398.深化篇:行く手を遮るもの

 今回は「主人公一行の行く手を阻むもの」についてです。

 遮る環境があり、人物がいます。

 冒険が主となる小説では必ずと言っていいほど「行く手を遮るもの」が登場します。





行く手を遮るもの


 主人公陣営は「対になる存在」が待ち構えている場所まで赴いていくことになります。

 面白いことに、最終決戦では主人公陣営が「対になる存在」のところまでやってくるのがお約束です。

 最終決戦で「対になる存在」が主人公陣営の待ち構える場所までやってくることはまずありません。

 あるとすれば「元々その日その場所に『対になる存在』がやってくることを知っていた」場合くらいです。

 ではおおかたの主人公陣営が赴いていく道のりは平坦なものでしょうか。

 地上に限ってもさまざまな要素があって平坦な道のりということはまずありません。

 道のりを遮るものとしては、主に環境「天候・気象・地形」と「立ちはだかる存在」に分けられます。




遮る環境

 現代日本の都市部であれば、深夜でも街路灯が煌々と灯っていて明るい。

 二十四時間営業のコンビニエンスストアやスーパーマーケットや飲食店がある、というのは現代日本くらいなものです。

 ですが地方の町村や「異世界ファンタジー」でも道が街路灯で照らされていて、二十四時間営業している店が存在すると思いますか。

 まず考えられませんよね。

「異世界ファンタジー」であれば日の出とともに起床し日に入りとともに就寝するのが当たり前でしょう。

 夜は満天の星空を堪能できるほど、周りに明かりはないはずです。

 そんな深夜に森の中へ分け入るようなことをする冒険者はまずいません。

 現代日本でも深夜に山奥へ入るような無謀なことをする人はいないと思います。

 いつ猛獣たとえば熊や猪に出くわすかわからないからです。

 江戸時代くらいまで遡れば、虎や狼だっていたでしょう。

 また「異世界ファンタジー」であれば、夜行性の魔獣や不死なる者などが存在しているかもしれません。

 賢い冒険者パーティーであればそんな危険を冒すことはなく、夜が迫れば手近な村の一室を借りて寝泊まりするはずです。


 また嵐や竜巻や台風の中を強行することは、それだけで「危険な行為」であることは言わずもがな。

 地吹雪がする中を強行することもまずありません。

「地吹雪がする中」といえば映画の高倉健氏主演『八甲田山』が思い浮かぶのではないでしょうか。

 ホワイトアウト(目の前が真っ白になって方向感覚が失われる状態)するほどの地吹雪が吹きすさぶ八甲田山で雪中行軍訓練を行なう部隊の物語ですが、その内容はとても凄惨としています。

 死と隣り合わせの訓練で、1902年青森所属の連隊が強行したために隊員210名中199名が死亡した一大事件を題材にした映画です。

 青森県酸ヶ湯を擁する八甲田山はおそらく日本で最も雪深く危険な冬山でしょう。

 この事件を境に「死の強行軍」は影を潜めました。

 ですが、やむにやまれず嵐や台風や地吹雪の中を強行することもなくはないのです。

「異世界ファンタジー」であれば、村人から厄介ものを排除するように依頼されることもあります。

 雪男フロスト・ジャイアント氷狼フェンリル退治を依頼されることだってあるはずです。


 地形としては次のようなものがあります。

 水のない「砂漠」ではオアシスを見つけるまで極限の状態に置かれるのです。そうしてやっとのことでオアシスにたどり着きます。そのときの安堵感はいかばかりか。

 北極や標高の高い土地などの「寒冷地」は人家や枯れ木など暖をとれる状況を作らないと凍傷になる危険もあります。

 険しい「山」や深い「谷」は越えるだけでも一苦労です。

 流れが速かったり幅が広かったりする「河川」や果てしない「海」、大きな「湖」や「池」などは、橋であったり船であったり通過する手段がなければ相当な苦労を味わうことでしょう。

 それほどでなくても小高い「丘」、足まわりを拘束する「沼地」といったものでも旅の困難さを読み手に伝えることができます。


 遮る環境の中には人工物も考えられます。

 いたるところに「トラップ」が仕掛けてあったり、「壁」や「城」や「陣地」などが行く手を遮っているかもしれません。

 できれば近寄らないで通過したいのですが、どうしても通る必要があるとこれほど厄介なものはないでしょう。

 いかに罠へ引っかからないよう通過するか。敵を撹乱して城の守備にスキを作り出せるか。

 こういった頭脳戦は読み手もハラハラ・ドキドキしてきます。


 以上はそれぞれ戦闘の舞台ともなり、主人公陣営が環境「天候・気象・地形」を活かした戦い方をすることで、読み手のワクワクを引き出すもとともなるのです。

 環境「天候・気象・地形」によってワクワク・ハラハラ・ドキドキが勢揃いします。

 使わない手はありませんよね。




立ちはだかる存在

「対になる存在」とは別に、主人公陣営の前に「立ちはだかる存在」が現れることがあります。

 どんな存在が立ちはだかるのでしょうか。


 主人公陣営の目的が達成されると困る者は当然行く手を遮ります。

 達成を阻まないと当人が困った状態に陥るからです。

 たとえば国境警備をしている人には異民族が近づいてきたら追い払う役目があります。

 そうしないと減俸されたり刑に処せられたりと安泰に生活できません。

 だから主人公陣営が国境を越えて侵入しようとすると、国境警備員はそれを阻止しに来るのです。


 主人公陣営の誰かに恨みを抱いていたり対抗心を燃やしていたりする者は、恨みを晴らしたり上を行ったりしたいので、やはり行く手を阻みます。

 たとえば主人公陣営の魔術師に理由はどうあれ両親を殺された子どもが復讐しにくることはじゅうぶんに起こりえるでしょう。

 対抗心を燃やす人はたいてい「好敵手ライバル」関係です。

 好敵手ライバルがいると「対になる存在」まで主人公陣営を引き寄せることができます。

 主人公陣営が行く先々に好敵手ライバルが登場することで、その道の向こうに「対になる存在」がいることを暗にほのめかしているのです。

 書き手としてはそれに気づかず、話を盛り上げようと好敵手ライバルを出していたと思います。

 ですが好敵手ライバルが現れるということは「対になる存在」が好敵手ライバルに主人公陣営を阻止するよう命じているからです。

 主人公陣営を阻止する理由はなんでしょうか。

「対になる存在」が自ら動くことなく主人公陣営を葬り去りたいからです。

 だから主人公陣営と「対になる存在」の間に好敵手ライバルが現れます。


 旅先でひょんなことから事件に巻き込まれてたまたま敵対するようになる者もいるのです。

 それをきっかけにミニドラマが展開されていきます。

 ミニドラマによって主人公たちの性格や性質などを読み手に伝えることができるのです。

 性格や性質などを「説明」文だけで済ませようとすると、間違いなく読み手が離れていきます。

 キャラの性格や性質を無理なく伝えたいときは、さまざまなミニドラマを作ってください。

 たったそれだけで読み手はすんなりと納得してくれます。


 また金銭などの報酬を目的にしている者もいます。

 主人公陣営が「賞金首」になっていたり「お尋ね者」になっていたりしていれば、賞金稼ぎたちがいつ襲ってくるかわかりません。

 とくに「対になる存在」が国王や宰相などの高い地位に就いている場合、主人公陣営はほとんどが「賞金首」や「お尋ね者」になるはずです。

 そのため主人公陣営は国外で力をためつつ国王や宰相の秘密を探り始めます。





最後に

 今回は「行く手を遮るもの」について述べてみました。

 遮る環境があり、人物がいます。

 冒険が主となる小説では、必ずと言っていいほど「行く手を遮るもの」が登場します。

 また現実世界の恋愛小説でも、恋のライバルが登場したり他の人がこちらに言い寄ってきたりと「行く手を遮るもの」が現れます。

 マンガの高橋留美子氏『めぞん一刻』の主人公である五代裕作は、「一刻館」の管理人である音無響子に想いを寄せます。しかしいつもいいところで「一刻館」住人たちによるどんちゃん騒ぎに引きずり込まれるのです。

 でもそこが面白さを支えているところなので、いつもギリギリな裕作を見て楽しむ「コメディー恋愛マンガ」が『めぞん一刻』なのです。



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