502.飛翔篇:会話がキャラを立てる

 今回は「会話」主体の書き方についてです。

 ライトノベルの多くが「会話」主体で書かれています。

 それはキャラを立てやすいからです。

 ライトノベルは「キャラクター小説」とも呼ばれます。





会話がキャラを立てる


 会話のない小説を書いてみます。

 すると、ただ説明されているだけでちっとも面白くない作品が出来あがるのです。

 試しに読んでみましょう。




説明しているだけ

――――――――

 私はステージに立つ深雪さんをフロアから遠く見ているだけだった。

 彼女はロックバンドのホワイトナイトでキーボード兼ボーカルを担当している。今は宏一がメインボーカルの『エメラルドの瞳』を演奏しており、深雪さんは声を合わせている。

 その姿を見ていると、どうしても宏一に嫉妬心が湧いてしまう。宏一自身には恋愛感情自体がまったくないらしい。だが、深雪さんがそんな宏一に惹かれているのではないかと気が気でないのだ。

 すると突如演奏がやんだ。その静寂が観客の期待感を煽っている。

 そして始まる怒濤の爆音、ドラムの連打から宏一のエレキギターが滾るリードを爪弾き始めた。

 ホワイトナイトの新譜であり、本ツアーのメイン曲『セプテンバー・ラブ』だ。

――――――――

 この文章は楽しく読めたでしょうか。またあなたの心の中でキャラクターは立ったでしょうか。

 おそらく楽しくもなくただ淡々と読み、キャラクターは立たなかったと思います。

 なぜでしょうか。

 説明に終始しているだけだからです。

 これでは主人公の将人(私)に感情移入しようにも、他人事ひとごとすぎて感情移入できません。

 シーンの状況を読み手に伝えようとして、千もの文字を費やしても、ほとんど伝わらないことがあります。

 今回の作例のように、です。

 この文章の中に「会話」はいっさいありません。

 主人公の将人(私)の心の声もないのです。

 ただ感じて思って考えるということしかしていません。

 文学小説などの高尚な文章を書こうとして、できるだけ「会話文」を出さないように書く人が結構います。

 ですが、それでは楽しくもなく、ただ淡々と読み進めていくだけの流れ作業になってしまうのです。読んでいてもまったく面白くありません。

 お金を出して買った「紙の書籍」の場合、読み手にとっては拷問に近いのです。お代を払ったからにはそのぶん「楽しみたい」と思っていても、いっこうに「楽しく」なりません。「いつになったら楽しくなるのかな」と思いながら第一章を読み終えた。結局「楽しくなかった」のです。仮に八章立ての小説であったとしても、第一章でちっとも「楽しくなかった」作品をラストまで読もうと思いますか。私なら古本屋に売るか資源ごみの日に処分です。

 その点、小説投稿サイトに掲載されている作品であれば、すぐにWebブラウザの「戻る」ボタンを押せます。そしてその作品は二度と読まれないでしょう。

 ただ説明すればいいというものでもないのです。

 あなたが高尚だと思っている作品は、ただ説明しているだけでしょうか。

 おそらく違うと思いますよ。




会話が描写を生む

 では場面を変えて、今度は会話だけで書いてみましょう。

――――――――

「深雪さん。プラネタリウムは初めてですか?」

「ええ、そうなんです」

「この狭い空間に満点の星空を投影するんですよ」

「満点の星空ですか。ライブはいつも地方で箱が小さいから、東京よりも多くの星々を見てきたんですよね」

「このプラネタリウムはそれの何百倍も多くの星が見えるんですよ」

「うわ〜、楽しみです。将人さん」

――――――――

 今度は会話だけで説明をいっさい省きました。

 ではこの文章を見て楽しく読めたでしょうか。キャラクターが立っていたでしょうか。

 おそらく多くの方が、楽しく読めたし、将人と深雪のキャラクターが立ったと思います。

 ではなぜ会話を読むと「楽しめる」のか。「キャラクターが立つ」のか。

 会話の一文を読めば「どんな性格の人なのか」「相手との距離感は」「どんな場所や状況で話しているのか」が透けて見えるため、「キャラクター」はすぐに立ちます。

 では「楽しめる」かどうかです。おそらく「説明」だけのときよりも「楽しめた」はずです。

 会話から場所や状況の情報を得ているので、特段地の文で場所や状況を書かなくてもある程度通用します。ここでは「プラネタリウムの中にいる」ことがわかるでしょう。

 ですが、どんなプラネタリウムかわからないと思います。大きさは「狭い空間」ということでそれほど大きくなさそうですが、場所がわかりませんよね。デパートの屋上に設置されているケースもありますし。

 また深雪と将人の服装がわかりません。浴衣を着ているのかタキシードとドレスなのか。Tシャツにジーンズ姿なのか。

 せっかくの会話ですが、表情がわからないのも弱いところだと思います。

 主人公の心の中もわかりません。そもそも深雪と将人のどちらが主人公なのでしょう。そこからしてわかりません。

 そういった「語り落とした」ところを説明していくのです。そうすればキャラクターも立っていて楽しめつつ、周辺情報を受け取って場面シーンが明確に思い浮かべられる文章になります。




会話に説明を加える

 そこでまず主人公を将人にして、ふたりとも浴衣を着ている。街中にあるプラネタリウム館に入って星空を楽しむ。という場面シーンにしてみましょう。

――――――――

「深雪さん。プラネタリウムは初めてですか?」

 隣りに座っている浴衣を着た彼女の顔を覗き込んだ。

「ええ、そうなんです」

 あいかわらず輝きわたる顔立ちだ。心なしか上気しているように見える。これからなにが起こるのか、楽しみにしているようだ。

「この狭い空間に満点の星空を投影するんですよ」

「満点の星空ですか。ライブはいつも地方で箱が小さいから、東京よりも多くの星々を見てきたんですよね」

 都心部にある有名なプラネタリウム館だが、訪れたのは今日が初めてである。しかし事前にインターネットで検索した、評価の高い施設だ。

「このプラネタリウムはそれの何百倍も多くの星が見えるんですよ」

「うわ〜、楽しみです。将人さん」

 一億以上の星が投影されるという触れ込みのプラネタリウムで、私も楽しみで仕方がない。

 場内は涼しく、浴衣を着ていてちょうどいい温度設定になっているようだ。

 すると場内アナウンスが流れ、照明がゆっくりと落ちていった。

――――――――

 会話だけのキャラクターが立って楽しめる文章に、説明と描写を随所に入れることで情報を読ませています。

 どうでしょうか。

 会話だけよりも情景が浮かんできませんか。

 それでいて説明だけよりもキャラクターは立っていますし楽しめるはずです。


 このように、会話だけの「セリフ集」に説明を随所に入れることで「場面シーン」が描写できました。

「小説の書き方がわからない」「読ませる文章を書くにはどうすればいいのか」という方は、まず「セリフ集」を書き起こすことから始めてみてはいかがでしょうか。

「セリフ集」から地の文を書くのは比較的容易にできます。

 難しいことを「無し」にして小説を書きあげるには「セリフ集」から始めるのが一番です。





最後に

 今回は「会話がキャラを立てる」ことについて述べました。

 会話を使いこなせば、「どんな性格か」「どんな感情を抱いているか」などを地の文にあえて書く必要がなくなります。

 ですが、すべてを会話だけで書いたのでは、周りの状況や服装、見たことをどう感じたかなどがわかりません。

 そこを説明や心の声で補足していくスタイルをとれば、ライトノベルでお馴染みの文体が出来あがります。

 文学小説や大衆小説を目指すときは、逆に説明の中に会話を加えていくスタイルをとってください。

 なにをもって登場人物のキャラクターを立てるのか。その違いがライトノベルの特殊性を表しています。会話中心のスタイルこそが中高生でも物語を楽しめるライトノベルならではの文体なのです。

 ですから「文芸大賞」のような小説賞へ応募するときは、説明の中に会話を加えていくスタイルをとることをオススメします。



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