471.発想篇:古いものを現代風にアレンジする

 今回は「温故知新」についてです。

 二千五百年以上前に編まれた『論語』の一節なのですが、この頃から古いものを新しく仕立て直すことの重要性が説かれていました。

 古い物語を現代風にアレンジすれば、新たな物語が生まれるのです。





古いものを現代風にアレンジする


「温故知新」という故事成語があります。

「古きを温めて新しきを知る」と訳される中国古典『論語』の一節です。

 超訳すると「新しいものを作りたかったら、古いものに親しみましょう」という意味になります。

 元ネタがいかに古くても、現代風にアレンジすれば目新しいネタができるのです。




桃太郎を異世界転生ファンタジーに

 たとえば童話『桃太郎』を現代風にアレンジしてみましょう。

 異世界転生してきた、元は現代人が主人公です。


 主人公は転生先でお婆さんに拾われて、お爺さんも加わって成人するまで育てられます。

 その異世界では、ずる賢いトロールが領民を腕ずくで支配していたのです。

 トロールの暴政に、成人した主人公が立ち上がります。

 お婆さんは、主人公が転生してきたときに彼の周りに落ちていた《奇妙なモノ》をすべて拾って保管していたのです。

 お爺さんとお婆さんは、トロール退治の旅へ出かける主人公にそれらを渡して、なにか役立てるように言い聞かせます。

 するとその様子を見ていた村一番の賢者が、《奇妙なモノ》に興味を示して旅の仲間になることを条件に《奇妙なモノ》ひとつを受け取りました。

 こうして主人公と賢者はトロールの居城へ向かって旅を始めるのです。


 深い森を直進するのが近道と賢者に言われて森を進んでいると、耳の先の少し尖ったやや身長の低い亜人・エルフ族が行く手を遮ります。

「この先は祖先の眠る神聖な森である。ここから先へは進ませない」と言われるのです。

 そこで賢者が主人公を促して《奇妙なモノ》をひとつエルフの青年に見せました。

 元々知的好奇心の強い種族であり、エルフの青年は《奇妙なモノ》と引き換えに森の抜け方を教えたのです。

 森を抜ける頃には、主人公とともに領主のトロールを退治しようと意気投合しエルフの青年が仲間に加わります。


 トロールの居城を目指して先へ進むと、今度は高い山々が待ち構えていました。

 賢者は「ここにはドワーフ族が住んでいます。彼らの居住地を通れば山越えをする必要がなくなります」と説きます。

 エルフの青年は「エルフ族とドワーフ族は仲が悪い。できれば力を借りたくはないのだが」と言い出したのです。

 かといってエルフ族には山越えをするだけの体力もないので、種族のプライドはいったんよそへ置いておくことにしました。

 主人公たちが山肌を注意深く確認していくと、程なくしてドワーフ族の集落へつながる洞穴を発見します。

 主人公一行は洞穴の入り口で大きな音を鳴らしドワーフ族を呼び出します。

 出てきたドワーフ族の男性に集落を通り抜けさせてほしいと頼んだのです。

 しかしドワーフ族の集落にエルフ族を入れるわけにはいかないと、頑として受け付けません。

 そこで賢者は主人公に「《奇妙なモノ》をお見せなさい」と助言したのです。

 言われるがまま荷袋から《奇妙なモノ》をひとつ取り出したところ、ドワーフ族の男性は目の色を変えて「それを見せてほしい」と頼んできました。

 ドワーフ族には細工師が多く、目の前にある《奇妙なモノ》がどんな細工なのか気になって仕方がないのです。

 そこで賢者は「集落を通り抜けさせてくれたら、ひとつ差し上げますよ」と提案しました。

 魅力的な提案を受けてドワーフ族の男性は洞穴の奥へと走り出し、少し経ったのち戻ってきました。

「それをもらえるのであれば通り抜けてもよいと長老がおっしゃっておる」と答えて、主人公一行を山の向こうへと案内しました。

 道中ドワーフ族の男性は主人公が持っている《奇妙なモノ》をいくつか見せてもらい、「ひとつだけとはもったいない。できれば二、三個譲り受けたいものだ」と思ったのです。

 そして主人公一行を山の裏側まで道案内し、《奇妙なモノ》をひとつ受け取りました。

「ちょっと待ちなされ」と言うとドワーフ族の男性は長老の下へ《奇妙なモノ》を送り届け、すぐさま一行に追いつきました。

「ワシにも個人的にそれをひとつくださらぬか。それがどんなものか調べてみたいし、領主のトロールにも嫌気がさしていたところだ」

 そう言うと、ドワーフの男性は主人公一行に加わったのです。


 山を抜けて数時間経ったところに、人間の隠れ里がありました。

 そこには身なりこそ見すぼらしいが顔立ちの整った女性が住んでいたのです。

 彼女は人間が二人にエルフ族とドワーフ族という奇妙な組み合わせを見て、主人公一行に興味を持ちました。

 主人公から「これから領主のトロールを退治に行くところです」と聞き及ぶと驚いた表情を浮かべました。

 主人公は試しに《奇妙なモノ》を彼女に見せると「あなたこそ伝説の勇者に違いありません。私も連れていってくださいませ」と言うではありませんか。

 こうして主人公と賢者と女性、エルフとドワーフという奇妙なパーティーが出来あがったのです。




物語のキーアイテム

 具体例をお見せしようと少し頑張りすぎましたね。

 だいたい上記のような形にすると、『桃太郎』を異世界転生ファンタジーにすることができます。

『桃太郎』で仲間になる順番は犬・猿・雉ですから、ドワーフ・エルフ・女性の順にすべきでしょうが、そこまで揃えてしまうと元ネタがバレやすいので、あえて順番を入れ替えておきました。

「異世界転生」ですから、転生先には存在しないものが赤子の主人公の周りに落ちていても不思議はありません。

 それを「きびだんご」に仕立てれば、エルフ族もドワーフ族も仲間に引き込めます。

「きびだんご」という美味ではなく、《奇妙なモノ》という興味を欲して仲間になるのです。

 主人公が持っている《奇妙なモノ》とはどんなものなのか。

 それを考えるだけでもワクワクしてきませんか。

 シャープペンシル、消しゴム、ボールペンのような現実では当たり前なものも、異世界では《奇妙なモノ》です。

 スマートフォン、タブレット、ノートPCなどは、現実世界でも《奇妙なモノ》でしょう。

 また着ているものがポリエステルのような化学繊維であれば、異世界では《奇妙なモノ》です。なにせ素は「油」のものを身に着けているのですから。

「古い」物語も、「新しい」要素に置き換えてしまえば「新しい」物語が生まれます。

 これが「温故知新」なのです。





最後に

 今回は「古いものを現代風にアレンジする」ことについて述べてみました。

 誰もが知っている物語を、現代風にアレンジしてみる。

 たったそれだけで「馴染みがあるけど目新しい作品」を生み出すことができます。

『桃太郎』を「異世界転生ファンタジー」にアレンジするだけで、目新しさが出たはずです。

「温故知新」という言葉は、今から二千五百年以上前の中国で生まれました。

 それ以降、多くの古い作品が「温故知新」で新しい物語へと生まれ変わったのです。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る