284.表現篇:一文はできるだけ短く
今回のテーマは「一文はできるだけ短く」する工夫です。
一文はできるだけ短く
「文章読本」の多くで主張されているのが「一文をできるだけ短く」することです。
長くなると「文意が伝わりにくい」という欠点が現れます。
だらだらと書かない
たとえばこんな一文が書いてあったとします。
あなたは一瞥して意味がわかるでしょうか。
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お昼休みのチャイムが鳴り、購買部へパンを買いに教室を飛び出していった人以外は机を寄せ合って集団となってお弁当を取り出し、互いのお弁当の寸評を行なってから、皆で楽しくお弁当を食べました。
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まぁわからなくはないです。でも、なんかだらだらと書いてあるように見えます。
そこで、一文をできるだけ短くしてみましょう。
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お昼休みのチャイムが鳴った。購買部へパンを買いに教室を飛び出していった人が数名いた。弁当を持ってきた人たちは机を寄せ合って集団を作る。そして銘々お弁当を取り出した。皆がふたを開けて互いのお弁当の寸評を行なう。ひととおり済むとあとは、皆で楽しくお弁当を食べた。
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これで状況が一瞥してわかったと思います。
でもこれって文章であって小説ではないですよね。
キャラの息遣いを感じません。
一人称視点での小説としてこんなものはどうでしょうか。
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お昼休みのチャイムが鳴った。
と同時に私のお腹も鳴った。
「隼人行くぞ。待ってろ焼きそばパン!」
剛が隼人を急かしながら勢いよく教室を飛び出していった。数名がそれに続いていく。
「和佳子、早く机持ってきてよ」
直美が声をかけてきたのに気づいて、私は直美たち五人と机を並べた。
他の生徒たちも教室に島を作っている。
「さて、本日はどんなお弁当かな〜」
私の隣りに座っているうちの島のリーダー・香苗が音頭をとる。
六人がお弁当箱を取り出して一斉にふたを開けていく。
「あっ、和佳子のに唐揚げと中華サラダが入ってる! いいなぁ」
と香苗が声を発した。欲しそうな視線を送ってきているようだ。
改めて私のお弁当箱を眺めてみる。六割は海苔弁、残りに鶏の唐揚げと中華サラダそれにだし巻き卵が入っている。海苔の真ん中が巧みに丸く切り抜かれていた。そのくぼみに梅干しとたくあんが詰めてある。相変わらずお母さんは芸が細かいなと感心することしきりだ。
直美も私のお弁当箱を覗き込む。
「やっぱり和佳子のお母さんっていいお弁当作ってくれるよね」
「細かいところまで作り上げてくるのって一種の病気なのかな」
とぼけながら私は香苗のお弁当箱を確認した。
ふりかけ弁当にシュウマイとミニグラタン、スパゲティとポテトサラダが入っている。
私はシュウマイに目がない。久しぶりにポテトサラダを食べたい気分だ。
「ねぇ香苗、シュウマイと唐揚げを一対一でトレードしない? あとポテトサラダと中華サラダを少し」
「異議な〜し! トレード成立っと♪ じゃあ箸に口をつける前に交換しよ」
香苗がお弁当箱をくっつけるように寄せてくる。慣れた手つきでちょちょいと交換していった。
「皆ほかにトレードしたいおかずない?」
「私はないよ」
直美を始め四人ともとくに希望はないようだ。
それを確認した香苗が手を合わせた。
「それじゃ、皆で一緒に――いただきます」
「いただきます」
私は早速頂いたシュウマイを頬張る。冷めているけど肉汁があふれ出た。
「このシュウマイうまいよ香苗」
「この唐揚げも相当なものね」
六人で談笑しながらお昼ごはんを食べていった。
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とまぁこのくらい書けば小説のシーンらしくなりますかね。
「改めて私のお弁当箱を見る。〜(中略)」から「(中略)〜感心することしきりだ。」まで改行していません。人によってはくどく感じてしまうので、区切るとしたら、
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改めて私のお弁当箱を見る。
六割は海苔弁、端に鶏の唐揚げと中華サラダそれにだし巻き卵が入っている。海苔の真ん中が巧みに丸くくり抜かれてあった。そのくぼみに梅干しとたくあんが詰めてある。
相変わらずお母さんは芸が細かいなと感心することしきりだ。
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と三行に分けるくらいでしょうか。二行目は海苔を中心にした文なので、途中で改行すると情景が伝わりづらいと思います。
接続助詞を使わない
文章が長くなる原因として多いのが順接・逆接の接続助詞です。
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私は電車で三十分前に来たが、彼はバスで今着いた。
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25字から成るこの一文。この程度の長さならとくに逆接の接続助詞「が」がそれほどうるさく感じないですよね。
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私は渋谷駅へJR山手線を使って三十分前に来たが、彼は都営バスを用いて今着いたばかりだ。
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43字になりました。ちょっとうるさくなってきましたね。
順接・逆接の接続助詞はほとんど要らない場合が多いです。
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私は渋谷駅へJR山手線を使って三十分前に来た。彼は都営バスを用いて今着いたばかりだ。
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二文にしても意味は通りますよね。
今回の例では文の主体を表す助詞「〜は」がそれぞれの文に出てきます。改行するひとつの目安が主体「〜は」の変わるときです。改行してしまったほうがよいでしょう。
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私は渋谷駅へJR山手線を使って三十分前に来た。
彼は都営バスを用いて今着いたばかりだ。
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これで誰が何をしているのかが一目瞭然です。
他にも「それぞれの文に出てくるので、改行する目安になります。」の順接の接続助詞「ので」も要りませんよね。「それぞれの文に出てくる。改行する目安になります。」でも通じます。
しかし前の文が「だ・である体」であり、後ろの文が「です・ます体」です。統一したくなりますよね。
でもここは順接の接続助詞が省かれたことを示したいので、あえて前の文を「だ・である体」のままにしました。
「です・ます体」は素だと最後が必ず「す」になるのです。ちょっとくどく感じられる場面も出てきてしまう。変化球として時折「だ・である体」を用いると、「です・ます体」特有の惰性が外れて読み手の注意を惹けるのでオススメです。
ただし「です・ます体」なのに「だ・である体」を多用すると、バランスが崩れてしまいます。「です・ます体」で書かれている文章なら基本は「です・ます体」です。「だ・である体」はその中で一割にも満たない頻度に抑えるべきでしょう。
〜て〜てでどこまでも
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野球とは、投手がボールを投げて、打者がバットを振って、ボールをバットで前に弾き飛ばして、打者は一塁へ向かって全力疾走して、野手がボールを追いかけて、ボールを捕まえたら内野手に投げ返して遊ぶ球技だ。
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さすがにここまで「〜て」が続く一文はなかなかお目にかかれません。例題作りも少し苦労しました。
これをできるだけ「〜て」を外して短文になるようにしてみましょう。
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野球とはスポーツの一種である。投手がボールを投げる。打者がバットを振り、ボールを前に弾き飛ばそうとする。前に飛んだら打者は一塁へ向かって全力疾走。野手がボールを追いかけ、捕まえたら内野手に投げ返す。そうやって遊ぶ球技だ。
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「〜て」を三回省けましたね。
どうしても残したほうがいいものは残してあります。
この例ですと「バット」と「ボール」が直近で出てくる部分は「〜て」でつなげて後ろの「バット」と「ボール」という単語を削除しました。そのときは助詞「て」そのものだけを削除したので延々続く感じは薄らいだはずです。
最後に
今回は「一文はできるだけ短く」することについて述べてみました。
「長い文のほうが味がある」と感じている書き手は意外と多いのです。それで読みやすければいいのですが、たいていは読みにくく感じます。
とくに「だらだらと」書き続ける、「〜て〜て」でつなげてはなりません。読み手が「で、結局なにが言いたいの」と思ってしまいます。
動詞なら連用形にして「走って」を「走り、」と変えるだけでも単調にならず読みやすい文に仕上がるのでオススメです。それでも句点を入れて二文三文と区切っていくようにしましょう。
一文は原稿用紙2行ぶんつまり40字を目安にしておくといいと思います。
40字を超えてしまうとどうしても一瞥して内容が理解できません。
40字以内に収まっていれば、ひじょうに読みやすくなります。
書き手にはそれぞれ自分の小説にふさわしい文体を持っていますので、80字以上あっても、味のある文章を書ける方もいるのです。
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