507.飛翔篇:小説を書けるようになる方法

 今回は本コラムのキモである「小説を書けるようになる方法」についてです。

 507回目まで伸ばす必要があったかはわかりかねます。

 ただし、ある程度の予備知識を持っていただいたほうが理解しやすいはずです。





小説を書けるようになる方法


 小説を書こうとする人は、自分の心の中に発生している世界や人物や物語などを形あるものにしようとしています。

 人は心にモヤモヤを抱えたままでは耐えられないようにできているのです。

 心のモヤモヤを体の外へ形として取り出すことでようやく心の安定を得ます。

 それによって体の外へ生み出されたもの。それが物語なのです。




映像を浮かべている領域

 人間は意識の中に映像を浮かべている領域があります。

 これは記憶力を持つ動物ならほとんどの動物が持っているようです。

 この映像を浮かべている場所をしっかりと意識できるかで 質のよい小説が書けるかどうかが決まります。

 私は高校生の頃まで、授業中にこの領域を動画で記録していました。

 そして試験になると該当する授業が脳内に動画で再生されて、答えや解き方を思い出すことがてきたのです。

 そのため得意科目なら95点を下回ることはいっさいありません。

 手術のため定時制高校に通ったのですが、東大の現役合格が目指せると入学当初より教師陣から期待をかけられていました。

 家庭の事情により大学へは進学できないとわかったときに、学校側を落胆させてしまいました。

 もう少し家庭の状況がよければ受けたかったですね。もし受けられたとしたら、高校の英語教師から苦手な英語を集中的に教えてもらいたかった。

 とまぁグチを吐きましたが、意識の中にある「映像が浮かんでいる場所」は確かに存在します。

「身長百七十センチメートル、中肉中背、赤髪、吊り目で金色の瞳、黒いブレザーを着た十七歳の少年」と書いたとします。

 これはただの箇条書きなのですが、あなたは頭の中でイメージを浮かべていたはずです。

「身長百七十センチメートル、中肉中背」は一般的な日本人男性の体型。

 そこから目を惹く「赤髪、吊り目で金色の瞳」の時点で頭と顔周りのイメージが浮かばなければ、あなたには小説を書くのはまだ早いと思います。

「そう言われると、確かに意識の中で映像化してしまっているな」と感じていらっしゃれば、あらゆる創作に向いている方です。

 映像が浮かんでいるわけですから、絵を描くのが最も才能を発揮できます。

 ですが、小説のように文字だけで表現しなければならない芸術であっても、意識の中に映像が浮かんでいる領域を有している人が誰よりも上に行けるのです。

 たとえば好きなアニメがあって、「あのシーンはたぎるよなぁ」とか「このシーンは泣ける」とかいう「場面シーン」を映像で憶えておられる方は多いでしょう。

 そういう「場面シーン」を意識に浮かべながら、それを文章で表現していける人は、小説を書いて読み手を納得させられます。




芸術は意識の中にあるイメージを具現化したもの

 どんな芸術も「意識の中にあるイメージを具現化したもの」でしかありません。

 マンガやアニメ、ドラマや映画、ゲームなども「こういう物語を表現したい」というモヤモヤとしたものがあるから生み出せるのです。

 イラストはその物語のいちシーンを切り取ったものですし、音楽はイメージのBGMであることが多い。

 かのルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン氏は二十代後半頃から聴力を失っていきます。四十歳頃に完全に聴力を失ったそうです。もし音を聴かなければ作曲ができないのだというのなら、聴力を完全に失った後に作られた『交響曲第九番』ほどの大作の誕生はどう説明すればよいのでしょうか。

 私は「たとえ耳から入ってくる聴力を失ったとしても、ベートーヴェンは頭の中にあるイメージの中から音程を捕まえて自在に鳴らせた」と解釈します。

 脳内イメージに焼きつくほど長い間音程を聴き分けてきたからこそ、それができたのでしょう。

 もし音程をそれほどこだわってこなかった人なら、聴力を失って作曲などできはしません。それができたとして世に現れたのが「現代のベートーヴェン」と自称した佐村河内守氏です。結局このウソはゴースト・ライターの新垣隆氏がカミング・アウトしたことによって白日のもとにさらされます。




小説が書けるようになるには

 小説も似たところがあります。

 脳内イメージに焼きつくほど長い間映像を文章化してきたからこそ、小説が書けるのです。

 どんなに頭の中でイメージがもやもやと浮かんでいたとしても、それを文章化できなければ小説の形にはなりません。

 小説が書けるようになるには、とにかく頭の中に浮かんだものをどんどん文章として体の外に吐き出していきましょう。

 最初は単語だけでもかまいません。


――――――――

 深夜、新幹線、東京駅、自分、恋人、山下達郎氏の『クリスマス・イブ』

――――――――

 四十代以上の方なら「あぁ、あのCMね」とわかりますよね。

 こんなふうに、まずはテレビCMを見て、単語を拾っていって箇条書きしていくだけでかまいません。

 繰り返していくと、単語と単語をつなげて文が作れるようになります。

――――――――

 深夜の東京駅、新幹線ホームに自分と恋人が抱き合って、山下達郎氏の『クリスマス・イブ』が流れている。

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 こんな感じです。


 テレビCMで慣れてきたら、NHKの朝ドラのワンシーンを文章化してみましょう。

 なぜNHKの朝ドラなのか。放送時間が十五分しかなく、その割に展開が比較的ゆったりとしているからです。

 ドラマに挑戦される方は、状況説明をしながら会話文を挿入していくか、会話文を拾いながら周辺状況を説明していくかしてください。前者は文学小説・大衆小説向き、後者はライトノベル向きになります。

 朝ドラができるようになったら、特撮やアニメに挑戦してください。どちらも放送枠は三十分で、CMとオープニングとエンディングを抜けば二十一分ほどなので朝ドラの次に取り組みやすいはずです。

 最初から「二時間サスペンス」を書きたいからそれに挑戦しようとするとすぐに挫折してしまいます。

 短い分量のものから始めて、慣れてきたら少しずつ長くしていく。

 けっして焦らないでください。

 短い分量も文章化できないのに、映画・新海誠氏『君の名は。』や映画・青山剛昌氏『名探偵コナン ゼロの執行人』の文章化に挑んでも必ず挫折します。


 原作に忠実であることが大前提ですが、ドラマと原作小説を対照しながら観て読むことを繰り返す方法もあるのです。イメージを文章化する方法が実際に目に見えてわかります。

 作品によっては「映画のノベライズ」という珍しい作品もありますから、そういうものを手にとって比較してみましょう。

 先述した『君の名は。』『名探偵コナン ゼロの執行人』はともに「映画のノベライズ」がされています。結城恭介氏『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』はアニメが先でのちにノベライズされました。ラスト以外ほぼOVAに忠実なノベライズです。


 アニメ化された原作小説を読む方法もあるのですが、アニメ化された際に改変や集約、追加や削除が行なわれることが多いため、「映画のノベライズ」ほどの学習効果は期待できません。

「映像が先」のほうが学ぶべき点は格段に多いのです。




文法は後回しでいい

 プロの書き手(小説家)は文法がしっかりしている。私は国語の授業で文法が弱いから、まずは文法を学んでから小説を書こう。

 そう思っている人は一生小説が書けません。

 プロの書き手は担当編集さんと校正さんがチェックしているから正確なのであり、実際にはそれほど文法に精通しているわけではないのです。

 文法は義務教育レベルもあれば小説としてまったく問題ありません。

 プロの書き手は文法で食べているわけではないのです。

 必要なのは「物語の面白さ」この一点あるのみ。

「物語の面白さ」は書き手が考えるしかありません。

 担当編集さんが提案してくることはあっても、物語を面白く書くのは書き手の才能になります。

 どんなに文章が拙くても、物語が面白ければプロになれるのです。

 文法は書き続けていけばいくらでも伸ばせます。

 語彙についても同様で、書き続けていけばいくらでも増やせます。

 しかし物語を作る能力は、ある程度「才能」が必要です。

 だから、どんなに文章が巧みでも、物語がつまらない人は成長の余地が少ない。

 もしあなたが今「文章が拙い」と「物語がつまらない」で悩んでいるとしたら。

 私は「まず面白い物語が作れるようになりましょう」と提案します。

 今回の「小説を書けるようになる方法」で、私は「文法」について触れていません。

 単語から文章を作るところまで、機械的に学習すること。

 それだけを述べています。

「面白い物語」を作れるようになるためにはどうするべきなのかについて。

 これは後日に回したいと思います。





最後に

 今回は「小説を書けるようになる方法」について述べました。

 頭の中にあるモヤモヤとしたもの、グルグルとしたものを、単語だけでもいいので紙に書き出してみてください。

 慣れてきたら、その単語をつなげて文を作ります。

 そして文をつなげて文章が書けるようになりましょう。

「文法」や「語彙」なんて気にする必要はありません。

 義務教育レベルの「文法」「語彙」で問題ないのです。

 あなたが磨かなければいけないのは、頭の中のイメージを文章化する能力と、面白い物語を生み出す能力になります。

「面白い物語」は次々回に掲載予定です。



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