395.深化篇:短編小説はやってきて去る物語
今回は「短編小説」は「やってきて去る物語」です。
それだけでは毎回設定を考えなければなりません。
星新一氏のような才能を持つ人は少ないと思います。
そこで「短編連作」にできないかを模索してみましょう。
短編小説はやってきて去る物語
短編小説は「やってきて去る」物語です。
主人公がやってきて「出来事」が起きて「解決」して去る話もあります。
「対になる存在」がやってきて「出来事」を起こして主人公が「解決」して「対になる存在」が去る話もあるのです。
ある日突然「出来事」がやってきて、周りに影響が及んで主人公たちが「解決」して「出来事」が去っていく話もあります。
どのような形であろうと、短編小説は「やってきて去る」という骨格を持っているのです。
ショートショートはそれをさらに先鋭化した作品なので、同様に扱っていきます。
主人公がやってきて去る物語
「主人公がやってきて去る物語」は「短編連作」の形になります。
テレビドラマ『水戸黄門』『暴れん坊将軍』のように、主人公一行が現地を訪れて事件に巻き込まれ、主人公一行が活躍して解決するのです。
これがワンセットで、放送話数ぶん繰り返されます。
この形のいいところは、「いくらでも長引かせられる」ことです。
『水戸黄門』『暴れん坊将軍』もかなりの期間放送されていました。
これはマンガでも同じです。
マンガの青山剛昌氏『名探偵コナン』も、ほとんどが「主人公がやってきて去る物語」になっています。
そうやって連載が二十年以上続いているのです。
マンガの尾田栄一郎氏『ONE PIECE』も、船旅を続けて「麦わらの一味がやってきて去る物語」になっています。
こちらも連載二十年を超えているのです。
「エピソード」さえ思いつけば「いくらでも長引かせられる」ので、連載小説の長期連載にも使える形になっています。
連載小説の「エピソード」だと仮定すれば連載の四部構成「主謎解惹」「起問答変」が使えるので、ぜひ取り入れてみてください。
連載の四部構成はコラムNo.328「執筆篇:連載の起承転結」に詳しく書いてあります。
短編小説を書くとき、つねに「短編連作」にできないかを検討してみましょう。
「短編連作」が良いのは「同じ主人公を使いまわせるので、いちいち設定を書く必要がない」ところです。
『水戸黄門』『暴れん坊将軍』も『名探偵コナン』『ONE PIECE』も「短編連作」の形をとっています。
つまり毎回主人公の説明をしていないけれども、主人公がどんな人物なのかは受け手がよく知っているのです。
毎回ご丁寧に主人公の設定を書いている「短編連作」はありません。
つまり「エピソード」を思いついて「短編連作」のつもりで書けば、いくらでも長期連載が可能になるわけです。
対になる存在がやってきて去る物語
対して「対になる存在」がやってきて去る物語もあります。
たいていの場合は主人公が「対になる存在」と戦って追い返すか倒すかする形です。
マンガの諫山創氏『進撃の巨人』が好例でしょうか。
城塞都市に攻め込んでくる巨人を主人公たちが迎え撃って倒していきます。
この形を選んでしまうとワンパターンに陥って、長期連載が難しくなるのです。
『進撃の巨人』も毎度のように城塞都市に巨人が攻めてきました。
もうワンパターンですよね。
これでは長期連載をさせるのが難しくなります。
そこで「実は巨人は……」「実は主人公は……」といった設定を作っていくことでワンパターンを回避しようと試みているのです。
それがうまくいっているかはなかなか判断が難しいと思います。(2018年執筆当時)。
では攻め込んでくる「対になる存在」を毎回変えてみたらどうなるでしょうか。
こちらは短編連作の長期連載に成功しています。
マンガの森川ジョージ氏『はじめの一歩』は、主人公である幕之内一歩とボクシングで戦う相手を替えることで「ワンパターン」を回避しているのです。
また主人公陣営として鴨川ジム所属選手がさまざまな相手と戦うこともあるので、より多くのパターンが生み出されます。
「対になる存在」がやってきて去る物語は、ワンパターンに陥りやすいのです。
ですがやってくる「対になる存在」が毎回替われば、パターンに多様性が生じます。
出来事がやってきて去る物語
中には「出来事」がやってきて去る物語もあります。
たいていは主人公たちに「出来事」が発生して、主人公たちが協力して「出来事」を「解決」する形です。
このパターンで最も有名なのは川原礫氏『ソードアート・オンライン』でしょう。
VRMMORPGである「ソードアート・オンライン」の正式オープンに参加した一万人のユーザーは突如ログアウトできなくなり、全百階層ある浮遊城アインクラッドを誰かが攻略しなければログアウトできなくなるのです。しかもゲーム内で死ねば現実世界の肉体も死んでしまうデスゲームと化してしまいます。
主人公である
そしてキリトの働きによって「出来事」が「解決」されます。
そうです。七十五階層がクリアされた直後のデュエルに勝った段階でデスゲームは「終わり」を迎えたのです。
そして「ソードアート・オンライン」の浮遊城アインクラッドはいったん崩壊し、健全なVRMMORPGへと作り変えられました。
この形の場合、短編連作を作りにくいのが難点です。
『ソードアート・オンライン』をお読みいただいてもわかるように、主人公の前に都合よく「出来事」を起こすことが難しく、また繰り返し「出来事」が起きるのも不自然に映ります。
そこで『ソードアート・オンライン』はひとつのVRMMORPGワールドの攻略に時間がかかるようになっていくのです。
アインクラッド編を再編している『ソードアート・オンライン プログレッシブ』なんてかなりの長期連載になっていますよね。
ですから基本的に短編小説で「出来事」がやってきて去る物語は「単発」でなければ使えないと考えてください。
時間と場所はあまり動かさない
短編小説は「やってきて去る」物語です。
ということは、「出来事」が起きる時間と場所はそれほど動かさないで、主人公や「対になる存在」などをその中で動かすようにしましょう。
とくにショートショートの場合は時間と場所はできるだけ同じとき同じところで「出来事」が起こるようにすべきです。
たとえば「自分の部屋で○○というアイテムを作った。翌朝学校に持っていって、クラスメートに○○の出来栄えを披露した。」という物語にするとします。
これだと時間と場所が一回移動してしまいますよね。
移動するぶんだけ時間と場所の「説明」に紙幅を割く必要があるのです。
そうではなく「(学校の)ホームルームの前。クラスメートが見ている中で、昨日自宅で作った○○というアイテムを机の上に置いた。」と書きます。
こうすれば時間と場所は「学校」「ホームルームの前」で固定されますよね。
「学校の」にカッコを入れたのは「ホームルーム」と書けばたいていの方が「学校の」と連想してくれるので、取り立てて書く必要がないからです。
時間の経過も短く
短編小説を書くなら、時間の経過もできるだけ短くすべきです。
可能であれば読み手が小説を読んでいる時間とリアルタイムでつながるような時間経過を書きます。
たとえばショートショートで三千字の物語なら五分、一万二千字の物語なら二十分の経過がベストです。
ですが実際にこれをやろうとするのは、なかなか難易度が高い。
そこで一時間であったり一夜であったり一日であったり一週間であったりと、短い時間経過にとどめる意識を持ちましょう。
夏目漱石氏『夢十夜』は「こんな夢を見た」というような形で計十日ぶんの夢物語が描かれた短編小説です。
一夜ごとの分量がショートショート一本ほどなので、ショートショートの連作小説と見ることもできます。
短編小説『夢十夜』がショートショートの連作であるように、長編小説も短編小説の連作だと思ってください。
そう思うだけで「エピソード」内の時間と場所の移動がかなり抑えられます。
ですがアニメのガイナックス『トップをねらえ!』のラストのような手法もカタルシスを感じさせて「あり」です。
最後に
今回は「短編小説はやってきて去る物語」について述べてみました。
短編小説の主人公は多くの「説明」「描写」ができないため、どうしても薄っぺらくなりがちです。
そこで短編小説は可能な限り「短編連作」になるよう「狙って」書いてみてください。
そうすることで世界観・舞台が格段に大きくなり、登場人物も大物感を漂わせてキャラが立つようになります。
小説のネタをそうポンポン連発できる書き手なんてまずいません。
であれば、短編小説は「短編連作」の形に持っていって将来のネタを確保すべきです。
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