498.飛翔篇:書き出しと締めの呼応

 今回は「書き出し」と「締め」の呼応についてです。

「書き出し」に苦労するようなら、先に「締め」を書いてみて、それに呼応する「書き出し」を書いてみたらどうでしょうか。

 太宰治氏や芥川龍之介氏の作品にも呼応が見て取れます。





書き出しと締めの呼応


 小説を書くとき、「書き出し」に苦労しますよね。

 それなら先に物語の「締め」を書いてみてはいかがでしょうか。

 そして「締め」と呼応するような「書き出し」を書くのです。




書き出しと締めのリンク

 中級までは「書き出し」だけをあれこれ考えていました。

 上級の書き手は、物語の「書き出し」と「締め」を呼応させます。

 上級になれば「締め」とリンクするような「書き出し」が書けるはずです。

 密接な関係にあればこそ、物語に一本筋が通ったようになります。


 太宰治氏『走れメロス』は「メロスは激怒した。」という「書き出し」が有名です。

 では「締め」を憶えている方はいらっしゃるでしょうか。

「締め」は「勇者は、ひどく赤面した。」です。

 文が見事にシンクロしていますよね。

 実はそれだけではなく、ある点が呼応しています。

 それは「暴君ディオニス」が出てくる点です。

「書き出し」では「必ず、かの邪智暴虐の王を除かなければならぬと決意した。」という形で登場しています。

「締め」では「メロスとセリヌンティウスの友情」を眼の前で見せつけられて、ディオニスが自分も仲間に入れてほしいと懇願してきます。

 暴君の変化もこの物語の見どころのひとつです。


 芥川龍之介氏『蜘蛛の糸』では、「書き出し」が「或日の事でございます。御釈迦様は極楽の蓮池のふちを、独りでぶらぶら御歩きになっていらっしゃいました。」で始まります。

「締め」は「極楽ももう午に近くなったのでございましょう。」です。

「極楽」で始まって、「極楽」で終わっています。

 また「そのまん中にある金色の蕊からは、何とも云えない好い匂が、絶間なくあたりへ溢れて居ります。」という一文が冒頭の一節と締めの一節に登場しているのです。

 つまり「書き出し」と「締め」が見事に「呼応」しています。

 ここまで綺麗に「呼応」していると少し怖いような気がしないでもありません。

 そこに芥川龍之介氏の才能を見ることができます。


 このように「書き出し」と「締め」は呼応させるべきなのです。

 だからこそ物語がひとつにまとめ上げられるのです。

 とくに短編の『蜘蛛の糸』が「極楽」で始まって「地獄」で終わっていたら、場所が移動されているので物語としての一貫性に欠けてしまいます。

 着地点が先にわかっているから、「書き出し」をあれこれ悩まずに済むのです。

 おそらく『蜘蛛の糸』は、着地点の「締め」を書いてから「書き出し」を書いたと思います。

「書き出し」から書いてあの「締め」をしたのであれば、相当悩んだことでしょう。

 短編と中編の天才・芥川龍之介氏をもってしても、「書き出し」と「締め」の呼応には苦慮していたようです。

 まして素人で凡才の私たちは、明確に意識して呼応させないと、据わりの悪い作品が出来あがってしまいます。




オチから始まる物語

 物語を考えるうえでたいせつなのは、「どんな締め方をするか」です。

 書き始めるより前に「締め方」を決めておく。

 とくに長期連載を予定している場合は、先に「締め方」を決めておかないと「書き出し」で必ず悩みます。

 短編やショートショートでは、より「締め方」が重要です。

 短い物語できちんと「オチ」をつける。

「オチ」が先に決まっていないと、どういう「前フリ」をしてよいのかわかりません。


 お笑い芸人たちも、必ず「オチ」を先に決めています。

 最初に「オチ」に向けた「前フリ」をしておくのです。そこから脱線して話を展開し、徐々に軌道修正して最終的に「オチ」をつけて終わります。

「だから出だしでああいうことを言ったのか!」と思わず納得して膝を打つのです。

 とくに漫談に定評があるお笑いコンビのナイツは、必ず「出だし」と「オチ」がつながっているネタを持ち芸にしています。

 だからハズレネタがほとんどありません。


 ショートショートでいえばやはり星新一氏の作品が見事です。

 こちらも「出だし」と「オチ」が見事にリンクしています。

 すべての作品を読んではいないのですが、読んだ作品は皆華麗な「オチ」をつけているのです。

 これも「書き出し」から書いたのではまず書けません。


「オチ」を先に決めておけば、そこから逆算して「話の展開」の仕方、そして「書き出し」までを決めることができます。

「オチ」から考えることで、筋道が明らかになるのです。

 もし「オチ」のない物語を書こうものなら、読み手から「だからなに?」と言われてしまいます。

 ショートショートほど短ければ、どれだけ「オチ」を綺麗に決めるかが勝負です。

 長編小説や連載小説も、「オチ」をきちんとつけることで印象を強くすることができます。

「小説賞・新人賞」を狙う書き手の皆様も、できるかぎり「書き出し」と「締め(オチ)」をきちんとリンクさせましょう。

 受賞に近づくためには、話の一貫性を徹底することです。




目標から逆算する

 これは人生にも言えます。

 達成したい目標がある場合、まず目標を決めておき、そこを達成するには「この関門」を通過しなければならない。「この関門」までたどり着くには「その関門」を通過しなければならない。

 という具合に、「目標ゴール」を先に決めて、都度通過点を設定します。そして現在まで通過点を設定できたら、現在から最初の通過点を通るように実行するよう努力するのです。

 次々と通過点を通っていけたら、自然と「目標ゴール」までたどり着けます。

 将来的に「プロの書き手」になりたければ、「小説賞・新人賞」を獲ることを目標に据えましょう。

「小説賞・新人賞」を獲るためには、まず佳作・入賞することを目標にするのです。

 佳作・入賞するには、「紙の書籍」の仕様フォーマットを身につけるべき。

 そして物語に一貫性があるかどうか。つまり「書き出し」と「締め(オチ)」のリンクを意識しましょう。

 あとは、その物語が面白いのかどうか。設定されている「テーマ」はなにか。つまり中身が問われます。





最後に

 今回は「書き出しと締めの呼応」について述べてみました。

「書き出し」に思い悩むなら、まず「締め(オチ)」を決めましょう。

 すると「書き出し」は「締め(オチ)」と呼応リンクするように書けばよいことがわかります。

 それがベストな「書き出し」となるのです。



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