392.深化篇:よくあるキャラが感情移入の入り口
今回は「感情移入」のために「よくあるキャラ」を用いることについてです。
変人が主人公だと、読み手はなかなかのめり込んでくれません。
ですがそこらにいる中高生が主人公なら、読み手は共通項を見つけて感情移入しやすくなるのです。
よくあるキャラが感情移入の入り口
皆様は物語に登場する人物を目にしたとき、「オリジナリティーがあってとがっている」キャラだと思っていませんか。
それは本当に「オリジナリティーがあってとがっている」のでしょうか。
少し深く考えてみましょう。
どれくらいとがっていますか
たとえば川原礫氏『ソードアート・オンライン』(『SAO』)の主人公である
とある事情で人付き合いが不得手なため、しばしば孤立する。
六歳のときにジャンクパーツから自作PCを組み立てられるスキルがある。
βテスト時からVRMMORPG『ソードアート・オンライン』をプレイしていたほどの廃プレイヤー。
全プレイヤー中で最速の反応速度を有しておりユニークスキル「二刀流」を所持している。
エトセトラ……と言いたいところですが、実際この四点くらいしかとがっている部分はありません。
後はどこにでもいる中学二年生です。
ぽかんとしていますよね。
では渡航氏『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』(『俺ガイル』)の主人公である比企谷八幡はどのくらいとがっているか書き出してみます。
幼少期から軽んじられ裏切られ続けたために、他人の好意を信じられなくなっている。
人の醜いところばかりを見せつけられてきたので、とくに女子に対して強い警戒心と猜疑心を抱いている。
他人への期待や評価が外れても内罰的な自己嫌悪に陥る。
そのため表面よりも内面や思惑などを見抜く洞察力に優れている。
エトセトラ……と言いたいところですが、実際この四点くらいしかとがっている部分はありません。
他はどこにでもいる高校二年生です。
首を傾げたくなってきましたね。
新劇場版のアナウンスがあったマンガ・北条司氏『CITY HUNTER』の主人公である冴羽リョウはなにがとがっているのか。
都会の
なのに過去の経緯から飛行機には乗れない。
心が震えたときにしか依頼を受けない。
美女には目がなく、股間をもっこりさせて飛びつこうとする。
やっぱり四つくらいしか挙げられませんね。
実はよくあるキャラ
そうなんです。
あなたが「この作品は主人公がとてもとがっている」と思えても、なにがとがっているのかを挙げてみるとたいてい四点くらいなのです。
その他は一般人と大差なし。
いわゆる「よくあるキャラ」です。
「よくあるキャラ」だから読み手と性質が近しくなって感情移入がしやすいのです。
そこにアクセントとして「とがった」要素をいくつか加えて主人公を生み出します。
そうすることで簡単に「オリジナリティーがあってとがっている」キャラが誕生するのです。
たとえば「FBI捜査官」「CIA諜報員」「公安警察官」というよくあるキャラを設定したいとします。
よくあるキャラに「高校で教鞭をとるFBI捜査官」であったり「人気アナウンサーであるCIA諜報員」であったり「喫茶店でバイトをしている公安警察官」であったりという「実は○○なキャラ」というものを作り上げればいいのです。
たったそれだけで「とがった」キャラになります。
上記三つはマンガ・青山剛昌氏『名探偵コナン』に出てくるキャラ「ジョディ・スターリング(偽名ジョディ・サンテミリオン)」「水無怜奈(本名・本堂瑛海)」「安室透(本名・降谷零)」ですね。
水無怜奈は「黒の組織」で「キール」のコードネームを持っており、ジンやウォッカとともに暗殺や取引に従事しています。
安室透は同じく「黒の組織」で「バーボン」のコードネームを持っており、組織一の推理力を有するとされているのです。
これらも「とがっている」要素のひとつですね。
プラスとマイナスの混在
「とがった」要素にはプラスなものとマイナスなものがあります。
そして必ずプラスとマイナスが混ざっているのです。
プラスの要素だけしかないと「完全無欠」な主人公像になってしまい、「このキャラは出来すぎている」と思われて感情移入がしづらくなります。
『CITY HUNTER』の冴羽リョウであっても「美女に目がない」「飛行機に乗れない」という弱点があるのです。
マイナスの要素だけしかないと「どうしようもなくダメ」な主人公像になってしまい、「ここまで卑屈な主人公は嫌だ」と思われて感情移入する気にもなりません。
『俺ガイル』の比企谷八幡であっても「洞察力に優れている」という長所があるのです。
「とがった」要素のプラスとマイナスを混在させることで、より魅力的な主人公が出来あがります。
キャラは成長する
忘れがちな点として「主人公は物語の中で成長している」ことが挙げられます。
物語開始時の「とがった」要素は、物語進行によってエピソードの出来事を経て、別の「とがった」要素へと成長していくのです。
これにより、物語で最も盛り上がる「
『SAO』の
その時点までのキリトには、そこまでの「洞察力」はありません。
「とある事情で人付き合いが不得手なため、しばしば孤立する。」という「とがった」要素が、七十五階層クリアまでに出会いと別れと再会といったさまざまな経験を経て成長し、「洞察力」を手に入れたのです。
「
童話『桃太郎』も「
鬼ヶ島に向かう道中で味方につけています。
それは桃太郎の「とがった要素」ではなく「お婆さんが用意したきびだんご」によって味方に引き入れているのです。
自身のカリスマ性で犬・猿・雉を味方につけたわけではありません。
つまり桃太郎のカリスマ性は、実は「お婆さんのきびだんご」より劣るということになります。
そう考えると、桃太郎ってかなり情けない主人公ですね。
最後に
今回は「よくあるキャラが感情移入の入り口」について述べてみました。
よくあるキャラに「とがった」要素をいくつか混ぜると「とがったキャラ」が出来あがります。
基本がよくあるキャラなので、読み手は感情移入がしやすいのです。
一度感情移入してくれたら、「とがった」要素がそのキャラの魅力に感じられます。
こうして魅力的な主人公を生み出すのです。
そして「佳境(クライマックス)」に必要な「とがった」要素は、物語の冒頭から有している必要はありません。
物語が進行してさまざまな経験を経ることで、「
つまり小説とは「最も盛り上がるところが成立するように、主人公を成長させる」物語だといえます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます