288.表現篇:名前の付け方
今回は「名前の付け方」です。
これが殊のほか難しい。でも書き手はさまざまなアプローチで名前を考え出しています。
その中でもとくに多いものを挙げてみました。
名前の付け方
あなたはご自身の小説に登場させる人物にどんな名前を付けていますか。
その名前ひとつでどんな小説なのかがわかることもあるくらいです。
以下に代表的な名前の付け方を挙げてみましょう。
姓名判断を用いる
これは占いに興味のある方がよく用いる名付け方です。
ハッピーエンドの物語に登場する主人公には縁起の良い名前を付けたくなります。
でも姓名判断は画数を計算するのがそもそも面倒です。
また日本人ならいいのですが、外国人やファンタジー小説・SF小説ではそもそも登場人物が漢字を持っていること自体がまずありません。
「私の小説は登場人物すべて日本人です」くらい割り切っていれば姓名判断を用いてもいいのですが、そうでない場合はなかなか使いづらいですよね。
姓名判断の中には「漢字」に依拠しないものもあります。
たとえば「発音を数字に変換して計算する」方法や「アルファベットに数字を割り振って計算する」方法などです。
これらなら、外国人でもファンタジー小説・SF小説であっても、登場人物の性格を計算して当てはめることができます。
「漢字」と「発音」「アルファベット」の双方を計算して性格を当てはめることができれば、きっとしっくりくる名前を付けることができるでしょう。
有名人の名前をもじる
たとえば高倉健氏をもじって「岡倉健」と名付けたり、吉永小百合氏をもじって「吉畑小百合」と名付けたりする方法です。
この方法の利点は「どこかで聞いたことがある名前だな」と読み手に親近感を持たせることにあります。
逆パターンなのですが、ドラマ・沢村一樹氏主演『DOCTORS〜最強の名医〜』の主人公の名前は「相良浩介」です。
この名前どこかで見たことがあるな、というライトノベル愛好家もいるでしょう。
賀東招二氏『フルメタル・パニック!』の主人公「相良宗介」のもじりなのです。
違うのは名前の子音ひとつだけ。「Sagara Sousuke」「Sagara Kousuke」、「S」か「K」かの違いです。
ドラマの脚本を書いた人が『フルメタル・パニック!』を読んでいたのか、ただの偶然なのかはわかりません。
でもライトノベル愛好家であれば「相良宗介」のもじりだなと判断するのではないでしょうか。
安彦良和氏&富野由悠季氏『機動戦士ガンダム』に登場するカイ・シデンは日本軍戦闘機「紫電改」から来ていますし、主人公のアムロ・レイは「零式艦上戦闘機」から来ています。ブライト・ノアは「ノアの方舟」から取られているようです。シャア・アズナブルも「シャルル・アズナヴール」のもじり、『機動戦士Ζガンダム』から登場するハマーン・カーンは「ハーマン・カーン」のもじりになります。
このように先人たちは有名人の名前をもじることが多かったのです。
現在でもじゅうぶん利用可能な手法と言えるでしょう。
ある国に住んでいる人たちの名前を借りる
田中芳樹氏『銀河英雄伝説』において銀河帝国側の人物はほとんどがドイツ人の名前を用いています。
銀河帝国軍提督ジークフリード・キルヒアイスのジークフリードは北欧神話に出てくる「シグルド」のドイツ語読みです。また銀河帝国側の主人公であるラインハルト・フォン・ローエングラムの旗艦「ブリュンヒルト」は北欧神話に出てくるワルキューレの名前になります。
世界観を統一するために、ある陣営にいる人はこの国の名前を拝借する、というのは昔からありました。
ロシア人で統一してみたり、フランス人で統一してみたり。
名前に関連性・一貫性があるため、陣営のイメージが想起されやすいのです。
またたとえば「マクドナルド」「トムソン」「トマソン」という英語圏の名前はそれぞれ「〜の子」という意味があります。「マクドナルド」なら「ドナルドの子」、「トムソン」「トマソン」なら「トムの子」「トーマスの子」です。
同じようものがウクライナ語にもあって「ドミトリエンコ」が「ドミトリーの子」になります。ロシア語の「コフ」「スキー」も「〜の」という意味があるのです。
こういった法則をうまく取り入れるためにも、特定の国の氏名を拝借しましょう。
語感のよい名前をひねり出す
ファンタジー小説の場合、登場人物全員が日本人であることはまずありません。
全員日本人のファンタジー小説となれば「伝奇もの」になるはずです。
そしてファンタジーの世界ですから、どこかの国の氏名を拝借するのもなにかおかしい気がします。
そうなると「語感のよい名前をひねり出す」しか方法がなくなるのです。
しかしこれが殊のほか難しい。
地球上とくに高度文化圏にいる人たちの名前にありそうでなさそうな名前を付けなくてはなりません。
そんな名前がポンポン浮かぶような方であればいいのですが、たいていの書き手はそんなに浮かんでこないのです。
なにがしかの手がかりが欲しいと思います。
そこでまず地名や植物名などを決めておき、そこから名前を作るという手段があるのです。
たとえば「レニングラード」は「レーニンの町」という意味の地名で、「シュトロハイム」は「麦わらの家」という意味の地名であることを知っている方は多いと思います。
また「アフガニスタン」「ウズベキスタン」はそれぞれ「アフガン人の国」「ウズベク人の国」という意味です。
中東に「〜スタン」という国が多いのもこれに由来します。
このように「〜の城」「〜の町」「〜の家」「〜の国」といった単語をプラスすることで地名が作られているのです。
このシステムを人名に使う手があります。
地名や植物や動物の名前を先に決めておき、人名はそこから拾ってもじるのです。
ライオンを「レオン」と呼ぶと決めておき、「レオーネ」と付けるなどがその一例といえます。
まぁこちらはイタリア語で「勇者」を表す名前になっていますが。
また姓名判断で述べたように、発音やアルファベットで姓名判断をしながら作ることもできます。
語感を第一に考えて、生まれた名前を姓名判断にかけ、よいものを採用することもあるのです。
名前を確定する前にネット検索を
「我ながらよい名前が作れた!」と気持ちが高ぶるのはいいことなのですが、名前にはある程度敏感でなければなりません。
もし他の作品でまったく同じ姓名のキャラが存在する場合、作品を発表したら「名前をパクった」と言われる可能性がゼロではないのです。
パクるつもりがなくても実際に重複してしまうことはじゅうぶんにありえます。
これを回避するには「インターネット検索」をするしかありません。
「よい名前」ができたら、まずは『Google』や『Yahoo!』などでその名前を検索してみましょう。もし別の作品で使われているようであれば、涙を飲んでその名前を葬りましょう。
これがのちのちの「パクった」「パクられた」論争を防ぐ唯一の手段です。
インターネット検索なんて、入力窓へ出来あがった「よい名前」を入力して「検索」ボタンを押すだけで済みます。
この手間を惜しんで後で問題化するよりはるかに効率的です。
まったく同じ「よい名前」なんだけど、どうしてもこのキャラはこの名前でなければしっくりこない。
そんな名前もあります。
その場合は、ある程度係争を覚悟して用いてください。
またミドルネームを加えることで同一性を回避する手段もあります。
たとえば「ヨハン・シュトラウス」という作曲家親子がいるのですが、双方「ヨハン・シュトラウス」と名乗っていたため混乱を来す方が結構多いようです。
もしミドルネームがあれぱこの混乱は少なくなっていたはずです。
しかしミドルネームまで同じ有名人がいます。
元アメリカ合衆国大統領の親子「ジョージ・ブッシュ」です。
親子ともに「ジョージ・ウォーカー・ブッシュ」なので姓名だけでは間違えること必至。
父のほうは厳密には「ジョージ・ハーバート・ウォーカー・ブッシュ」なので略称で「ジョージ・H・W・ブッシュ」とする場合と、父を「ジョージ・ブッシュ」として息子を「ジョージ・W・ブッシュ」と表記する場合があります。
まぁこのようなパターンは限られていますが、混同する原因にもなりますので、小説では親子であっても明確に異なる名前を付けたほうがよいでしょう。
最後に
今回は「名前の付け方」について述べてみました。
誕生日や星座や血液型のように占いを元にして決めるパターンが意外と多いのです。
でもファンタジーでは誕生日も星座も血液型も現実世界と同一とは限りませんよね。
そこでそれ以外の方法をいくつか挙げてみました。
出来た名前は必ず「インターネット検索」をしましょう。
他作品とかぶることは極力避けるべきです。
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