390.深化篇:共感の増す主人公像

 今回は「主人公像」についてです。

 等身大で成長していく主人公が望ましい。

 そのうえで「憧れる」要素があればなお良いところです。





共感の増す主人公像


 小説に限らず、物語は読んだり観たりしている人が主人公に共感できて感情移入しやすいことが求められます。

 とくに小説は文字しか書かれていないので、「絵が好み」「役者が好き」といった映像面での補助作用を期待できません。

 ではどんな主人公が読み手の共感を得るのでしょうか。




読み手と等身大の主人公

 最も読み手の共感を得やすいのは、読み手と同じような等身大の主人公です。

 中高生が主要層であるライトノベルであれば、主人公を中高生に設定するだけで共感してもらいやすくなります。

 主人公の性別も重要です。

 男性が読むことを想定しているのなら「男主人公」に、女性が読むことを想定しているのなら「女主人公」にしましょう。

 もし中年を主要層にしたい小説であっても、主人公を中高生に設定するのは「あり」です。

 ほとんどの中年の方は中高生を経験しています。

「教育」が国民の三大義務である日本なら当たり前ですよね。

 それでもいじめやパワハラ、また家庭の貧困などが原因で不登校に陥ってしまい、中高生を経験していない人も存在します。

 不登校の経験者は全体の5.4%ほどとされているそうです。

 読み手のターゲットとしてじゅうぶんな割合を持っています。

 だから不登校の中高生が主人公の小説というものも、大いにウケる可能性があるのです。

 実際小説投稿サイト『小説家になろう』では「異世界転生」「異世界転移」がそれぞれ登録必須キーワードとなっています。

 現実世界で「理想としていた人物になれなかった」人たちが「異世界転生」「異世界転移」をとくに読むのです。




エリートはライトノベルを読まない

 もし現実世界で成功していたとしたら、あなたは「異世界転生」「異世界転移」ものを読みたいと思うでしょうか。

 現実世界が楽しいわけですから、あえて「異世界」に思いを馳せる必要性を感じませんよね。

 だから人生の成功者がライトノベルを読むことはまずありません。

 子どもの頃にライトノベルを好んで読み、現実世界で試験に合格し目指していた学校に入り、理想としていた職業に就いた人。

 こういう成り上がってきた人なら、たとえ成功者であってもライトノベルを好んで読みます。

 幼稚園の頃から塾に通い、エリートコースを歩いてきたような人は、けっしてライトノベルは読みません。

 エリートの中にも小説を読む人自体はたくさんいます。

 だとしても、それは受験に出る「文豪」の作品か、池井戸潤氏『下町ロケット』のような経済小説だけです。

 なのでエリートの方は、「異世界」を楽しむことを知りません。

 小説は「国語」の読解力テストで点数を上げる「課題」でしかないのです。

 これは現在日本政府が推進している「クールジャパン戦略」が、二次元愛好家からひんしゅくを買っていることの一因となっています。

「異世界」について理解のない政治家や官僚が、「異世界」の魅力を海外にアピールしようとしているのです。

 自分たちも知らない「異世界」の魅力を売り込もうとするわけですから、うまくいくはずがありません。

 こういうことを知ったあなたは、ライトノベルを楽しんで読める今の自分でよかったと思いますか。

 ライトノベルを読まなくてもいいのでエリートになりたかったのでしょうか。

 ちなみに私はエリートではありません。

 ですが「ライトノベルを読める」現状はとても素晴らしいことだと思っています。

 まぁ億を稼げるような人物になりたくなかったかといえばウソになるでしょうね。




読み手は主人公とともに成長する

 等身大の主人公がよい点は、読み手が主人公とともに成長していけることです。

 つまりレベル1から物語をスタートさせ、主人公がレベル10になれば読み手もレベル10に、主人公がレベル100になれば読み手もレベル100になれます。

 このように主人公と読み手がリンクするには、読み手を主人公に感情移入させなければなりません。

 主人公に提示される選択肢や主人公がとる解決法は、読み手が思いつくものである必要があります。

 読み手が思いつかないことを主人公がとると、読み手が感情移入しづらくなるのです。


 また等身大の主人公は、どんなにネガティブな要素を持っていてもかまいません。

 その代わり「物語終了時」では明るく、思いやりがあり、コミュニケーションがうまくとれるようになって「やさしさ」が感じられる人物像にしてください。

 つまり等身大の主人公を通じて、読み手の人物像が変えられるような構成にするべきなのです。

 そうすることで読み手は読書を通じて人間として成長します。

 成長した読み手は、あなたの小説を「バイブル」として一生携えていくのです。

 そのくらい、小説という一次元の芸術は読み手に大きな影響を与えます。

 だから多くのライトノベルには「ハッピーエンド」が求められるのです。

 たとえ「バッドエンド」になろうとも、「ハッピーエンド」を目指したうえであれば読み手は大きな感銘を受けます。

 不安や緊張など負の感情に満ちた「悲劇」の展開をし、それが一気に解放されて心が晴れ晴れとする「カタルシス」もよく見られる作風です。

「カタルシス」はとくに「悲劇のもたらす効果」としてアリストテレスが説いた言葉です。

 喜劇を読んで腹の底から笑ったときの読後感は、正確には「カタルシス」とは呼びません。




読み手が憧れる主人公

 読み手が共感する主人公は、なにも読み手と等身大であることばかりではありません。

 小説を読むことは、「なりたい自分になれる」魔法を自分にかけることと似ています。

 なんの取り柄もない人が、剣の技量なら誰にも負けない宮本武蔵のような「剣聖」にも、爆裂魔法でザコを蹴散らすような「魔導師」にもなれるのです。

 ピチピチギャルにモテモテな「イケメン」にだってなれます。――ってこれは死語が多いですね。

「なりたい自分になれる」ことで、読み手は主人公に感情移入していきます。

 これは小説よりもテレビドラマを例にしたほうがわかりやすいでしょう。

『ウルトラマン』『仮面ライダー』『スーパー戦隊』『美少女戦士セーラームーン』『プリキュア』といった各シリーズで、主人公は敵対者たちを「変身」してやっつけていきますよね。

 この「変身」が受け手の「憧れ」なのです。

 だって実際には「変身」なんてできませんからね。

 だからこそ「変身」できる主人公は「憧れ」の存在となるのです。


 ライトノベルでは鎌池和馬氏『とある魔術の禁書目録』の主人公・上条当麻が「憧れ」の存在として有名だと思います。

 普段は「レベル0」の無能力者で、読み手が共感する等身大の人物です。

 でもいざとなったら右手に秘められた能力『幻想殺しイマジンブレイカー』によってほぼすべての「異能」を「無効」にできます。

 そしてどんな強敵であろうともぶん殴って説教垂れて、結果「勝つ」のです。

 これも「変身」ですよね。

 他にも「ハーレム」ものの弓弦イズル氏『IS〈インフィニット・ストラトス〉』の主人公・織斑一夏も有名だと思います。

「剣聖」としては川原礫氏『ソードアート・オンライン』の主人公キリト(桐ヶ谷和人)が挙げられるでしょう。

 いずれの主人公も、読み手が憧れるような能力や環境を有しています。





最後に

 今回は「共感の増す主人公像」について述べてみました。

 主人公に共感できないようでは読み手は感情移入できません。

 共感させるためには「等身大」「成長」「憧れ」といった要素が必要です。

 このポイントさえ押さえてあれば、「読み手が共感する主人公像」というのはそれほど難しいことはないと思います。



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