499.飛翔篇:なんのために書けるようになりたいのか

 今回が499回目の連載となります。

あなたはなんのために小説が書けるようになりたいのか」は今後のモチベーションを左右するのです。

 標題を含めて「デビューして印税生活」「計算から外れてみる(不確定要素を放り込む)」の三本立てでお送りいたします。





なんのために書けるようになりたいのか


 連載も500回に迫ろうとしている今になって、改めて問います。

 あなたは「なんのために小説が書けるようになりたい」のですか。

 私は「自分の頭の中でこさえた人物を活躍させる場所が欲しい」から「小説が書けるようになりたい」のです。かなり特殊な部類に入ると思います。

 多くの方は「小説を書いて出版社から『紙の書籍』が発売される。できれば印税で生活できるようになりたい」からではないでしょうか。




稼げなくても私は書く

 その意味で、私は稼げなくても「ストーリーテラー」であればよいと思っています。

「真面目」「冷静」「命懸け」の三つをひとりのキャラクターに割り当てると、どのような人物になるのか。

「情熱家」「楽天的」「秘密主義」の三つをひとりのキャラクターに割り当てると、どのような人物になるのか。

 私はこのような人物たちを頭の中で生み出し続けています。

 そして彼ら彼女らが接触すると、どのようなドラマが生まれるのか。

 夜布団に入って寝入る前にかなり壮大なシミュレーションを行なっているのです。

「キャラクターが立つ」までシミュレーションは続きます。

「キャラクターが立った」人物を確定させて、さらに新しいキャラクターを生み出しては確定キャラとの絡みを連想していくのです。

 この作業が殊の外面白くて、毎晩のルーチンワークとなっています。

 そしてさらに「キャラクターが立った」人物が集まって、なにか別の出来事を起こしてみる。

 そのときどんな物語が展開されるのかもシミュレーションしています。

 こちらは「矛盾」が発生しないように計算しなければならないため、さらに高度な連想力が必要です。

 これをひとまとめに言ってしまえば「妄想癖がある」ということになりますね。

 小説が書けるようになれば「妄想」が形になって残るのです。

 たとえ私が記憶をなくしても、死んでしまっても、「妄想」は生き続けます。

 だから「小説が書けるようになりたい」のです。


 とまぁ、私の動機を披露してみましたが、特殊すぎてなんの参考にもならなかったと思います。

 次節では皆様お待ちかねの「印税生活」が目的の場合です。




デビューして夢の印税生活

 夢は大きいほうがいいので、「出版社に声をかけてもらって『紙の書籍』を出版する。その印税で暮らしたいから小説が書けるようになりたい」という方は、ぜひ夢に向かって歩み続けてください。

 目的が明確ですから、自ら判断基準を用意しています。

「この書き方だとキャラがブレてしまう」とか「ここでこの人物が前に出てくるのは性格的に無理があるのでは」とか、計算しながら何度も短編小説を書いてみてください。

 私のような「妄想癖」があるといいのですが、こればかりはその人の個性が関係してきます。

 ですので「企画書」「あらすじ」の段階から緻密に計算して、人物が持つキャラクターをじゅうぶん活かして物語を展開してみてください。

 最初はあけすけな物語になってしまうことでしょう。

 しかし何度も書き続けることで、計算にうまくハマった小説が書けるようになります。

 まずは計算しながら書いてみましょう。




計算から外れてみる

 計算して書いた小説というのは、それ以上広がりようのない狭い世界での展開になってしまいます。

 読み手も「ダイナミズムに欠ける」と感じるでしょう。

 そこで計算して小説が書けるようになったら、その計算に不確定要素を放り込んでください。

 すると書き手の想定を超えるような起伏の激しい展開が広がっていきます。

 その「制御が困難な物語」こそが「ダイナミズムがある」小説なのです。

 たとえば「本当はBさんのことが好きなA君」と「本当はA君のことが好きなBさん」のお話を作ろうとすると、純愛一直線で「ダイナミズムに欠ける」作品になってしまいます。

 そこで「あからさまにA君のことが好きだと近づいてくるCさん」という不確定要素を放り込んでみましょう。

 すると「ただの純愛小説」が「三角関係の小説」へと変化し、書き手本人もどのような到達点にたどり着けるのか想像できなくなります。

 そうなるとA君はBさんにふらふらといったり、Cさんにふらふらといったりという具合に優柔不断になってしまいます。

 もしA君がきっぱりと一本筋の通った人物で「頑なにBさん一筋」でいる場合、Cさんとの絡みはCさんの誘惑を断り続けるという通り一遍の物語にしかなりません。

 そこで書き手は、A君がたまにはCさんの誘惑に乗らざるをえない状況を作り出して、A君の心の天秤を揺り動かそうと計らうのです。

 そんな場面を見たBさんは、A君の行動をやきもきしながら見ることになります。

 もしBさんも揺るがない立ち位置で「頑なにA君一筋」でいる場合であっても、当のA君がCさんと仲良くしているというのは面白くないですよね。

 ここではCさんという人物を不確定要素として放り込みましたが、たとえば猫を放り込んでみるのも「あり」です。

 猫嫌いのA君と猫好きのBさんとの純愛小説は、猫を媒介にして多様性に富んだストーリー展開が見込まれます。

 A君は意中のBさんが猫好きだからなんとか猫嫌いを治したいというのも、ひとつのエピソードになるのです。逆に猫好きのBさんは意中のA君が猫嫌いだからなんとかして猫との絆を断ち切ろうとするいうのも、またひとつのエピソードになりえます。

 そしてふたりが互いに努力した結果、猫嫌いを克服したA君と猫好きを断念したBさんとの人間関係に様変わりするのです。そこに猫が現れることによってふたりの反応が以前と異なることに双方が気づく。お互いがなぜだろうと考えていくと、自分に合わせてくれたのかと合点がいってふたりの仲が急接近するかもしれません。

 これは「計算」で「あらすじ」を書いただけでは生み出すことのできない展開です。

 皆様に目指していただきたいのが、この「不確定要素を放り込む」ことになります。

 計算だけで小説が書けていた方でも、「不確定要素」が入り込んでくると物語や人物の行動を制御するのが難しくなるのです。その結果として「キャラが勝手に動く」ようになります。

 以前にも「キャラが勝手に動くのか」については述べてきましたが、そのときは「人物設定を粗く作る」ことを推奨しました。

 今回の上級篇では「がっちり固めた人物設定」に予期せぬ「不確定要素」を放り込むことで「キャラが勝手に動く」ようにするのです。

 難易度は格段に高くなりますが、精緻な作品で「キャラが勝手に動く」には「不確定要素」が不可欠だといえます。

 たとえば「純愛小説」だと思っていたら、ふたりでUFOを発見してしまうという出来事が起こる。これだけでただの「純愛小説」とは一線を画す作品が生み出されますよね。

「青春小説」「スクールラブ」ものだと思ったら主人公の女の子が「タイムリープ」してしまったとしたら。ただの「青春小説」「スクールラブ」にはなりませんよね。筒井康隆氏『時をかける少女』がこの発想から生み出されました。

 文通による「純愛物語」で主人公が宇宙船に乗って地球から離れていってしまうという出来事が起こったとしたら。ただの「純愛物語」にはなりませんよね。新海誠氏『ほしのこえ』がこの発想から生み出されました。


 計算して生み出した「あらすじ」に「不確定要素」を放り込んでみるだけで、斬新な作品が創り出せるのです。

「自分の書く小説はなんか面白みに欠けるな」「読み手のウケが悪いな」と思ったら、「不確定要素」を放り込んでみてください。

 そこから生まれる物語は、確実に斬新な作品となりますよ。





最後に

 今回は「なんのために書けるようになりたいのか」について述べてみました。

 多くの方は「出版社から『紙の書籍』を出して夢の印税生活」を思い浮かべていると思います。

 ですがそれができるのはほんの一部にすぎません。

「計算」で生まれる物語は単一化しやすい欠点があります。

 他の書き手とは一線を画す「なにか」がなければなりません。

 私はそれを「不確定要素を放り込む」と表現しました。

 他の言い方もできると思いますが、「妄想癖」の私には「計算」で書く人の意志を明確に把握できません。

「妄想癖」が傍から見ると「不確定要素を放り込む」ように映るのです。



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