283.表現篇:内容がちぐはぐ
今回は「ちぐはぐ」なことについてです。
今書いたあなたの文章。わかりにくくなっていませんか。
内容がちぐはぐ
どんなに文章を書いたとしても「内容がちぐはぐ」だと読んでいる人にはいっこうに伝わりません。
では「内容がちぐはぐ」な文章とはどのようなものでしょうか。
言いたいことがわからない
「富士登山」を例にとって、どういう文章がちぐはぐか見ていきましょう。
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一週間前に富士山へ登ったのだが、眺望は想像を超えていた。山梨県の富士スバルライン五合目から吉田ルートを通った。三千メートル級の山は今回が初めてであり、吉田ルートは五合目スタートなので比較的登りやすいこともあって多くの外国人の姿も見えた。しかし頂上の寒さや登山道の険しさを知らないためか、軽装な人たちが多かった。七合目の山小屋にたどり着くことなく引き返す人が多く見られる。私はしっかりと登山道具を持ち、万全の対策をして行った。富士山の山頂は「剣ヶ峰」とも呼ばれ、標高三七七六メートルと日本一の高さを誇る。だから空気も薄いし気温も低い。富士登山を舐めてはいけない。
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さて、以上の文章を読んでみてあなたはどんな感想をいだきましたか。
おそらく「なんとなくわかるような気がするけど、いまいち頭に入ってこない」と思ったはずです。
これは意図的にそうしているので、そう感じることが当たり前です。
論旨と情報の整理をする
まずこの文章はなにを訴えたいのか。つまり「テーマ」がなにかを見つけなければなりません。
そしてどのような順番で読ませるべきかを考える必要があります。ここで手を抜かないようにしましょう。
ではこの文章をを整理してみます。
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テーマ「富士登山を舐めてはいけない」
いつどこで何をした「一週間前に富士山へ登った」「三千メートル級の山は今回が初めて」
山頂は「眺望は想像を超えていた」「富士山の山頂は「剣ヶ峰」とも呼ばれ、標高三七七六メートルと日本一の高さを誇る」「だから空気も薄いし気温も低い」
どうやって「山梨県の富士スバルライン五合目から吉田ルートを通った」
書きたいこと「吉田ルートは五合目スタートなので比較的登りやすいこともあって多くの外国人の姿も見えた」「しかし頂上の寒さや登山道の険しさを知らないためか、軽装な人たちが多かった」「七合目の山小屋にたどり着くことなく引き返す人が多く見られる」「私はしっかりと登山道具を持ち、万全の対策をして行った」
結論「富士登山を舐めてはいけない」
読ませる順:富士山の情報⇒富士山へどう登ったのか⇒軽装で登る危険性⇒登りきったら格別⇒富士山を舐めないこと。
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とのこのような区分に分けられます。
再構成をする
これを元に文を入れ替えてつなぎ替え、文章を再構成するのです。
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一週間前に富士山へ登った。山頂は「剣ヶ峰」とも呼ばれ、標高三七七六メートルと日本一の高さを誇る。だから空気も薄いし気温も低い。三千メートル級の山は今回が初めてだったが、私はしっかりと登山道具を身に着け、万全の対策をしていった。
山梨県の富士スバルライン五合目から吉田ルートを通ってアタックを開始する。吉田ルートは五合目スタートなので比較的登りやすいこともあって多くの外国人の姿も見えた。しかし頂上の寒さや登山道の険しさを知らないためか、軽装な人たちが多い。案の定七合目の山小屋にたどり着くことなく引き返す人が多く見られた。
やっとのことで山頂に到着すると、眼下に広がる眺望は想像を超えていた。
多くの人は準備を怠って途中で引き返したが、きちんと装備を調えていた私は予定どおりにたどり着いたのだ。
富士登山を舐めてはいけない。
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かなりすっきりと読みやすい文章になったはずです。
(ただし「多い」という文字が多いんですよね)。
小説にする
これだとただの日記ですよね。小説としての臨場感も味わえませんし感情移入することもできません。
そこで一人称視点で主人公の立場に立って語ってみましょう。
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俺は登山靴を履き、一定のペースで富士山を登っていた。
「すぅーーっ、はぁーーっ、すぅーーっ、はぁーーっ」
登るほどに酸素が薄くなるため呼吸をゆっくりと深く行なう必要がある。
富士山頂は「剣ヶ峰」とも呼ばれ、標高三七七六メートルと日本一の高さを誇る。
三千メートル級の山に挑むのは今回が初めてだ。
富士山は夏場とはいえ頂上は冬のような気温になる情報を事前に得ていた。
厚手のズボンを身に着け、ダウンジャケットを羽織り、ニット帽をかぶって、手袋ももちろん忘れなかった。登山道具もひと通り揃えた完全装備である。
山梨県の富士スバルライン五合目から吉田ルートを通ってアタックを開始した。吉田ルートは比較的登りやすいこともあってか多くの外国人とすれ違った。しかし彼らは山頂の寒さや登山道の険しさを知らないためか、Tシャツやアロハシャツなど薄手の衣服を身にまといスニーカーやあまつさえビーチサンダルを履くなど軽装な人たちが目立つ。
(それ見たことか)
目の前を歩いていた外国人たちがひとりまたひとりと七合目の山小屋にたどり着くことなく登山道を引き返してきた。
富士山は日本でいちばん有名な山であり登りたい気持ちもわからなくはない。だが彼らには知識がなく、気楽に登ろうとして皆挫折するのだ。
外国人にはミシュラン三つ星を獲得した東京都にある高尾山がオススメだ。標高五九九メートルと軽装でも登れ、四季折々に自然が目を楽しませてくれる。
俺の目前に山頂が見えてきた。ここで喜び走り出す者もいるが、石を蹴落としてまだ登っている人たちの迷惑になるからやめたほうがいい。
しっかりとペースを守り、俺は「剣ヶ峰」にたどり着いた。
しばらく息を整えてから登山道を振り返ると、眼下には想像を絶する眺望が広がっている。雲海の切れ間から山々や町を見下ろすさまはまさに圧巻の一言に尽きた。
軽装で登ろうとした外国人や登山初心者たちは次回きちんと装備を身に着けて登ればいい。
富士登山を舐めてはいけないのだ。
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「説明」だけだったものが一人称視点での「描写」になったはずです。
文章構成としては「現在⇒過去⇒未来」の順で仕立てています。
本来なら「過去⇒現在⇒未来」と書くべきです。
しかし「まず主人公を出して感情移入させる」という小説の「書き出し」の鉄則に則りたかったので、あえて「現在⇒過去⇒未来」の順になりました。
「過去」を先に書き出すと「説明」が延々と続いたことでしょう。それを避けました。
これで少しは小説らしくなったのではないでしょうか。
分量も「説明」のおよそ三倍になりました。
もちろん腕に覚えがある方なら、もっと読み応えのある文章に仕上がるはずです。
最後に
今回は「内容がちぐはぐ」な点について述べてみました。
書きたいことは山ほどあっていいのです。
ただし読ませ方を工夫しないと「話があっちへ行きこっちへ行き」していまいち伝わりにくい文章になってしまいます。
その文章の「テーマ」(小説の「テーマ」ではない)を大黒柱にして、書きたいことを箇条書きにでもしておくのです。
そして「読ませる順序」を考えて道筋を作りましょう。
そうすれば格段に読みやすい文章に仕上がりますよ。
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