442.発想篇:別の使い途を考える
昨日まででストックが尽きたため、今日からは当日執筆となります。
18時に予約投稿するのが難しくなりますが、なんとかネタをひねり出したいですね。
今回は「枯れた技術の水平思考」のお話です。
別の使い途を考える
物語の鍵となる「キーアイテム」は、ただそのまま用いるだけでは「ひねり」が足りません。
「精霊の王を斬る長剣」はアイテムの名前に使い方が記されています。
しかし「精霊の王」しか斬れないというのでは意外と邪魔なアイテムですよね。
そこで「精霊の王」以外も斬れたり、魔法付与の長剣としての強さも申し分なかったりと、異なる使い方ができるように考えてみましょう。
Ys・DQ・FF
ゲームのファルコム(現・日本ファルコム)『Ys 〜Ancient Ys Vanished〜』(『Ys I』)において、ラスボスのダルク・ファクトは、最強装備の「バトル」シリーズでは倒せません。
次に強い「魔法の銀」製品である「シルバー」シリーズなら効率よくダメージを与えられ、受けるダメージを大幅に減らせます。
ラスボスを最強装備で倒せないようにしたのはRPGに「やさしさ」を初めて取り入れた本作においては意外な発想でした。
それまでのゲームは最強装備がなければ倒せないものばかりでした。
ゲームのエニックス(現・スクウェア・エニックス)『DRAGON QUEST』では「ロト装備」を集めなければ竜王を倒すことは難しいでしょう。
最強装備といえばゲームのスクウェア(現・スクウェア・エニックス)『FINAL FANTASY』では「マサムネ」でしたね。こちらは「キーアイテム」ではなくただ単に「攻撃力がいちばん高い武器」という扱いです。
枯れた技術の水平思考
任天堂でゲーム開発に携わった伝説的な人物として横井軍平氏がいます。
液晶表示の携帯ゲーム機『ゲーム&ウォッチ』や、世界中に携帯ゲーム機の一大ムーブメントを巻き起こした『GAME BOY』などを開発した横井軍平氏の功績は、次代に繋がる携帯ゲーム機の雛形を作ったと言ってよいでしょう。
唯一の失敗作とされる3D表示ゲーム機『VIRTUAL BOY』もありますが、こちらは時代が早すぎましたね。『Nintendo 3DS』が出て大ヒットを飛ばしたのはそのずっと後の話です。
そんな横井軍平氏の名言にして、発想の初手とも言える言葉があります。
「枯れた技術の水平思考」です。
まず「枯れた技術」についてご説明致します。
「枯れた技術」とは、すでに量産されていて価格が安くて生産コストの低い技術です。
最先端の技術を開発しようとすれば、研究開発費が高く付き、それが製品の高価格を生んで消費者から買い控えられる。
だから最先端を追い求めると端末価格が高くなります。
その代わり他を圧倒する驚異的な体験を提供できるのです。
SONYの『PlayStation』シリーズが好例です。
『PlayStation』シリーズはつねに初期ロットの価格が任天堂対抗ゲーム機の2倍程度します。
もちろん最新技術があれば、新しいゲーム体験を提供できて、ゲーム開発会社の知名度は弥増します。
スクウェア・エニックスに、もはやプレイヤーから「ムービーゲーム」と称されるようになった『FINAL FANTASY』シリーズがあり、つねに最新の技術で制作されているのです。
SONYの高品位戦略に対して、任天堂が初期から採用している戦略が「枯れた技術の水平思考」ということになります。
量産効果の期待できるパーツを用いて、それを別の使い途で面白体験をユーザーに提供するのです。
『ゲーム&ウォッチ』はデジタル時計で広く用いられていたLEDのように形の決まっている液晶パネルを採用して携帯ゲーム機にしました。
『GAME BOY』は幼い子どもが利用することを想定して耐久性を重視しています。
イラク戦争時にアメリカ軍の空爆にさらされた『GAME BOY』は、侵攻したアメリカ軍に発見された際、外装に傷は付いていたものの電源は起動しソフトが動いたという伝説を有しているのです。
当時ではありふれている外装素材ですが、空爆にも耐えるほどの実力が証明されたため『GAME BOY』はその名を高くします。
忘れてはいけないのですが、『GAME BOYY』を世界中に広めた最大の功労者は通信ケーブルによる対戦機能でした。
キラータイトルとして『テトリス』と『ポケットモンスター』を挙げることができます。
まず「対戦」機能として通信ケーブルを用いたのは『テトリス』です。
『テトリス』は一人でプレイしてもじゅうぶん面白いゲームソフトですが、「対戦」をすることによってただ「ブロックを消す」ゲームから「相手をミスらせる」ゲームへと変化しました。元々「ブロックを消す」という戦略性が強いソフトでしたが、「対戦」相手との駆け引きによってさらに戦略性が重視されるようになってユーザーを大きく増やすことに貢献しました。
通信ケーブルを「対戦」としてだけではなく「交換」として利用したのが『ポケットモンスター』です。
どんなゲームかをここで言わなくても皆が知っている有名ゲームソフトになりました。
この「交換」機能によって『GAME BOY』本体は爆発的に売れ、通信ケーブルも品薄が続くという現象を巻き起こしました。
「交換」機能は「枯れた技術の水平思考」の先にある『Nintendo DS』やその強化版である『Nintendo 3DS』に引き継がれます。
『3DS』には「すれちがい通信」という機能があり、それを用いた『ポケットモンスター』シリーズや『DRAGON QUEST』シリーズなどがキラータイトルとなったのです。
小説における枯れた技術の水平思考
ここまでゲームの話をしてきましたが、ここから短く小説への「枯れた技術の水平思考」応用法をご紹介します。
たとえば小説投稿サイトでよく見られる「テンプレート」がありますよね。
「異世界転生」「異世界転移」「悪役令嬢」「元勇者」などです。
これらが小説における「枯れた技術」になります。
つまり「テンプレート」イコール「枯れた技術」なのです。
となれば「テンプレート」をいかに「水平思考」させるかを考えてみましょう。
いちばんわかりやすい例が川原礫氏『ソードアート・オンライン』(『SAO』)です。
『SAO』は「異世界転移」というありふれた「枯れた技術」を、「ゲーム内世界」へと「水平思考」した「VRMMO」ものということになります。
当時の小説界に「VRMMO」の発想はありませんでしたから、業界にかなり大きなインパクトを与えることになったのです。
『SAO』が世に知られるようになると、「VRMMO」ものが小説投稿サイトに集まるようになりました。
このように転移先を「剣と魔法のファンタジー世界」から「剣と魔法のファンタジーを舞台にしたゲーム内世界」へと変えたことで「枯れた技術の水平思考」をすることができたのです。
「悪役令嬢」も「ゲーム内世界」への「異世界転移」ものだと言えますので、「恋愛」小説にも「枯れた技術の水平思考」は発生していたのです。
「推理」ものの「シャーロック・ホームズのいるロンドンを舞台としたゲーム内世界」へ「異世界転移」するとアニメ映画『名探偵コナン ベイカー街の亡霊』になります。
「SF」ジャンルのたとえば「宇宙」や「空想科学」の世界へ「異世界転移」することになれば、また新しい「枯れた技術の水平思考」が出来あがるでしょう。
新しい「枯れた技術の水平思考」を発見するだけで、業界のパイオニアになれます。
皆様もぜひ新たな「枯れた技術の水平思考」を探してみてください。
あなたにふさわしい組み合わせがきっとあるはずです。
最後に
今回は「別の使い途を考える」ことについて述べてみました。
そのために憶えておきたいのが横井軍平氏の名言「枯れた技術の水平思考」です。
ありふれているものの「別の使い途を考える」ことから発想が豊かになります。
ときに『VIRTUAL BOY』が生まれるかもしれませんが、その遺伝子は『3DS』の時代に再評価されました。
早すぎることがあれば息が長くなる。
現在大ヒットを記録している吉野源三郎氏『君たちはどう生きるか』の原作となった児童書はなんとおよそ80年前にまで遡ります。
早すぎたことで、時代が追いついた際に先駆者となることもできるのです。
「枯れた技術の水平思考」はひじょうに奥が深い発想法と理論だといえます。
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