287.表現篇:同じ末尾を続けない
今回は「文末」についてです。
なんの気なしに小説を書いていると、同じ文末がいくつも続いてしまうことになります。
そうなると「小学生の作文」ですよね。
同じ末尾を続けない
読んでいて飽きてくる文章の中でも、とくに多くの書き手が意識しないで起こしてしまうものがあります。
「同じ末尾を続ける」ことです。
だ・である体
「だ・である体」は動詞文ならウ段で終わります。だから同じことを書いているのに多様性を感じるのです。
たとえば「子どもを預ける」「セミが死ぬ」「もう休む」
形容詞文は「〜い」「〜しい」となり、名詞文と形容動詞文は「〜だ」で終わります。
たとえば「空が青い」「俺は男だ」「場内が静かだ」という具合です。
注意が必要なのは動詞文の「〜る。」で活用するものと、名詞文・形容動詞文の「だ。」で活用するものになります。
意識しないと何文でも「〜る。」や「〜だ。」だけで文章が進んでいきます。
しかし「〜だ。」に関しては「〜である。」と言い換えられるのです。
名詞文・形容動詞文に関しては「〜である。」と動詞文にすることで「同じ末尾を続ける」ことを回避できます。
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俺は男だ。男は総じて無口だ。必要に迫られたときにのみ口を開けばいいのだ。それ以外は沈黙を守るのだ。男にとって沈黙は金だ。
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すべて「〜だ。」にしてみました。
「俺は男だ」は名詞文。
「男は総じて無口だ」は形容動詞文。
「口を開けばいいのだ」は形容詞を名詞文化したもの。
「沈黙を守るのだ」は動詞文を名詞文化したもの。
「沈黙は金だ」は名詞文です。
元から名詞文・形容動詞文であればまだいいのですが、今回は形容詞文も動詞文も「〜だ。」で終わっています。
そこまで「〜だ。」にこだわる理由はなんでしょうか。
「韻を踏む」という意味で用いる場合もあると思います。
でもここまで無理やり「〜だ。」にしてしまうと単調このうえないです。
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俺は男だ。男は総じて無口である。必要に迫られたときにのみ口を開けばいい。それ以外は沈黙を守る。男にとって沈黙は金だ。
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名詞文だけ「〜だ。」にし、形容動詞文を「〜である。」と動詞文化しました。形容詞文と動詞文はそれぞれ元の形に戻します。
たったこれだけで単調さが払拭されました。
これに対し、動詞文の「〜る。」続きはなかなか難渋します。
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私は空を見上げる。高くて大きな積乱雲が浮かんでいる。遠くで雷の音がする。もうじきゲリラ雷雨に襲われる。その前に買い物を終える。その決心で走る。
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六回連続「〜る。」で終わりました。
改善するには「活用する」か「他の動詞に置き換える」かしましょう。
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私は空を見上げた。高くて大きな積乱雲が浮かぶ。遠くで雷の音が轟く。もうじきゲリラ雷雨に襲われるかもしれない。その前に買い物を終えよう。その決心で走った。
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「活用する」は「空を見上げた」と「買い物を終えよう」「その決心で走った」、「他の動詞に置き換える」は「浮かぶ」「轟く」です。
「ゲリラ雷雨に襲われる」に関しては「他の動詞に置き換える」のが難しいのですが、「活用する」のなら「襲われるかもしれない」あたりが無難でしょうか。
です・ます体
「です・ます体」の利点は読み手に丁寧な印象を与えることです。
ですが「です・ます体」は名詞文・形容詞文・形容動詞文は「〜です。」で終わり、動詞文は「〜ます。」で終わります。たとえば「彼は男です」「空が青いのです」「場内が静かです」とすべて「〜です。」ですよね。また動詞文を「〜のです。」と活用すると「〜です。」文に変わってしまいます。
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彼は男です。ただ腕っぷしは弱いです。そのためいつも目立たず静かです。もう少し覇気を持つのです。
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順に名詞文、形容詞文、形容動詞文、動詞文の「〜です。」活用です。
やはり単調に見えてきます。これを次のように変えてみましょう。
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彼は男です。ただ腕っぷしは弱い。そのためいつも目立たずおとなしくしています。もう少し覇気を持ちましょう。
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形容詞文は「です」を省きました。
形容詞文を「だ・である体」に変換したときに「弱いです」は「弱いだ」になってしまうからです。
「だ・である体」で考えると「弱い」「弱いのだ」「弱いのである」の三パターンが考えられます。
これを「です・ます体」に直すと「弱い」「弱いのです」「弱いのであります」になるのです。
だから本来なら「弱い」か「弱いのです」と書くべきところを「の」を省いた「弱いです」が一般化しました。
復古主義なら「弱い」か「弱いのです」を用いましょう。
「弱いです」に違和感を覚えなければ「弱いです」を使えばいい。
ゆえに形容詞文は難しいのです。
動詞文なら「子どもを預けます」「セミが死にます」「もう休みます」とすべて「〜ます。」で終わります。
つまり動詞文を使わないでいると、すべての文の末尾が「〜です。」になります。
また名詞文・形容詞文・形容動詞文で「〜います。」「〜します。」「〜なります。」「〜あります。」など活用してしまうと動詞文となって「〜ます。」で統一されてしまいます。
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朝早く目が覚めます。毎朝とても忙しくなります。眠い目をこすりながら起きます。急いでパジャマから部屋着に着替えます。台所に向かって夫と子どもの弁当をこしらえます。それが終わると彼らの朝食を作ります。その最中に寝室から目覚まし時計が鳴ります。もう少しで朝食が出来あがります。二人が台所にやってきた頃に合わせて朝食が完成します。日々この繰り返しになります。
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「とても忙しくなります」だけが形容詞文を動詞文にしたもので、残りは純粋な動詞文です。
この文章を読んでいると、あまりの単調さに読み手が寝てしまいかねません。
これも「活用する」ことになります。
「だ・である体」のように「他の動詞に置き換える」をやっても末尾は「〜ます。」であることに変わりはないのです。
それを踏まえて次のように書き換えてみます。
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朝早く目が覚めました。毎朝とても忙しいのです。眠い目をこすりながら起きます。急いでパジャマから部屋着に着替えると、台所に向かって夫と子どもの弁当をこしらえる。それが終わると彼らの朝食を作ります。その最中に寝室から目覚まし時計が鳴りました。もう少しで朝食が出来あがる。二人が台所にやってきた頃に合わせて朝食が完成。日々この繰り返しです。
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「〜た。」「です。」「だ・である体」「体言止め」に「〜ます。」を加えた五パターンが見られます。
先ほどよりもリズムが生まれたのではないでしょうか。
〜たの連続
「小説の書き方」を記した書籍の中には「小説の『地の文』の基本は『〜た。』である」とするものがいくつかあります。
そうであれば末尾はすべて「〜た。」で統一されてしまいますよね。「同じ末尾を続けない」という趣旨にも反するのです。
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彼女は男だった。性転換手術を行ない、晴れて女性になれた。普段は女性らしく振る舞ってもの静かだった。その佇まいは美しかった。しかし一度事が生じると、つい重低音の効いた怒声を発した。
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最初の「彼女は男だった」は明確に過去の話なので「〜た。」は動かせません。
続く「女性になれた」のも過去の話ですが「〜た。」が続いてしまうので活用します。
「もの静かだった」も活用させましょう。
「美しかった」は状態の説明なのであえて過去形にする必要を感じません。
「怒声を発した」は「〜た。」のままでもいいですし、現在形に直してもよさそうです。
以上を参考に書き改めます。
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彼女は男だった。性転換手術を行ない、晴れて女性になれたのだ。普段は女性らしく振る舞ってもの静かである。その佇まいは美しい。しかし一度事が生じると、つい重低音の効いた怒声を発した。
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これで末尾は連続しなくなりました。
最後に
今回は「同じ末尾を続けない」ことについて述べてみました。
本来はこれを小説にする作業が必要なのです。
しかし文字数が増えすぎてしまうため、今回は一歩手前で止めてあります。
小説化は皆様に挑戦していただきましょう。
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