399.深化篇:異世界ファンタジー【No.398補講】

 今回は前回コラムNo.398「深化篇:行く手を遮るもの」に指摘がありましたので、改めて「異世界」について述べたいと思います。

 小説投稿サイトの「異世界」はなぜたいていが「剣と魔法のファンタジー」なのでしょうか。

 コラムNo.128「応用篇:異世界はなぜ剣と魔法のファンタジーなのか」でも言及していますが、少し角度を変えました。





異世界ファンタジー【No.398補講】


 今回はお問い合わせがございましたので、補講致します。

「異世界」が必ずしも「ファンタジー」とは限らないし、近年の異世界の定義も『小説家になろう』の作品のようなものとは限らなくなっているのでは。というご指摘です。

 だから「異世界」に二十四時間営業のコンビニがあってはいけないとか、スマートフォンがあってはいけないということはないのではないか。

『小説家になろう』の作品でも『異世界はスマートフォンとともに』のように「異世界転生」の際に神様の力で強化されたスマートフォンが登場し、そういった部分が他のファンタジーとは異なる色彩を放っている作品も存在します。

 このご指摘を受けて、私なりに考えました。




異世界はファンタジーとは限らない

 率直に言って、ご指摘くださった方の発想がとても柔軟で素晴らしいと思います。

『小説家になろう』で「異世界」を舞台にした「ハイファンタジー」「異世界恋愛」は、必ずしもいわゆる「剣と魔法のファンタジー」である必然性がないのです。

 あくまでも「現実世界とは異なる世界観」であれば「異世界」というキーワードは成立します。


 だからといって科学技術が発達した世界にしてしまうと「空想科学(SF)」になってしまう可能性もあるため難しいものがあるでしょう。

 たとえばマンガの大友克洋氏『AKIRA』は明らかに現実世界とは異なりますが、「SF」の「スチームパンク」な世界観ですよね。

 これでは「異世界」とは呼べません。

 現実世界のような「オイル革命」が起こらなければ、蒸気機関が発達した「スチームパンク」な世界観になるのです。

 電気と電機と電器という三つの「でんき」を特化させると「サイバーパンク」になります。

 こちらは「電脳」ともリンクしていて、マンガの士郎正宗氏『攻殻機動隊』が代表例でしょうか。

 だから多くの書き手の「異世界」は「剣と魔法のファンタジー」に落ち着いてしまうのです。

 でもそれが最適解なのでしょうか。

 実は、他にもあるはずなのに手を抜いているだけなのではないでしょうか。

 そう考えたとき、私たちは「剣と魔法のファンタジー」以外の「異世界」を意識することになります。




マンガも長らく異世界が存在しなかった

『AKIRA』と『攻殻機動隊』が出てきたので、マンガで説明するのが早いと思います。

 マンガの手塚治虫氏『鉄腕アトム』は「空想科学(SF)」です。

 マンガの藤子・F・不二雄氏『ドラえもん』も「空想科学(SF)」になります。

 「異世界」のような「空想科学(SF)」としてはマンガの聖悠紀氏『超人ロック』も挙げられるでしょう。

 さまざまな惑星を渡り歩いて活躍してきた超能力者のスーパーヒーロー。

 昭和六十年頃までのマンガは、どこか現実世界に科学技術を交えたものが多かったものです。

 少しひねって現実世界にプラスアルファをするマンガもありました。

 マンガの藤子・F・不二雄氏『オバケのQ太郎』は現実世界にオバケが出てくる「ローファンタジー」とも呼べる作品です。

 しかし「ハイファンタジー」つまり「異世界」を舞台にしたマンガは長らく現れません。




DRAGON BALL

 その殻を破ったマンガ家こそが鳥山明氏なのです。

 鳥山明氏『Dr.スランプ』は現実世界にアラレちゃんなどの科学的な要素を加えた「ローファンタジー」でした。

 しかし続く『DRAGON BALL』では『まんが日本昔ばなし』に出てくるような魑魅魍魎が跋扈する世界観にさまざまなメカが登場するという、見事に現実世界とは異なる「異世界」を読み手に見せてくれました。

 孫悟空が「かめはめ波」を習得するあたりも「魔法」を習得するような感じで読んでいたことでしょう。

 のちに「天下一武道会」が始まって、ピッコロ大魔王が現れて、フリーザ一派がやってきて、とどんどんリアル志向になっていきます。

 最終的には「空想科学(SF)」に落ち着いて連載が終了するのです。

 この変化は鳥山明氏の予定通りだったのでしょうか。

 鳥山明氏としては「異世界」のままでよかったのではないかと、私は慮ります。

「気」こそ出てきますが、少なくとも当初は「剣と魔法」のない「異世界」だったのです。




HUNTER×HUNTER

 次に「異世界」を意識したマンガ家は「休載」で有名な冨樫義博氏が挙げられます。

 出世作である冨樫義博氏『幽☆遊☆白書』は現実世界に霊界や魔界などを登場させた「ローファンタジー」でした。

 次の連載『レベルE』は「空想科学(SF)」か「ローファンタジー」に分類されるでしょうか。

 そして「異世界」を舞台にした作品が姿を表します。

 長期「休載」によって現在まで連載が続いている『HUNTER×HUNTER』です。

 現実世界のように学校があるわけでもなく、世界は未踏の地にあふれ、冒険者としての「ハンター」が存在します。

 そして「念」という概念が、まるで魔法や精霊魔術のような位置づけとなっているのです。

「念」を魔法に見立てたとしても見事に「剣」のない「異世界」だと言えます。




ONE PIECE

 そして現在にも続く大作となる尾田栄一郎氏『ONE PIECE』が現れたのです。

『ONE PIECE』の世界も「現実世界」とは異なります。

「悪魔の実」を食べた特殊能力者、「海賊」がはびこる世の中。

『ONE PIECE』は『DRAGON BALL』がヒットした要点を確実に押さえています。

「剣と魔法のファンタジー」ではない「異世界」を構築しようと試みているのです。

 それでも主人公にはインパクトが必要ですから「悪魔の実」を登場させています。

 そしてバトルマンガにするべく主人公を「海賊」にしているのです。

「海賊」なら「海賊」同士や「海軍」との戦いなど、必然的に戦う場面が作れます。

 そしてバトルをしているところを読ませて読み手をワクワク・ハラハラ・ドキドキさせているです。

『DRAGON BALL』から「異世界バトル」もののエッセンスを抽出して「冒険」の要素を強めたのが『ONE PIECE』だと言ってもいいくらいです。

 また『ONE PIECE』では「電伝虫」という「携帯電話」を登場させています。

 そうなんです。「異世界」にも「携帯電話」があってもかまわないのです。

 電気で充電してコンピュータで動いている「携帯電話」であれば、「ローファンタジー」まで落とされてしまいます。

 しかし「電気を使う」という概念さえ取っ払ってしまえば、コンピュータだって作れます。

 それが「異世界」の便利なところです。




アイテムを趣向を変えて登場させる

 現実世界で一般化・普遍化したものやシステムを「異世界」の世界観に導入するのは「あり」です。

 たとえば「霊力で動くエレベーターやエスカレーター」があってもまったく問題はありません。

『ONE PIECE』の「電伝虫」のような「携帯電話」があってもいいですし、「気」の力で他人とコミュニケーションをとる「念波テレパシー」は「空想科学(SF)」の領域ですが「異世界」に出してもかまわないのです。

 さすがに「宇宙船」が出てしまうと「空想科学(SF)」「宇宙」の色味が強くなってしまうので、「異世界」には向かないかもしれません。

 でも「宇宙船」を出していながら「FINAL FANTASY」だと言い張るゲームもありますから、そのあたりはいいかげんでいいと思います。

 要は書いている本人が「これは異世界の話だ」と思って書くこと。

 そうすればどんなアイテムを出そうと「異世界」に沿うようなアレンジができるはずです。





最後に

 今回は「異世界ファンタジー【No.398補講】」について述べてみました。

 いつもはここで総括なのですが、今回はご質問内容に触れて終わりたいと思います。


 「なろうだから異世界ファンタジーは○○で○○な舞台を書けばランキングで目立てる」と言う様な認識で書くと……逆に何の為に小説を書いているのか悩んでしまいそうな気配もします。


 このご質問には一理あります。

 型として定められている「テンプレート」に従うだけでは楽しんで書けなくなる人はいるのです。

 逆に「テンプレート」がなければ小説を書けない人もいます。

「卵が先か鶏が先か」論争ですが、「テンプレート」がなければ小説を書けない人でもプロになった方はいるのです。

「テンプレート」に忠実では書いていると楽しくないからわが道を行く人は、成功するかもしれないし失敗するかもしれない。

 読み手が求めている小説を書きさえすれば受け入れられます。

 しかし読み手がまったく求めていない作品を書いたところで、読んでくれる人はいませんし、評価されることもありません。

 楽しんで書ければそれでいい人と、評価を得なければ書いている意味なんてない人がいる。

 そのことは書き手としても読み手としても留意したいところです。



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