443.発想篇:なにが要らないか
今回というか今日はAppleのCEOだったスティーブ・ジョブズ氏に関する発想法です。
ジョブズ氏がなにかを生み出したことはありませんが、なにかを省いて製品をシンプルで使いやすくしました。
Apple製品の使い勝手の良さは、ひとえにジョブズ氏の賜物なのです。
なにが要らないか
小説を書こうと思えば、「この要素は入れたいな」「あっこんなアイデアもいいな」「じゃあ『対になる存在』はこんな人物がいいんじゃないかな」とあれこれ盛り込みたくなるものです。
ですが小説は「省く」芸術でもあります。
たくさんの要素を含んだ小説は散漫になりやすい。
可能なかぎり省いた小説は、シンプルでありながらも伝えたいことが正しく伝わるものです。
だから人気のある作品に仕上がります。
ビジネス界ではこの人の右に出る人はいないでしょう。
何を省くかだ
AppleのCEOであったスティーブ・ジョブズ氏は、製品開発において複数の製品をミックスすることから発想をスタートさせています。
世界最初期の組み立て済みパソコンである『Apple II』は「組み立て済み」「テレビ画面に文字を表示できる」「BASIC言語でプログラミングできる」という要素をミックスして作り上げました。
ただしそれだけでは価格がとてつもなく高くなります。
そこで天才エンジニアで親友のスティーブ・ウォズニアック氏が設計段階から部品数を極限まで少なくするアプローチをして作られました。
それによって『Apple II』はジョブズたちApple Computer社に巨額の利益をもたらし、株式上場により億万長者を数多く輩出したのです。
ジョブズ氏は『Macintosh』の開発でも「大きさは電話帳サイズだ」と決めつけています。
そしてOSの開発に関しても妥協せず、パロアルト研究所で見た次世代のアイコンとウインドウによる「誰にでも使えるほど簡単な操作性」を追求しました。
その甲斐あって『Macintosh』は発売後のスタートダッシュに成功しています。
しかし需要度外視で作られたため、『Macintosh』はすぐに売れなくなっていきます。
その責任をとらせるためApple経営陣は、創業者であったジョブズ氏を社外へ追放したのです。
Apple社は『Macintosh』の派生製品を矢継ぎ早にリリースし、大きな赤字を計上し続けることになります。
そしてどうにもならなくなったとき、Apple経営陣はPIXARを立て直したジョブズ氏を再度招聘することにしました。
ここから『iMac』『iPod』『iPhone』『iPad』と現在でも世界的に名の知れた製品が作られることとなります。
iMac
『iMac』はあれだけの機能を足し算していくと「あれもこれもできる」ようになりそうに思えませんか。
ジョブズ氏はここから「省く」技術によって必要度の低い装備を次々と廃止・変更していきます。
まずそれまでの『Macintosh』も『Windows機』も標準装備していた「フロッピーディスクドライブ」を廃止しました。その代わり「CDドライブ」と「USB端子」を標準装備して記憶媒体の多様性に逸早く取り組んでいます。
そしてディスプレイだけの見た目で『Macintosh』として動作するという「省スペース」にも取り組んでいます。つまり「本体」そのものを「省いた」のです。
そして「インターネットモデム」も標準装備です。その代わり通話機能は「省き」ました。
iPod
『iPod』は携帯音楽プレイヤーの分野へ出後れて登場した商品です。
しかし先行していた他社製品を駆逐してあっという間に携帯音楽プレイヤーのトップランナーとなってしまいました。
ジョブズ氏が「CDライブラリを持ち歩けるほどの大容量」「誰にでも扱えるインターフェイス」「可能な限り小さな形状」を足し算して生み出された商品です。
大容量HDDを入手するのには少し時間がかかりましたが、最終的にはジョブズ氏の考えていた容量をクリアしています。
インターフェイスはかなりの試行錯誤を繰り返して生み出されました。ジョブズ氏が「3クリック以内で聴きたい曲が流れる」ことにこだわったからです。「CDライブラリ」を3クリック以内でというのはかなりの無茶振り。ここに「省く」技術が見られます。
可能な限り小さな形状にはこんな逸話があります。
iPhone
『iPhone』の登場はその後のスマートフォン全盛の現在を見ても鮮やかでした。
「携帯音楽プレイヤー」「携帯電話」「インターネット端末」の三つの製品を一つに落とし込んだ製品。それが『iPhone』初お目見えでのジョブズ氏の伝説的なプレゼンテーションです。
この三つの製品をすべて一台にまとめると、携帯音楽プレイヤーの操作ボタン、携帯電話の数字ボタン、インターネット端末のキーボードが必要になります。ジョブズ氏はタッチパネルひとつに集約する「省き」の技術を見せました。これによって操作ボタンも数字ボタンもキーボードもすべて要らなくなったのです。
複数の製品をひとつにまとめるときに同じような機能は片方を「省く」のが常道ですが、ジョブズ氏はすべて「省いて」しまいました。
『iPhone』によってフリック入力という新たな入力方法も登場し、今ではスマートフォンで当たり前のものとなっているのです。
iPad
『iPad』は『iPhone』と『MacBook』の中間に位置する端末です。
ジョブズ氏は本来『iPad』を先に出したかったそうですが、当時大型タッチパネルが存在せず、『iPad』の機能を携帯電話レベルに落としたものが『iPhone』になったと言われています。
メール機能はほぼ『MacBook』と同等であり、ウェブブラウジングも快適に行なえる。文章入力も快適で、タッチパネルで絵も描ける。
まさに『MacBook』とは異なる魅力を持った製品に仕上がっています。
とはいえ『MacBook』には搭載されていたキーボードはソフトウェアキーボードへと変更され、マルチウインドウもシングルタスクへと「省かれ」たのです。(のちに二つのタスクが同時実行可能となりました)。
『iPad』にとっては「要らないもの」であり、「省いた」ぶんシンプルで扱いやすい端末へと進化しました。
なにが要らないか
ジョブズ氏は生前「なにを足すかじゃない。なにが要らないかを探すのが私の仕事だ」と述べています。
コンピュータ業界では「ジョブズ氏は何も作り出していない。ウォズニアック氏のほうが評価に値する」とする向きがありました。それに対してジョブズ氏が語った言葉です。
小説でも同じことが言えます。
「この作品のここが好きだな」「あの作品の」「その作品の」それらをすべてまとめたら、読み手になにを伝えたいのかがぼやけてしまいます。
集めてくるまではいいのです。
そこから「なにが要らないか」を見つけ出し、それを「省いて」いく能力があるかどうか。
それが発想力の最たるものです。
最後に
今回は「なにが要らないか」について述べてみました。
発想するときに、いろいろなものをミックスして生み出そうとするものです。
しかし重複してしまうようなものもあり、不合理な面も見受けられます。
そこで重複している部分は極力「省き」ましょう。
また「なにがなければわかりやすくなるか」について考えてみましょう。
小説は往々にして過剰な部分が発生します。
読み手にわかりやすくなるよう、適宜「省く」のです。
そうすれば、読み手にわかりやすい作品に仕上がります。
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