475.飛翔篇:プロは好きな作品を書けない
今回は「プロの書き手に突きつけられる現実」についてです。
最初の連載は小説投稿サイトの掲載作であることが多いと思います。
では次の連載はどうでしょうか。あなたの思い入れのある作品を連載できるのでしょうか。
「プロの書き手」になると突きつけられる厳しい現実を認識して、出版社と契約しましょう。
ですが「一発逆転」もありえるので、あきらめなければ思い入れのある作品を書くチャンスは巡ってきますよ。
プロは好きな作品を書けない
「紙の書籍」になるような当たり作を有する書き手が、Web小説とくに小説投稿サイトから多数輩出されています。
一説によると最大手の『小説家になろう』だけでも四桁の方がいらっしゃるそうです。
彼ら彼女らは、小説投稿サイトで開催されている「小説賞・新人賞」へ応募し連載していた作品が出版社の編集さんの目に留まり、将来性を買われて「紙の書籍化」されています。
しかしいつまでも最初の連載小説を書き続けることはできません。
売れない小説はすっぱり終了
出版社という稼業は「売れてナンボ」のまっとうな商売です。
売れなくなった連載小説をその後も書き続けさせるような、理に適わないことはしません。
潔く書き手に連載を畳ませます。
書き手の意志なんて関係ないのです。
出版社は社員を養うためにも、利益を出さなければなりません。
だから「売れない」と見切った作品は容赦なく「肩たたき」します。
「あと二回で終了してください」という具合に。
それまで「紙の書籍化」で浮かれていた書き手ほど、つらい目を見ます。
「肩たたき」で「あと二回で終了」と言われたら、きちんと二回で連載を終了させてください。
もし二回で読み手が満足する終わらせ方ができないと、それまで書き手を応援していた読み手がいっせいに批判してきます。
「なんでこんな終わり方なんですか。納得いきません」「こんな唐突な終わり方はいかがなものでしょう」など、言い方は異なりますが「なんでこんな終わらせ方をするかな」と言ってくるのです。
「立つ鳥跡を濁さず」と言います。
連載は、すべての伏線を回収して満足の行く綺麗な形で終了するのが一番です。
もし読み手からクレームが来るような終わらせ方をすると、二作目はないかもしれません。
あと二回のチャンス
これまでに読んできたさまざまな書籍の話を総合すると、出版社はだいたいあと二回ほど「紙の書籍化」のチャンスをくださるそうです。
その二回で結果を残せなければ契約満了をもって「プロ」の看板を降ろされます。
しかしこの二回がクセモノなのです。
まず書き手には「どんな物語が書きたいか」の案、つまり「企画書」を担当編集さんに提出する義務が生じます。
そのうえで編集さんが「これで行きましょう」と言ってくれればいいのですが、そんなことはまずありません。
なぜなら、あなたが書きたいように書いてきた前作が不評を買って連載終了の憂き目を見たのです。
そんなあなたにだけ「企画書」を任せたら、また早期の連載終了となるのは目に見えています。
だから二作目は担当編集さんが「企画書」の段階から積極的に口出しをしてくることになるのです。
あなたが書きたい小説、「紙の書籍化」したい小説があったとします。
それを「企画書」にして提出しても、担当編集さんが「それではダメです」と言えば「紙の書籍」にはなりません。
つまり書きたい小説を書かせてもらえないのが「プロの書き手」なのです。
書きたい小説を書かせてもらえない
「プロの書き手」になるということを履き違えないでください。
「好きな小説を書いて夢の印税生活♪」はまずありません。
「プロの書き手」は、担当編集さんが「この企画書で行きましょう」と同意してくれた作品を書かせられます。
書き手の主義主張なんてあってないようなものです。
とくに書きたい物語ではないけど、食べていくためには「書かなければならない」という状態に陥ります。
つまり「好きな小説を書いて夢の印税生活♪」なんて虫のよいことがありはしないのです。
小説の文章を書くのが好きで、他人から物語の外枠を提示されても読み手を楽しませられる小説が書ける人。
それが「プロの書き手」なのです。
「書きたい小説」を「書かせてもらえない」もどかしさを抱えながら、自分以外の人から提案された物語を文章化していく。そして読み手をじゅうぶんに満足させる作品に仕上げなければならない。
かなりマゾヒスティックな作業ですよね。
厳しい現実を受け入れてください。
書きたくもない物語を、読み手が喜ぶレベルで書ける人が、本物の「プロの書き手」なのです。
「書きたい小説を書かせてくれないのなら、契約解除で結構!」と思うのであれば、契約を解除してまた一から小説投稿サイトの「小説賞」を狙ってください。
あなたはそれでも「プロの書き手」を目指しますか。
あなたが書きたい小説を書かせてもらえず、他人から「こういう小説を書いてね」と言われ、喜んで他人発案の物語を書いて作品にしていく。
やはりマゾヒスティックとしか言いようがありません。
一発逆転は訪れる
マゾヒスティックな現実を受け入れて、佳作を連発していく。
とても厳しい道のりですが、忍耐力次第でやってやれないことはありません。
出版社の、担当編集さんの言いなりになって、奴隷のように文章を書かせられるのです。
そうやって着々と実績を積み上げていけば、いつか唐突に一発逆転のチャンスが訪れます。
それは今の出版社からかもしれませんし、他の出版社からかもしれません。
「次はあなたの書きたい小説を書いてみませんか」と打診を受けることがあるそうなのです。
この提案をされたら、出版社と書き手の力関係が逆転するきっかけとなります。
これで実績が残せたならば、それ以降あなたが書きたかった物語を書けるようになるのです。
田中芳樹氏は当初『銀河のチェスゲーム』という小説を書きたかったのですが、担当編集さんに「企画書」を見せたとき「この年表のこの時期を小説にしてくれたら出版しますよ」と言われました。
そうして書かせられた小説が『銀河英雄伝説』なのです。
『銀河英雄伝説』は担当編集さんが書かせた物語でした。
それでも田中芳樹氏は腐らずに『銀河英雄伝説』を見事に書き切って実績を積み上げたことにより、抜群の知名度を手に入れました。
これにより「あなたが書きたい小説を書いてみませんか」と引く手数多。以後多くの著作が世に顕れることになったのです。
だから「自分の書きたい小説を書かせてもらえない」と嘆くよりも、現在「紙の書籍にしてもらえる」作品に渾身の力を込めて、最後まで書きあげてください。
魂の籠もった作品であれば、読み手の心を打ちますし、担当編集さんや他社さんもあなたを見直します。
この書き手は担当編集さんの言うことを聞き入れて、ここまでの作品にできる書き手なんだ。
そう思わせられれば、一発逆転はいつ起きても不思議ではないのです。
短期的に見て「なんで自分の書きたい小説を書かせてもらえないのか」と嘆かず、長期的に見て「他人のアイデアからでも高レベルの作品が生み出せる書き手として認められる」ことを第一に執筆してください。
担当編集さんの指示が的確であれば、二作目からでも一発逆転は可能なのです。
たとえ不本意でも、何作かは担当編集さんの指示に従って小説を書き、ヒットさせることを目指しましょう。
最後に
今回は「プロは好きな作品を書けない」ことについて述べました。
世の小説指南書の類いでは、「プロの書き手」になることをゴールに設定しているものが多いのです。
しかし本当に力が試されるのは「プロの書き手」になってから「二作目」だと思います。
書き手が担当編集さんの言いなりになって小説を書く。
こちらから「企画書」をいくつも作って編集さんに渡し、その中から「これをこう変えて書きましょう」と提案されたものを実際に執筆していきます。
こちらが書きたいものとは異なる、甚だ不本意な作品だと思いますが、必ずヒットさせてください。
そのつもりで書かなければ次へつながりません。
もし「二作目」がダメでも、「三作目」までは面倒を見てくれる出版社が多いそうです。
ですが「三作目までは」と思っているうちは実績を残せません。
是が非でも「二作目」をヒットさせてください。
それが田中芳樹氏に続く唯一の道なのです。
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