388.深化篇:人はキャラに惹かれる
今回は「人はストーリーではなくキャラに惹かれる」ことについてです。
意外に思うかもしれませんね。
「良いストーリーが思いつかない」から私の小説は評価が低いのだ。
そう考えるのも無理はないのですが、ストーリーよりも「良いキャラ」を考えたほうが評価を得やすいものです。
人はキャラに惹かれる
あなたには好きな小説やマンガや映画などがありますか。
皆様がそういった作品を好きなのは「ストーリーに惹かれて」だと思っているものです。
「ストーリーに惹かれる」から作品に触れるのだ。
そう感じるのです。
ですが、それは真実を大雑把に捉えています。
ストーリーに惹かれる
私は田中芳樹氏の『銀河英雄伝説』や水野良氏の『ロードス島戦記』を読んで小説というものを強く意識するようになりました。
そして両作は「ストーリーに魅力があった」と思っていたのです。
銀河を舞台に戦略・戦術といった駆け引きが繰り広げられる。だから『銀河英雄伝説』が好きだ。
冒険者としての成長物語として筋が通っている。だから『ロードス島戦記』が好きだ。
そう思っていました。
たしかにそういう一面がある作品たちなので、読んでいて楽しめるのです。
ですがそれはあくまでも「一面」に過ぎません。
「ストーリーに惹かれる」ためには、「どんな主人公が(起)、どうなったか(結)」を知る必要があります。
そのうえで「どうなりたい(承)から、何をする(転)」を揃えるのです。
ここまで読んでお気づきになった方はカンが鋭い。
そのとおりです。
「ストーリーに惹かれる」ためには「主人公が変化する過程」を読ませる必要があります。
つまり「主人公に惹かれて」いなければ、「ストーリーに惹かれる」こともないのです。
主人公に惹かれる
では「主人公に惹かれる」点から見て、『銀河英雄伝説』『ロードス島戦記』を見てみたいと思います。
『銀河英雄伝説』には二人の主人公がいます。(うち一人は途中で変更されます)。
銀河帝国側の主人公ラインハルト・フォン・ローエングラムと、自由惑星同盟側の主人公ヤン・ウェンリーです。
私はこの両者にとても強く「惹かれて」いました。
「常勝」のラインハルトと「不敗」のヤン。
兵法を研究している私から見て、二人のとった戦略・戦術は多くの点で理にかなっていたからです。
だからこの二人が指揮する戦いのシーンは、ワクワクしながら読んでいました。
ラインハルトはナポレオン・ボナパルト氏のような戦い方です。
数によって優位を築き、戦う前から「勝つ」ことが当たり前になっています。
つまり「戦略」において優位を築くタイプです。
ヤンは山本五十六氏のような戦い方です。
少ない数を補うために、相手を分散させて局所で数の優位を築いて相手の弱点を的確に突くのです。
つまり「戦術」において優位を築くタイプといえます。
だから最終的にラインハルトが勝つわけですが、戦闘の局面においてはヤンがその上を行くのです。
私はラインハルトもヤンも好きですが、とくにヤンに思い入れがあります。
これは多分に「
弱い者が強い者に挑んでいく姿は、いつ見ても清々しく感じられます。
『ロードス島戦記』においてはやはり主人公パーンの一途な聖騎士への憧れの強さに惹きつけられました。
しかも美人のハイエルフが相棒ですから、なおさらですよね。
シリーズ第一作目『ロードス島戦記 灰色の魔女』で初登場時のパーンはただの血気盛んな村人に過ぎません。
それが旅を続けるにつれぐんぐんたくましく成長していきます。
そして「灰色の魔女」カーラとの最終決戦においては、パーティーを引っ張るに足る実力を有するようになったのです。
パーンはシリーズが進んでいくと「自由騎士」「ロードスの騎士」という二つ名で知られるようになっていきます。
こういった主人公の成長物語は、主人公にうまく感情移入させていれば強烈な磁石となって読み手を吸いつけるのです。
ストーリーは心の移ろいが要
私が『銀河英雄伝説』を好きなのはヤン・ウェンリーというキャラクターの魅力によるものでした。
『ロードス島戦記』を好きなのはパーンというキャラクターの魅力によるものでした。
つまり「ストーリーに惹かれていた」を突き詰めていけば「キャラクターに惹かれていた」ことがわかります。
ストーリーはキャラクターの魅力を引き出すために存在します。
物語の最小単位である「企画書」は「どんな主人公が(起)、どうなりたくて(承)、何をして(転)、どうなったか(結)」が骨子です。
つまりストーリーとは「キャラクターの変化を楽しむ」ために展開されていくものに他なりません。
判断にためらいを覚えない人はほとんどいないと思います。
いたらよほど精神力の強い方か頑固で意固地な方だけでしょう。
多くの人は即断即決とはいきません。必ず判断に迷います。
主人公のそんな「心のゆらぎ」を書くことこそが文章を小説たらしめる要素なのです。
「こんな状況のとき、あなたならどう行動しますか?」と問いかけられます。
読み手は瞬時に「自分ならこうするだろう」と判断するのです。
そして作品の続きには主人公が判断した過程と行動が書かれます。
ここで自分と主人公との感じ方・思い方・考え方の違いが表れるのです。
普通なら「自分と主人公では違うんだな」と別人のように感じるかもしれませんね。
小説では違うのです。
読み手は読み進めながら、主人公の感じ方・思い方・考え方へと柔軟に軌道修正してくれます。
つまり「主人公に感情移入するために、主人公の感じ方・思い方・考え方を受け入れる」のです。
そうすることで「主人公になりきる」ことができます。
すぐれた小説の特徴は、読み手と主人公の性格や思考の差を「早い段階から埋めて修正していく」ところにあります。
そうすることで読み手は「血気に逸る若者」にも「臆病な少年」にもなりきることができるのです。
昭和の大スターであった高倉健氏の映画を観た男性は皆、帰り際に「高倉健氏になりきって」いたと言われています。
それは高倉健氏の演じたキャラクターが観覧者の心と一体化し、キャラクターの成長が観覧者の成長と一致していたからでしょう。
高倉健氏の演技力もありますが、キャラクターの成長をきちんと映画に落とし込めたストーリーが見事だったのです。
キャラクターの成長と受け手の成長が一致することが、ひいては「ストーリーに惹かれた」と思わせます。
最後に
今回は「人はキャラに惹かれる」ことについて述べてみました。
「ストーリーに惹かれた」と思うことがあっても、それが「キャラクターに惹かれた」からだとは気づきづらいものです。
しかし本コラムをお読みいただいたことで、あなたは「キャラクターとくに主人公こそが読み手を惹きつけるのだ」ということに気づいたと思います。
「ストーリーを練る」ことだけに腐心するのではなく、「主人公のキャラクターを活かしたストーリーを考える」ことも熟慮してください。
それが「人を惹きつけるストーリー」を生み出します。
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