472.発想篇:細部から世界観へ

 今回は「あるアイデアを起点にして、そこから世界観を作り、お話を作ってみる」ことについてです。

 キーアイテムや主人公をまず決めて、そこから物語を作る方法は昔から存在していました。

 今一度それを思い出してみましょう。





細部から世界観へ


 まず主人公の人となりを決めてしまう。

 それから主人公が属する組織や社会を決めていき、最終的に世界観や方向性を決めていく発想法があります。

 先に細部を決めておき、そこから周りをひとつずつ決めていく流れです。

 こうすることで、ムダな世界観・舞台を設定する手間をなくすことこができます。

 ですが、削りすぎて連載小説には向かないでしょう。

 連載小説では先に世界観や方向性から決めておくほうが、主人公を次にどこへ赴かせるかを考える拠り所にもなります。




キーアイテムから

 まずキーアイテムを決めてしまいましょう。

 そこから主人公の役割を決め、仲間を決め、最終的に世界観や方向性を決めていく。

 するとJ.R.R.トールキン氏『指輪物語』が出来あがります。

 かといって、そんな崇高な作品を引き合いに出さなくてもよいのです。

 我々日本人にはお馴染みの作品があります。

 マンガの藤子・F・不二雄氏『ドラえもん』です。

 未来のひみつ道具を取り出してはのび太を助ける「ドラえもん」の存在そのものが物語の「キーアイテム」なのです。

 また毎回のび太に与える未来のひみつ道具も、その回での「キーアイテム」となっています。

 アイテムがなければお話が進まないのですから、『ドラえもん』は「キーアイテム」から生まれる物語なのです。

 のび太とその家族、しずかちゃん・スネ夫・ジャイアンといった友人の設定は、あくまでも未来のひみつ道具をどう使うのかという観点で用いられています。

 だからのび太のパパもママも出てこないお話があるのです。

 同じくマンガの藤子・F・不二雄氏『キテレツ大百科』もさまざまなメカが登場して物語を回しています。

 藤子・F・不二雄氏が編み出した「キーアイテム」から物語を作る手法は、連載マンガには好都合だったのです。

 連載小説でも「キーアイテム」から物語を作る手法は重宝します。

 一回の投稿でひとつの「キーアイテム」を用いてお話を作り完結させるのです。

 するとお話は「キーアイテム」の数だけ作ることができます。

 連載小説にも向いているのが「キーアイテム」から発想する方法なのです。




主人公から

 主人公の設定から作った物語は童話・寓話に数多あります。

『桃太郎』も『竹取物語』も主人公の設定から作ってあるのです。

 たとえば『桃太郎』は「川上より流れてきた大きな桃から生まれた男の子」を桃太郎と名づけたという設定がまずあります。

 そのあと成人してから「鬼退治」に向かい、犬・猿・雉を仲間に加えて見事鬼ヶ島の鬼たちを退治し、金銀財宝を持って凱旋したのです。

 では「鬼退治」に向かうのは桃太郎でなければならない理由はあるのでしょうか。

 ありませんよね。

 それこそ金太郎でも花咲か爺さんでも退治に行っていいのです。

「桃から生まれた男の子」という主人公の設定が「鬼退治」につながっていません。

「鬼退治」をするのにふさわしいのはどんな人物か。

 それを考えてみてください。

 とても「桃から生まれた男の子」という結論には達しません。

 名うての剣士に頼むのが筋ではないでしょうか。

 つまり「桃から生まれた男の子」という設定が先にあり、桃太郎になにをさせようか思索した結果「鬼退治をさせよう」となったのです。


『竹取物語』のかぐや姫はどうでしょうか。

 お爺さんが光り輝く竹を見つけて中から女の子が出てきました。

 では、かぐや姫が月へ帰らなければならない理由はあるのでしょうか。

 こちらもありませんよね。

 不思議な出自だからといって、月へ帰らなければならないことなどないのです。

 さらに「絶世の美女」であるかぐや姫を娶ろうと、稀代のプレイボーイたちがアプローチをしてきます。

 かぐや姫は無理難題をふっかけて「これを手に入れてきたら結婚してもいい」と言うのです。

「絶世の美女」ですから言い寄る男の数は枚挙にいとまがないのでしょう。

 ですが光り輝く竹から生まれたからといって「絶世の美女」であるという根拠はありますか。

 ないですよね。

『竹取物語』も主人公であるかぐや姫の設定を先に決めてから、そのかぐや姫になにをさせようか思案した結果「言い寄る男どもを袖にして月へ帰る」という物語が生まれたのです。


 先にインパクトのある主人公を設定して、読み手に「この変わった主人公がいったいどんな物語を見せてくれるのか」とワクワク期待させることが書き手の仕掛けになります。

 大きな桃から生まれるのも光り輝く竹から生まれるのも、主人公にインパクトを与えることが目的です。

 これが貧乏長屋で生まれた長屋太郎が主人公だとして、長屋太郎が「鬼退治」に出かけても、主人公に魅力がないので平凡な物語で終わってしまうはずです。

 桃から生まれたという非日常のインパクトがあるから、「鬼退治」に出かけると犬・猿・雉が仲間になるという非日常が発生します。貧乏な長屋太郎ではこうはいきません。

 主人公の出自や経歴や性格から決めることで、平凡な物語が魅力的な物語へと変貌するのです。


 あなたの小説の主人公は平凡ではありませんか。

 平凡な主人公では、平凡な物語しか生まれません。

 たとえデスゲームが始まったとしても、主人公の平凡さゆえに読み手を惹きつける魅力に欠けるのです。

 小説の主人公は「なにかが特別な存在」であることが求められます。

 渡航氏『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』の比企谷八幡や、川原礫氏『ソードアート・オンライン』の桐ヶ谷和人(キリト)は平凡な主人公でしょうか。

 八幡はひねくれすぎて人間不信ぎみですし、キリトも過去の経歴からVRMMORPGにのめり込むようになった人間不信の塊です。

 そこら中にいる一般人とは一味違う主人公が、小説を面白くさせます。

 主人公から物語を作る発想法は、魅力的な物語を作りやすい利点を有しているのです。





最後に

 今回は「細部から世界観へ」について述べてみました。

「キーアイテム」や「主人公」から物語作りを始めて、そこから外側へ順に設定を決めていくのです。

 そうすれば必要最低限の世界観で物語が成立します。

 小説を書くとき、最も時間をかけるのが世界観・舞台です。

 先に世界観・舞台から決めようとしてしまうと、どうしても時間がかかりますし、使わない設定を作ってしまうことも多くなります。

 もちろん連載小説であれば、設定したものは使い倒すべきです。

 しかし長編小説や短編小説では、使わない設定のほうが多い。

 それならいっそ「キーアイテム」や「主人公」から物語作りを始めて、最低限の設定で「矛盾」のない物語が作れればいいのではないでしょうか。

 そんな適度な手抜きの発想です。



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