264.表現篇:初回推敲

 今回は「高速ライティング」での初回推敲についてです。

「高速ライティング」は頭のイメージを直接PCに打ち込む技術ですが、それゆえに巧みな「描写」はまずできていないと思います。

 そこを注意して初回推敲してみましょう。





初回推敲


「高速ライティング」で小説を執筆した場合、必ず「おかしな」部分が出てきます。

 どうしても文法が誤っていたり、視点がブレていたり、主人公の主観がまったくなかったり、比喩がまったくなかったりと、およそ小説の体をなしていないただの「文章」になってしまうものです。

「高速ライティング」が完璧にできるようになれば、それら「おかしな」部分はかなり減らせます。

 ただしあくまでも「減らせる」だけであって、「無くなる」わけではありません。

「高速ライティング」は頭の中のイメージを直接PCに打ち込んでいくテクニックです。

 表現力などは二の次、とにかく思い描いたままの情景を入力していきます。

 そうなると上記した「おかしな」部分は必ず出てくるのです。

 そこで初回の推敲は、その「おかしな」部分を書き改めて(変換して)ただの「文章」から「小説」へと格上げするために行ないます。




視点のブレ

 まずは視点のブレを見ていきます。

 主人公は誰なのか。それを明確にするのです。

「一人称視点」なら主人公が見たり聞いたり感じたり考えたりしたことが表現の主体になります。

 そこに他人の視点が入り込んでしまうと途端にあやふやな「文章」になるのです。

「三人称視点」で書くのなら誰の心の中も覗ける「神の視点」にならないよう、登場人物の心の中を断定して書かないでください。

「神の視点」は現代の小説界隈ではタブーです。読み手にワクワク・ハラハラ・ドキドキを提供できません。

 読み手はワクワク・ハラハラ・ドキドキを味わえるからこそ「小説」を楽しく読んでくれるのです。


「一人称視点」でどうしても他の登場人物が抱く気持ちを断定して書きたいのなら、エピソード単位、場面シーン単位、節単位、項単位、段落単位で「誰が主人公なのか」を明確にしましょう。

 群像劇はエピソード単位、場面シーン単位、節単位、項単位、段落単位できちんと「誰が主人公なのか」を明確にすることで成り立っています。

 決して「何のお膳立てもなく視点がブレないように」してください。

 いかな名文を書いたとしても「視点がブレたら」すべてが台無しです。

 視点の切り替えはエピソード単位、場面シーン単位、節単位、項単位、段落単位で行なってください。

 そうすれば読み手が混乱せずにすうっと読んでいけるようになります。




主観が乏しい

「高速ライティング」に慣れていないうちは、どうしても「説明」を優先させてしまいます。

「一人称視点」で書いているのに、主人公が見たり聞いたり感じたり考えたりしたことがほとんど書かれていない「文章」になっているのです。

 それが「表現力に乏しい」と思わせ、「文章」止まりな「小説」に仕上がってしまう原因になります。

 そこに「主人公の主観」つまり「描写」を織り交ぜていきましょう。


「高速ライティング」は書き手のイメージを直接PCへ入力していく技術です。

 書き手がどこまで主人公に感情移入できていたかで「主人公の主観」の割合が大きく変わってしまいます。

 慣れてくれば、次第に「主人公に没入した」状態でPCへ打ち込めるようになるのです。

 それでも「主人公の主観」に乏しい部分は必ず出てきます。


「小説」が文字だけで構成される「一次元の芸術」である以上、表現は過剰なくらいがちょうどよいのです。

 あなたが感情移入している主人公は今「何を見ているのか、何を聞いているのか、何を感じているのか、何を考えているのか」。

 それらが具体的に伝わってこなければただの「文章」です。

「小説」にしたければ「主人公の主観」を過剰にするため大量投入してください。

「大袈裟かな」と思うくらいが読み手にはちょうどよいのです。




比喩が足りない

「一人称視点」であれば「主人公の主観」を書くことが必要です。

 ですが、ただ「主人公の主観」を書くだけでは今ひとつ物足りません。

「比喩」がどれだけ使えているか。そこも問われてきます。


 ただし「比喩」は万能ではありません。

 使いすぎると「何を言いたいのかまったくわからない」状況を引き起こすのです。

 ですが「比喩」がまったくない「小説」はあまりにも味けない。

「主人公の主観」に「比喩」を織り交ぜていけたら、「主人公にはそれがどのように映っているのか」が鮮明になります。

 つまり読み手を「より深く主人公に感情移入させる」ことができるのです。


「比喩」の基本は「たとえ」です。

「主人公はそれをなににたとえたのか」を読ませることで、ただ「説明」するよりも読み手に「主人公の人となり」が伝わりやすくなります。

 なんでもかんでも下品なたとえ方をする人物もいるでしょうし、なにごとも風雅なたとえ方をする人物もいるでしょう。

 たとえ方ひとつとっても主人公の性格が反映されます。

 下卑た性格か野次馬な性格か、風雅な性格か我を通さない性格か。

 悟りを開いたような性格の人物も「比喩」ひとつでいくらでも書き分けられます。




文法の誤り

 最後に文法の誤りを見ていきます。

 単に「てにをは」がおかしいものから、述語が主語を受けていないもの、どの単語を修飾しているのかわかりにくいもの、複文構造が複雑になっていて一読しただけでは理解できないものまであります。

 これらを改めて、一読しただけで文の意味が理解できるようにし、文章としてわかりやすくすることで「文章」がまたひとつ「小説」に近づくのです。

 プロの書き手であれば編集さんや校正さんが指摘してくれますが、アマチュアの書き手であるあなたには文法をチェックしてくれる人など存在しません。

 あなたが書いて、あなたが推敲して、あなたが校正する必要があるのです。

 だから細かなところまで自力でしっかりと書き改める必要があります。

 ですが、絶対に「文法の誤り」がない小説というのはまず書けません。

 そして「文法の誤り」があるからダメな小説というわけでもないのです。

 問題は「物語に惹き込まれる」かどうか、「読んでみて違和感を覚えない」かどうかにあります。

「物語に惹き込まれる」ことが小説ではいちばん重要な点です。

「違和感を覚えない」ことはすんなりと最後まで読めるかどうかを左右します。

 この二点に留意して「文法の誤り」をチェックしていきましょう。




大幅な削除

 ここまでできたら、いったん文書ファイルの複製を作っておいてください。

 ここから先は「大幅な削除」を目的としています。

 複製が残っていないと、一度消してしまったら後戻りができないというひじょうに大きなリスクを抱えることになるのです。

 複製したら先へ読み進めましょう。


 まずいったん書いた「小説」を頭から順に読んでみましょう。

 すると「この場面シーン要る?」「このエピソード要る?」という箇所が必ず出てくるはずです。


 連載小説なら、エピソードを意図的に増やして長期連載に持ち込む必要がありますから、「エピソードを削る」ことはまずできません。

 しかし場面シーンに関しては「このシーンが冗長かも」と思うところが出てくると思います。それを削っていきます。


 小説賞や新人賞に応募する三百枚の長編小説であれば、「エピソード」の取捨選択は必須事項です。

 ムダに思えるエピソードならバッサリとカットしてください。

 そのために「高速ライティング」では、わざわざ多めに書くことをオススメしているのです。

「大半がムダなんだけどこのシーンは使いたい」というところがあれば、それだけを切り出して前後のエピソードに入れ込めないか調整しましょう。

 一場面シーンだけを惜しんで要らないエピソードが削れないようでは、いい書き手にはなれません。


 エピソードや場面シーンを削ると前後のつながりが悪くなることがあります。

 そのときはつながりが良くなるように修正を施してください。


 ここまでが「初回推敲」になります。

 やることは意外と多いのです。

 次回の推敲は原稿を一定期間寝かせてから行なってください。

 小説世界から頭が離れたときに行なえば、初回推敲ではわからなかったミスが見えてきます。





最後に

 今回は「初回推敲」について述べてみました。

「高速ライティング」は呼吸するように頭の中のイメージをPCに打ち込んでいくテクニックです。

 それゆえにどうしても表現が拙くなってしまいます。

 慣れてくればどんどん表現が豊かになっていくので、とにかく数をこなしましょう。

 ですが、一発で完全な推敲要らずの「小説」に仕上がることなどまずありえません。

 世は「高速ライティング」時代の真っ只中です。

 いかにして「小説」を多作できるのか。

 それが時代から、そして読み手から求められています。



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