された「逆走くん」という性質が飛び出してぶっきらぼうな態度をとり、伊織との仲はなかなか縮まりません。そうやって好きな人に気持ちを気取られなければ、好きでいることを続けていられる。そう曲解しているのです。しかしくじ運だったり級友のアシストだったりで少しずつ距離が縮まっていきます。

 そんなある日「共感できる」幼馴染みの秋葉いつきが現れるのです。一貴の過去を知り、「逆走くん」のことも理解しているいつきの存在により「三角関係」がスタートします。

 一貴の「逆走くん」という負の部分を巧みに利用して、伊織といつきと距離感を保とうとするのです。でも意中の異性である伊織が「逆走くん」にもめげずに歩み寄ってくれます。

 結果として一貴には告白のタイミングが数度訪れますが、「逆走くん」や突発事態などにより告白できずに時が経つのです。高校卒業を前にしてようやく告白に成功しますが、卒業後伊織は芸能プロダクションに入り、一貴は浪人生となりました。これでまた伊織が「高嶺の花」になってしまいます。


 こんな具合に、主人公の負の部分は物語の進み方をコントロールするうえで必要なことです。

 もし主人公が素直で好きなら「好きだ」とはっきり言う人だったら「俺、君のことが好きなんだ」とてらいもなく告げて、相手がそれに応える一瞬で、物語が終わってしまいます。

 書き手であるあなたがとても素直で好きなら「好きだ」とはっきり言える人だった場合、意中の異性のほうに負の部分を作りましょう。

 実は男勝りなところがあるとか、父親から「交際禁止」と言われているとか。「会いに行ける」アイドル・グループに入っていて「恋愛禁止」なんていうのも今ふうですね。

 ですが好きになった人のことを悪く考えるのはためらわれる方もいると思います。

 そういうときは、三人目の人物を出して「三角関係」に持ち込みましょう。


 マンガのまつもと泉氏『きまぐれオレンジ☆ロード』は主人公の春日恭介が転校する前日に、級友になる鮎川まどかと初めて出会います。のちの展開ではこのときから一目惚れ同士だったようです。しかし、まどかの後輩で妹分でもある檜山ひかるが、勘違いから恭介に魅力を感じます。若さゆえの猛アタックを開始するのです。まどかはひかるのことを思って、恭介と一定の距離をとろうとします。恭介もまどかの手前、ひかるを無下にすることもできず、「三角関係」が長く続くことになりました。

 もしひかるがいなければ単純な「ボーイ・ミーツ・ガール」ものですが、「三角関係」になったことで「ラブコメ」へと舵を切ったのです。


 このように「三角関係」になると、読み手に「ひいき」が生まれてきます。「俺はAさんのほうがいい」「僕はBさんのほうがいいな」という具合に。




ひいきを突き詰めるとハーレムになる

「ひいき」を利用して読み手を増やそうとして突き詰めていった結果が「ハーレム」なのです。

 七人の「ハーレム」であればキャラも七通りであり、「ひいき」にしたいキャラも七人の中から選ぶことになります。

 現在の小説投稿サイトの流行りにも「ハーレム」が反映されていて、「三角関係」や「純愛」よりも人気があるようです。

 私としては「純愛」や「三角関係」のほうに魅力を感じますけどね。

 こればかりは好みの問題なので、どれが正しいという正解はありません。

 アニメで「ハーレム」ものだとバンダイナムコエンターテインメント『THE IDOL M@STER』『アイドルマスター・シンデレラガールズ』やアスキー・メディアワークス&ランティス&サンライズ『ラブライブ!』『ラブライブ!サンシャイン!!』などが最近の好例でしょうか。

 とにかく女の子のパターンを細分化してキャラ付けし、いずれかのキャラが視聴者の誰かにヒットしてフォロワーになってくれれば大成功、というパターンです。

 ただし小説で「ハーレム」をするには、キャラの書き分けをかなり慎重にしなければなりません。どこかで表現がかぶるようでは「ハーレム」ではなく、「似た者同士の大所帯」でしかなくなります。

 ですので、これから小説を書こうとしている方は「純愛」か「三角関係」がオススメです。




面白い物語

 面白い物語は、「誰に向けて」「どんな人物たちで」繰り広げられるかが揃う必要があります。その条件は前掲しました。

 では面白い物語の本題に入ります。


 面白い物語とは「読み手の期待をよい意味で裏切る」物語だと言えます。

「よい意味で裏切る」とはなかなか難しいお題ですね。


 たとえば「意中の異性に告白できる大チャンスが訪れ、主人公も意を固めて告白しようとする。その口火を切ろうとした途端に携帯電話が鳴ってしまう」これだけで告白を挫けさせることができます。

「いいぞ、いいぞ、そのまま、そのまま……」と思わせておいて突発事態が起こるのです。タイミングはギリギリなところがいちばんよい。

 つまり普通の流れなら告白する部分を「告白」から「突発事態」に置き換えてしまうのです。

 これは物語の流れをすべて把握している書き手だからできること。

 とりあえずキャラだけ投入していろいろガシャガシャやって、人気が出てきたらその先の展開を考えよう、としている書き手には使えないテクニックです。

 反響が芳しくなければ早期に連載終了し、またキャラを変えていろいろガシャガシャやるだけ。これでは面白い物語が生まれるはずもありません。

 ここまでお話したのは「焦らし」のテクニックです。


 次は「急転直下」です。

 これまでと同じような展開になりそうだな、と読み手に思わせておいて、いきなり解決場面まで持ってきてしまいます。

 告白にたとえれば、何度も告白しようと思っていたところでいつも邪魔が入っていたのに、あるときすんなりと告白シーンまで素通りできてしまった展開です。

 そうなると主人公としては心の準備ができていません。でも相手は告白してくれるのを待っています。ここでひと息に告白すべきか、それともはぐらかすべきか。読み手の関心が一気に集まる状況です。もうワクワク・ハラハラ・ドキドキが止まりません。

 マンガ・北条司氏『CITY HUNTER』でも主人公・冴羽リョウとパートナーの槇村香はいつもいがみ合っていますが、ときどきすんなりと告白シーンまで素通りできてしまうときがやってきます。読み手がワクワク・ハラハラ・ドキドキする瞬間ですね。そのときたいていリョウがはぐらかして喜劇として終わります。でも連載最後のここ一番でリョウは香の存在を認めるのです。そして訪れる『CITY HUNTER』はこれからもあなたの心の中で続いていく、そんなラストシーン。実に見事な大団円だと思います。


「焦らし」と「急転直下」が物語を面白くする要素です。

「焦らし」は読み手の期待を高めるだけ高めたら透かします。

「急転直下」は読み手が想像もしていなかったタイミングで出すのです。

 このふたつを使いこなせば、より面白い作品が作れるでしょう。





最後に

 今回は「面白い物語を作るには」について述べてみました。

 面白い物語の大前提は「誰に伝えたいのか」「なにを伝えたいのか」をはっきりとさせることです。

 それを確定させたうえでストーリーを構築し、「焦らし」と「急転直下」を使い分けて、巧みに読み手を誘導していきましょう。

 それだけで読み手の期待値を高めることができますよ。



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