389.深化篇:主人公には欠点が必要
今回は「主人公の欠点」についてです。
完全無欠のヒーローは幼い頃の憧れだったと思います。
でもそんなヒーローを小説に書いてもまったくウケません。
なぜでしょうか。
主人公には欠点が必要
とくに意識していないと、小説の主人公は万能で無敵な存在になりがちです。
万能で無敵だから、どんな困難や課題もあっさりと攻略してしまいます。
でも読み手はそんな様を見て、なにを感じるのでしょうか。
先が読めて面白くない
万能で無敵つまり「完全無欠」な主人公は「憧れ」を抱かせる存在ではあります。
しかし実際なんでもかんでもあっさり解決してしまうようでは読み手がまったく楽しめません。
だって物語の先々の展開が読めてしまって、ちっとも面白くないんですから。
もちろん展開が読めるから楽しめる物語もあるにはあります。
たとえば時代劇ドラマ『水戸黄門』。
水戸光圀公が一般人の「越後のちりめん問屋の光右衛門」と称して諸国を漫遊し、悪を見つけては懲らしめていく「勧善懲悪」の典型的な作品です。
たとえどんな悪であっても、助さん格さんなどとともにバッタバッタと敵を薙ぎ倒し、頃合いを見て「三葉葵の印籠」を出して悪人を懲らしめます。
時代劇ドラマとしては『暴れん坊将軍』『遠山の金さん』『大岡越前』『必殺仕事人』なども普段は一般人のように生活し、悪を見つけたら正体を明かす『水戸黄門』と同じ「勧善懲悪」ものでしたね。
こういった「勧善懲悪」ものは先々の展開が読めてしまったほうが安心して観ていられるのです。
特撮ドラマ『ウルトラマン』『仮面ライダー』『スーパー戦隊』、アニメ『美少女戦士セーラームーン』『プリキュア』といった各シリーズも基本的に「勧善懲悪」になっています。
子どもとお年寄りには、この手の「勧善懲悪」ものがとてもウケるのです。
どんな危機に追いやられても「ここからどうやって勝つのかな?」とワクワク感が止まりません。
小説投稿サイト『小説家になろう』なら「主人公最強」「チート」などのキーワードで示されるような作品は「どんな状況になっても必ず主人公が勝つんだよね」という共通認識を書き手と読み手が抱いています。
そうであってもライトノベルでは「勧善懲悪」ものはなかなか厳しく難しいものがあります。
単に戦って勝つだけでは平凡すぎて面白みに欠けるのです。
商業ライトノベルで成功している「勧善懲悪」ものは鎌池和馬氏『とある魔術の禁書目録』などごくわずかだと思います。
あるときは勝ち、あるときは負ける。
その勝率を読み手が感じとってハラハラ・ドキドキを覚えるのです。
小説では「この不利な状況からどうやって勝つんだろう」と思わせることを第一とします。
ですが、読み手が憧れるような「完全無欠」な主人公にしたいと考えている書き手の方もいらっしゃるでしょうね。
主人公には欠点が必要
前述のとおり「完全無欠」な主人公な物語は面白味に欠けます。
しかしなにか「欠点」があると、途端に物語の面白味が増すのです。
たとえばマンガの北条司氏『CITY HUNTER』の主人公・冴羽リョウは、銃の腕前が世界一と言ってよいでしょう。
銃撃戦になれば必ず勝ち残る「完全無欠」な主人公ともいえます。
しかし冴羽リョウには「もっこり」という「欠点」が存在するのです。
綺麗な女性を見たら股間が「もっこり」して、その女性に飛びつこうとしてしまう。
これにより、幾度も危機を招くことになります。
こういった「欠点」があるからこそ、「完全無欠」な主人公でも人間味を感じてハラハラ・ドキドキした展開が生まれるのです。
アニメのサンライズ『スクライド』の主人公・カズマは信念一筋で折れることのない鋼の心を持っています。
しかしすべてのことを殴って解決しようとしてしまう「欠点」があるのです。
それにより冴羽リョウと同様幾度も危機を招いてしまいます。
カズマは信念を強く持ち続け、状況のほんのわずかな変化をきっかけにして「欠点」を強引に上から克服してしまうのです。
「それがどうした!」と開き直ったときの「人間の強さ」が強調された主人公だといえます。
強引に上からねじ伏せてしまうタイプとしてはアニメのサンライズ『機動武闘伝Gガンダム』の主人公であるドモン・カッシュ、アニメのガイナックス『天元突破グレンラガン』の主人公であるシモンも挙げられるでしょう。
いずれも熱く強いハートを持っていて、「欠点」を突かれて危機に陥っても強引に上からねじ伏せてしまいます。
熱い男の「燃える」展開は、「欠点」を強引に上からねじ伏せる作品が多いのです。
弱点となる人物
「完全無欠」な主人公は、先々の展開が読めてしまって物語は面白味に欠けます。
ですが困ったことに、「完全無欠」な主人公でなければ書き手の意図が読み手に伝わらない、という状況に陥る物語はありえるのです。
ではどうしたら「完全無欠」な主人公でもハラハラ・ドキドキ感を読み手に提供できるのでしょうか。
それには「弱点となる人物」の存在が必要です。
一緒にいてもいいですし、離れていてもかまいません。
バトルが始まりそうなときに「弱点となる人物」が人質にとられてしまうのです。
すると「完全無欠」な主人公でも、すぐにはバトルで解決することができませんよね。
もちろんバトルが始まったとき主人公に不安がなくなっていれば一気に逆転勝ちできるのです。
「弱点となる人物」がどのようにして危機を脱するか。
そこにハラハラ・ドキドキ感が生まれます。
「弱点となる人物」が危機を脱したら、「完全無欠」な主人公はいつでも勝てる状態になるのです。
つまり読み手がワクワクしてきますよね。
これでワクワク・ハラハラ・ドキドキがすべて揃うのです。
それができればその小説は多くの評価を集められます。
『CITY HUNTER』も、一般人で依頼を引き受けてくる槇村香が、スーパーヒーローである冴羽リョウの「弱点となる人物」と言えるでしょう。
ときに香が敵の手に落ち、不利な戦いを強いられます。
しかし海坊主が現れて香を救出したら、勝負は一瞬で決するのです。
最後に
今回は「主人公には欠点が必要」なことについて述べました。
「完全無欠」な主人公は、「結局最後は勝つんだろ」と思われてしまって、ハラハラ・ドキドキ感が薄い物語になりやすいのです。
読み手が楽しんで読んでくれるようにするには、主人公に「欠点」を作ったり、「弱点となる人物」を出したりしましょう。
それだけで展開は途端に波乱含みになるのです。
「完全無欠」でも物語を面白くする手段はたくさんあります。
それらをどう組み合わせるか。
そのパターンの数だけ、物語の展開は派生していきます。
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