396.深化篇:エピソードの種類

 今回は「エピソード」についてのお話になります。

 これまで何度も「エピソード」という単語を繰り返してきましたが、いまいちピンとこなかった方もいたことでしょう。

 そこでいくつかのパターンを見ていきたいと思います。





エピソードの種類


 物語で用いる「エピソード」にはいくつかの種類パターンがあります。

「エピソード」は「あらすじ」に用いるので、「箱書き」で用いる「出来事イベント」よりも大きな規模です。

 それを考慮して「エピソード」の数々を見ていきましょう。




陣営に加わる

 第三者が登場し、その人が主人公陣営に加わるきっかけを描きます。

 たとえば「魔物に襲われた村を主人公陣営が救い、村人のひとりが『仲間に加わりたい』と申し出る」というものです。

「魔物に襲われた村を主人公陣営が救った」から、第三者の村人が主人公陣営に加わろうとします。

 動機が不純かもしれませんが、「貴公子を救出したが、彼が主人公陣営の女性神官に一目惚れして『彼女のために戦いたい』と押し売りする」こともあるでしょう。

 このように、第三者が主人公陣営に加わるきっかけとなる「エピソード」は、単に「出来事イベント」レベルで扱おうとすると、動機が埋もれやすいのです。

 だから「陣営に加わるきっかけ」を「出来事イベント」を含めた「エピソード」に仕立てたほうが、自然な流れを演出できます。




陣営の絆を深める

 主人公陣営に「出来事」が襲いかかって、それを一致団結して払いのけることでパーティーの絆が深まる「エピソード」も必要です。

 新たに加わった人物と仲間は当初必ずギクシャクしてしまいます。

 そこに「出来事イベント」を起こして新人とともに跳ねのけることで、新人と仲間が親和して絆が深まり、主人公陣営に欠かせない存在になるのです。

 たとえばマンガの堀越耕平氏『僕のヒーローアカデミア』では主人公である緑谷出久とNo.2ヒーローであるエンデヴァーの息子である轟焦凍は当初互いを意識して距離をとっていました。

 しかし体育祭で直接対決をすることにより、焦凍の心の中でわだかまっていたものが解けて出久を素直に受け入れられるようになったのです。

 絆を深める「エピソード」は主人公陣営を強化するために「必要不可欠」だと言えます。




陣営内の対立

 主人公陣営に「出来事イベント」が起こって、パーティーに意見の対立が発生する「エピソード」があります。

 それまで協力しあっていた仲間に亀裂が生じ始めるのです。

 そのままではいずれ主人公陣営は割れてしまいます。

 リーダーである主人公はなんとかしなければなりません。

 もしその後、絆を深める「エピソード」を入れられれば、以前よりも固い絆で結ばれるようになります。

 亀裂が生じても絆を深めれば、プラスマイナスゼロよりもプラス側にまとまるものです。

 たとえ陣営が割れても絆がつながっていれば、いつか再び仲間になることもあります。

 アニメのCAPCOM『モンスターハンターストーリーズ RIDE ON』では主人公リュートと幼馴染みで仲良しだったシュヴァルが、ある出来事をきっかけにリュートとは別の道へ踏み出すのです。

 リュートに敵愾心てきがいしんを抱いていたシュヴァルは、「黒の狂気」との最終決戦においてリュートとの絆を再確認し、再びリュートとともに戦うことになります。

 一度別れた間柄ですが再び合流することで、絆はより深まったのです。




陣営から離れる

 主人公陣営に加わる人がいれば、離れる人もいます。

 たとえば「女性であれば誰彼構わず口説かずにいられないようなお調子者に嫌けが差して陣営を離れる決意をする」というものです。

 とくに離れる人物が女性であれば、立派な「エピソード」に仕上がります。

 きっと彼女もしつこいくらいに口説かれたんでしょうね。

「ナンパ男と私と、どちらかを選んでください」とリーダーである主人公に選択させる「エピソード」に仕立てることもできるのです。

 また意見の対立から陣営が割れてしまうことがあります。

 六人パーティーが対立してそれぞれ三人パーティーに分かれてしまうなんていうことも起こりえるのです。




陣営内での人間関係

 現時点での陣営内の人間関係を読ませる「エピソード」も必要です。

 誰が誰のことを信頼し、誰のことを軽蔑しているのか。

 誰が誰のことを慕って、誰のことを嫌っているのか。

 誰が誰のことを愛していて、誰のことを憎んでいるのか。

 誰が誰の幼馴染みで、誰が親友なのか。

 こういった人間関係を読み手に知らせるための「エピソード」がなければ、読み手は主人公陣営の関係線が引けず混乱することになります。

 だから折りに触れ、そのときの陣営内の人間関係がわかる「エピソード」を作るべきです。

 ですが前回の人間関係「エピソード」と内容が同じなのであれば、無意味に重複するだけなので「省いて」ください。

 これも「省く」技術です。




人物に謎をまとわせる

 主人公陣営のある人物に「謎」な部分を作ります。

 主人公陣営にいるのに「対になる存在」陣営とつながりがあるのではないと疑われたり、助力しようとするのに足手まといになったり。

 この人物は本当に主人公陣営の味方なのでしょうか。戦力としてカウントできるのでしょうか。

 マンガの青山剛昌氏『名探偵コナン』では高校生探偵である工藤新一を小学生にした「黒の組織」との戦いがメインストーリーです。

 そこに敵なのか味方なのか不明な人物がよく登場してきます。

 たとえばジョディ・スターリングや赤井秀一、ジェイムズ・ブラックやアンドレ・キャメルはいかにも「黒の組織」とつながりがあるかのような登場の仕方をして、読み手へ「謎」を提供していました。

 長期休養に入る直前に登場した帝丹小学校1年B組副担任の若狭留美もさまざまな場面で「謎」を示したものです。

 現在の強い「謎」は「黒の組織」で「ラム」というコードネームを持っている人物についてです。

「ラム」は「大柄で片目が義眼」という情報なのですが、該当すると思われる人物は三名。

 まず警視庁刑事部捜査一課管理官の黒田兵衛警視。毛利探偵事務所の隣にある「米花いろは寿司」で働く流れ板の脇田兼則。そして上記の若狭留美。

 この三名が「ラム」の条件に合致しているので、それぞれの人物が「謎」をまとっています。

「人物の謎」は連載の四部構成「主謎解惹」「起問答変」の「惹」「変」に当たるのです。

 そして次回が読みたくなるような「惹き」を「エピソード」のラストにうまく配置することで「早く次回が読みたい!」という状態を生みます。




人物の謎を解く

 人物に「謎をまとわせた」ら、その「謎」を解く「エピソード」も必要です。

「謎」のある人物が出たらその「謎」を解くタイミングを見計りましょう。

 そして物語が終わるまでに「謎」をすべて解いてください。

「謎」が「謎」のままで物語が終わるのは最低な下策で、最悪「知名度ネームバリュー」が失墜して二度とあなたの作品が読まれなくなる可能性もあります。

『名探偵コナン』ではジョディ、赤井、ジェイムズ、キャメルはいずれも後にFBIの人物だと判明しました。

 また「黒の組織」側としては「ベルモット」「キール」「バーボン」というコードネームを持つ人物が登場し、それぞれの謎が解かれています。

 こちらはネタバレが強すぎるのであえて触れません。

 そして「黒の組織」のナンバー2である「ラム」が誰なのか。

 黒田管理官か流れ板脇田か若狭先生か。

 それ以外かもしれませんが、『名探偵コナン』は基本的に「これまで出てきた人の中に該当者がいる」設定を貫いています。

 となれば「ラム」はこの三名のうちいずれなのか。

 その状況で作者が長期休養に入りました。

 それも今月から連載を再開しているので、「謎」がじょじょに解かれていくことでしょう。

 私たちが書く小説も、人物に「謎」をまとわせたら、その「謎」を必ず解くようにしてください。




陣営に加わる前の経験

 人物が主人公陣営に加わる前にどんなことを経験してきたのか。

 過去を振り返る「エピソード」があると時制に厚みが出て物語に深みが生まれます。

 その経験が別の「エピソード」で役立てば、さらに良いですね。

 『名探偵コナン』ではヒロインの毛利蘭が空手の都大会で優勝しています。

 ご褒美として遊園地・トロピカルランドに新一と行くことになるのです。

 そこで新一は江戸川コナンとなってしまいます。

 しかしこの過去の「経験」が後々の「エピソード」で生きてくるのです。

 蘭はピンチに陥りそうになると反射的に空手で相手をのしてしまいます。

 だから蘭が犯人に襲われそうになっても一撃必倒して犯人が逮捕されるのです。

 水野良氏『ロードス島戦記』ならドワーフのギムにはパーンたちの冒険に加わる前に、マーファ神殿の司祭・ニースに彼女の娘・レイリアを連れ帰ることを約束しています。

 これも「陣営に加わる前の経験」といっていいでしょう。




人物が活躍する

 人物が大活躍する「エピソード」も欲しいところです。

 とくに主人公陣営に所属している人物は、必ず「エピソード」を立てて活躍の場を与えてあげましょう。

 小説は「省く」芸術です。

 活躍しない人物を書くのはムダ以外のなにものでもありません。

 そんな人物は最初から「省いて」しまうべきです。

「この場面ではこの人物を活躍させよう」と明確に定めて「エピソード」内で「出来事」を起こします。

 ある程度小説を書き慣れてきた書き手でも、活躍しない人物が登場する小説が少なくありません。

 活躍しないのなら「出さない」、「出す」以上は活躍させる。

 その心積もりで「エピソード」を構築していくとよいでしょう。

 少なくとも「佳境クライマックス」で「対になる存在」と対峙する人物は必ず全員の総力をもって当たらなければなりません。

 「佳境クライマックス」で手を抜く人物なんてまったく必要ありませんからね。




人物の日常や休日

 これまで物語を進めるうえで必要な「エピソード」でしたが、人物の人となりを示す「エピソード」も欲しいところです。

 たとえば物語のメインストーリーから外れるけど、「人物の魅力を書きたい」から日常や休日などの「エピソード」を設けて、読み手に思い入れを持ってもらいたい。

 そういった動機で「エピソード」を作ってもいいのです。

 とくに魅力を書きたいというわけでもないのに日常や休日の「エピソード」を入れるのは蛇足になります。

 小説は「省く」芸術であることを忘れないでくださいね。





最後に

 今回は「エピソードの種類」について述べてみました。

 もちろんこれだけではありません。

 まだまだパターンがあると思います。

 これまでどれだけ物語に触れてきたか。

 その積み上げが「エピソードの種類」を増やしてくれます。

 自分の書きたいジャンルの小説を読みまくることをオススメしますが、「童話」「寓話」の類いでもかまいません。

「童話」「寓話」の大半は「ハイファンタジー」ジャンルです。

 つまり手早く読めて「エピソードの種類」を確実に増やせます。

 いい歳した自分が今さら「童話」「寓話」かよとお思いかもしれませんが、「エピソードの種類」のエッセンスを手に入れるためにも、数多く触れてみるといいでしょう。

 幸い『小説家になろう』にも『カクヨム』にも『ピクシブ文芸』にも、「童話」「子供向け」ジャンルが存在します。

 ここに投稿されている「童話」をたくさん読めば、必ずあなたの「エピソードの種類」を増やしてくれるのです。




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