473.発想篇:粗密を使い分ける

 今回は「粗密」の使い分けについてです。

 どこを詳しく書いてどこをゆるく書くべきかについて述べます。

 今回で「発想篇」はおしまいです。

 次回から「篇」が新しくなるのですが、まだ「○○篇」と決まっていないので、寝るときに考えたいと思います。





粗密を使い分ける


 小説を書くとき、つねに全身全霊の「全力全開」で執筆していませんか。

 そんなペースで飛ばしていると、いつかガス欠を起こして急ブレーキがかかってしまいますよ。

 小説を読む側も、毎回「全力全開」の展開が繰り広げられていると疲れてくるのです。

 すると「この小説、読むのに疲れるな」と感じてページを閉じ、別の小説へと流れていきます。

 せっかく「全力全開」で書いた小説なのに、読み手がどんどん離れていくのです。

 本末転倒ですよね。




平穏と山場の使い分け

 小説は平穏と山場で出来ています。

「起承転結」で言えば主人公を立てて「対になる存在」と最終的になにをするのかを決める「起」は山場です。

 主人公のキャラが立たなければ、読み手は誰に入り込んで小説世界を疑似体験すればよいのかわからなくなります。

 また主人公が最終的に対峙することになる「対になる存在」の情報もしっかりと盛り込みましょう。

 だから「主人公を立てる」段階である「起」は山場であり、しっかりと主人公と「対になる存在」と最終目標を立ててください。


 主人公が最終目標に向かって周りを巻き込んでいく「承」は平穏になります。

 周りを巻き込んでいって仲間を増やすところを山場にしてしまうと、肝心の主人公と「対になる存在」の対決が盛り上がらなくなるのです。

 だから「承」で必要以上に力を入れる必要はありません。


 そして迎える主人公と「対になる存在」との対決を描く「転」は山場です。

 小説において最高潮ピークとなるのが「転」になります。

 ここが盛り上がらない小説を読んでいると、読み手はなんのためにここまで読んできたのかわからなくなるのです。

 盛り上がるべきところで盛り上がらない。

「全力全開」で書かなければならないところなのに、「全身全霊」を傾けない。

「転」が盛り上がらない小説は評価されません。

 たとえこれまで全力を注いで書いてきたとしても、「転」が盛り上がらなければすべて台無しです。

 読み手が最も読みたいのは、主人公と「対になる存在」との対決である「転」です。

 それがもし肩透かしを食らったら、同じ書き手の作品は二度と読まなくなります。

「転」の盛り上がりが小説のキモであることを心得ましょう。


 そして物語を終える「結」は平穏です。

 ここを山場にしてしまうと、主人公と「対になる存在」との対決つまり「転」の存在が薄れてしまいます。

「結」は「転」よりも平穏でなければなりません。

 また連載小説の場合、一回の投稿ぶんにおける四部構成は「起承転結」にはならないのです。

 コラムNo.328「執筆篇:連載の起承転結」、No.338「執筆篇:連載の起承転結(補講)」において述べてありますので、詳しくはそちらを参考にしてくださいませ。

 連載には「主謎解惹」「起問答変」の四部構成があります。

「惹」は全体の物語を進めるために、次回の連載投稿ぶんを心待ちにする「惹き」となるのです。

「主謎解惹」の四部構成では、「惹」を入れない三部構成の投稿回もあります。

 すべての投稿回で全体の物語を進める必要はないのです。

 登場人物の内面を掘り下げたり村の厄介ごとを解決したりするだけの投稿回があってもかまいません。


 これで「起承転結」における粗密がわかったのではないでしょうか。




描写の粗密

 力を入れるべきポイントは「起承転結」だけではありません。

 主人公と脇役では、主人公の描写を密にして、脇役は最低限の粗のことだけを書けばいい。

「対になる存在」が主人公の近くにいるのなら、「対になる存在」の描写にも力を注ぐべきです。

 また「伏線」は巧みに森に隠し、回収するときに丁寧に書き及んでください。

 描写にも粗密があります。

 読み手が感情移入する主人公に関する描写は密にし、脇役の描写は粗にするのです。

 丁寧に書き込むべき部分と、ざっくりと読み手に伝わっていればよい部分を明確に書き分けてください。

 つねに「全力全開」の小説では読み手が疲れて飽きてくるだけです。

 適度に息抜きをして次の「全力全開」に備える書き方も、書き慣れてくれば必ず必要になります。


 ここで説明したのは「全力全開」と「息抜き」の二元論ですが、実際には「全力の何割」で書くかというレベルでとらえてください。

 手を抜くべきところではしっかりと手を抜いて、読み手にラクをさせましょう。

 最初から最後まで「全力全開」のまま貫いてしまう「ロケット」のような小説になることを避けるのです。

 粗密こそが「読み味」を左右する要点となります。




粗密のバランス

 小説には粗密が必要だとわかりました。

 ではどのくらいの割合で粗密を構成すればいいのか。知りたい方も多いと思います。

 これは登場人物とエピソードの数によって差が生じるものです。

 主人公と「対になる人物」と第三者ひとりの三人で繰り広げられる小説があるとします。

 すると主人公の描写は密、「対になる存在」の描写も比較的密、第三者は物語の主役ではないので粗ということになり、人数では2/3が密であり、1/3が粗ということになるのです。

 しかしエピソードで第一章の主人公登場と「対になる存在」の情報が出てきたとしても、最終決戦が第八章であり「結末」が第九章である場合、密になるのは2/9で、粗になるのは7/9となります。

 そう考えると粗密の割合は、重要人物とエピソードの数次第であることがわかるのではないでしょうか。

 つまり一概に「粗密のバランスは何対何」と明言できません。

 小説を数多く書くことで、皮膚感覚として体得するものだからです。





最後に

 今回は「粗密を使い分ける」ことについて述べてみました。

 つねに「全力全開」で小説を書いてしまうと、読み手は疲れてしまいます。

 適度に「息抜き」できるポイントで平穏を作ってください。

 平穏があるから「全力全開」が盛り上がるのです。

 ホラー小説を読んでも、殺される側が「危機を乗り切った」と安堵して平穏に戻ったところで犯人に不意打ちを食らって襲われてしまいます。

 だから読み手はドキッとして心胆寒からしめるわけです。

 この安堵と不意打ちこそが、小説における「粗密」を象徴しています。

 これから小説を書いていこうというときに、心得ておきたい発想法です。


 今回で発想篇は終了です。次回から新たな篇が始まります。

 現在の「プロの書き手」が書いた「小説の書き方」に関する著作を読み、どのような心構えが必要か。どのような技術が必要かについて書き及ぶつもりでいます。



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