490.飛翔篇:よいつかみとは

 今回は「よいつかみ」についてです。

 小説を書き出したはよいものの、読み手の心をうまくつかめない作品が多い。

 小説投稿サイト最大手『小説家になろう』でも、五回くらいまで連載しているのにブックマークが一件も付かない作品がほとんどです。

 それは「よいつかみ」ができていないからです。





よいつかみとは


 小説はとにかく「つかみ」が重要です。

 うまく読み手の心をつかめなければ、冒頭だけ読んで「回れ右」して帰っていきます。

 それではブックマーク数も増えませんから、ランキングにも載らずに多くの人に知られないうちに埋もれていくのです。

 ではどんな「つかみ」がよいのでしょうか。




どんな作品かをアピールする

 あなたの小説はどんな作品ですか。

 恋愛小説、推理小説、英雄譚、冒険譚、空想科学(SF)小説、ファンタジー小説などなど。

 ライトノベルだからといっても、ライトノベルはジャンルではありません。

 ライトノベルは恋愛小説、推理小説、英雄譚、冒険譚、空想科学(SF)小説、ファンタジー小説などを中高生に向けてかるく読めるようにした小説群のことです。

 小学生の頃に学校の図書室にこんな小説はありませんでしたか。

 サー・アーサー・コナン・ドイル氏『シャーロック・ホームズの冒険』シリーズ、モーリス・ルブラン氏『怪盗ルパン』シリーズ、江戸川乱歩氏『少年探偵団』シリーズといった推理小説。

 アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ氏『星の王子さま』、ジュール・ヴェルヌ氏『十五少年漂流記』、ジョナサン・スウィフト氏『ガリヴァー旅行記』といった冒険譚。

 他にもいろいろあると思いますが、これらは小学生が読んでもわかるように翻訳された小説たちです。

 成年が読むために翻訳された版も別にありますから、これらの小学生が読む「児童文学」は、中高生が読む「ライトノベル」にきわめて近い存在だといえます。


 あなたの作品がファンタジー小説であったと仮定します。

 このとき「書き出し」を含めた冒頭で「この作品はファンタジー小説ですよ」と読み手に教えてあげましょう。

 なにも「この作品はファンタジー小説である。」と書くように言っているわけではありません。

 現実世界とは異なることを早期に読み手へ知らせる必要があるのです。


 ちょっと脱線します。

 厳密には「空想科学(SF)小説」も「ファンタジー小説」もジャンルとは言いがたいのです。

 舞台が近未来、遠い未来、予測される未来、空想上の未来といった世界であればなんでも「空想科学(SF)小説」になります。

 だから「近未来」を舞台にした「恋愛小説」は、 「空想科学(SF)小説」にもなりますし「恋愛小説」にもなるのです。

 アニメ映画の新海誠氏『ほしのこえ』は「空想科学(SF)」の世界で「恋愛」をテーマにしていましたよね。

 舞台が異世界や現実に近い少し変わった世界であればなんでも「ファンタジー」です。

 だから「異世界」を舞台にした「グルメ小説」は、「ファンタジー小説」にもなりますし、「グルメ小説」にもなります。

 犬塚惇平氏『異世界食堂』が「ファンタジー」の世界で「グルメ」をテーマにしていましたよね。

 だから「空想科学(SF)小説」も「ファンタジー小説」も、ジャンルというより小説の「舞台」を指しているに過ぎないのではないでしょうか。


 話を戻します。

 もしあなたが書いた作品が「異世界」を舞台にした「青春小説」である場合。

 読み手にまずここが「異世界」であることと、キーになる登場人物を出し家族関係や友人関係の構図を示すなどして「青春小説」であることを示すのです。

 たとえば小説の「書き出し」から程なくして「小妖精が飛び交っている」と書けば、読み手は「あ、この小説は異世界ファンタジーなんだ」と理解してくれます。

 そして「粗暴な父親と虐げられる母親、洒脱しゃだつな兄」といった人物を初回投稿に話だけでも出すことで人間関係が中心の「青春小説」なんだなと読み手に思わせられるのです。

 ジャンルが明確に示されれば「つかみ」としては及第点になります。




先々の展開を暗示する

 そして「この作品を読むとこんないいことがありますよ」という提案を盛り込みましょう。

 一般には作品の「キーワード」に「ハッピーエンド」「ざまぁ」と入れるようなものです。

 ですが「紙の書籍」化されたときのことを考えてみましょう。

「キーワード」に「ハッピーエンド」「ざまぁ」を入れたから本文では冒頭からそれに触れなくてもいいや、とは考えられないですよね。

 作品の冒頭でジャンルを提示して「つかみ」をしっかりやったと思います。

 そうしたら、この物語は「ハッピーエンドになりそうだ」、「ざまぁになりそうだ」という前フリを初回投稿で必ず入れるのです。

 そうやって読み手の期待を煽って惹きつけます。

 準備を整えて連載を始めたのに初回切りされてしまう作品の多くは、この「○○になりそうだ」という前フリがほとんどないのです。

 これはちょっともったいないなと思います。

 悲劇的な最期を迎える勇者譚を書きたいのに、のほほんとしたなんの惹きもない「書き出し」にしてしまうと、読み進めていくごとに読み手の期待と書き手の意図に乖離が生じてきます。


「キーワード」に書いてあるからといって、本文で書かなくていいわけではありません。

 初回投稿で「ハッピーエンド」なのか「ざまぁ」なのか、方向性だけでいいのでしっかりと本文中で匂わせましょう。

 そうすれば「この状況からハッピーエンドになるのか」「この状況からざまぁになるのか」と読み手は興味を持って読んでくれるようになります。

「キーワード」はあくまでも検索の釣り針に引っかかるための金具に過ぎません。

 本文とは別物です。

 そこに留意すれば、初回投稿から本文中に「ハッピーエンド」「ざまぁ」の要素を匂わせる必然性がわかるのではないでしょうか。





最後に

 今回は「よいつかみとは」について述べました。

 小説投稿サイトに掲載した作品の「タイトル」と「あらすじ」「キャプション」でどれだけ読み手の興味を惹いても、肝心の本文の「書き出し」がいまいちではダメです。

 閲覧数(PV)こそ高まりますが、たいてい一投稿回ぶんで見切られます。そうなるとブックマーク数が伸びません。

 短編小説の場合は「評価」も付きますから、本文で「よいつかみ」をしているかどうかはすぐに判断できます。

 連載小説の場合は、ブックマーク数の伸びが「よいつかみ」をしているかの指標となるでしょう。

 どんなジャンルでどんな物語なのか。「ハッピーエンド」や「ざまぁ」なら本文もそれ相応の「書き出し」でなくてはなりません。

「キーワード」「タグ」に「ハッピーエンド」「ざまぁ」と書いたから本文に書かなくてもよいというものではないのです。

 小説はあくまでも本文を読んだだけで感想が書けるようにしましょう。



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