263.表現篇:聴覚を刺激しない

 本日二本目の投稿です。

(『ピクシブ文芸』様『小説家になろう』様の投稿時)。

「音楽を聴きながら執筆すると捗る」という人がいますが、本当でしょうか。





聴覚を刺激しない


 音楽を聴きながら執筆すればスラスラ筆が進むという人がいます。

 ですが私はその意見には懐疑的です。

「日本語の歌詞がある曲は聴くべきではない」とはよく言われていますよね。

 では英語の曲や歌なしの曲であれば聴いていてもよいのでしょうか。




歌詞のある曲は聴くべきではない

 冒頭で出した「日本語の曲」について述べましょう。

 日本語の曲が耳に入れば、日本人であれば無意識にその意味を判断しようと脳の力(注意力)が奪われてしまいます。

 なので日本語の曲は執筆のBGMに向きません。

 なら「英語の曲」ならいけるのではないか。そう思いますよね。

 でもこれもダメです。

 現在日本の義務教育では小学生から英語の時間が設けてあります。

 そして現在社会人をしていて英語に詳しくない人でも、英単語くらいはいくつか知っているものです。

 少なくとも中学・高校・大学で英語を経験してきたはずですから。

(今は小学生の頃から英語に親しんでいますね)。

 だから知っている単語が耳に入ってきた途端に無意識で脳の注意力を奪われます。

 であればフランス語やスペイン語やポルトガル語など「普段耳にする機会のない言語」の曲なら。

 それもダメです。

 手っ取り早くざっくり説明すると、人の発する声の周波数が聴こえてくると、人は注意力をそちらに向ける習性があります。

 一種の危機管理能力です。

 もし他人が警告を発しているのにそれに気づかなければ、集団が壊滅する可能性があります。とくに人間は徒手空拳ではたいていの動物に敵いません。牙も無ければ鋭爪も無く、くちばしも無いからです。およそ襲撃してくる動物を撃退できるだけの武器など持っていません。せいぜい歯で噛み切ろうとするくらいです。

 だからインドネシア語、タイ語、スワヒリ語であろうと、中国語、ハングル語、ロシア語であろうと人が歌っていれば脳の注意力を奪われてしまいます。




テレビやラジオはBGMにすべきではない

 ならテレビやラジオをつけてBGMにするくらいならいいだろう。と思いますよね。

 歌詞で言いましたが、人の発する声の周波数が聴こえてくると、人は注意力をそちらに向ける習性、一種の危機管理能力があります。

 つまり誰かがしゃべっている声が耳に入ってくるだけでも、人はその意味を知ろうとしてしまうのです。

 テレビのニュースやバラエティ番組のしゃべり声、ラジオのトークなどが耳に入ってくるだけで注意力を奪われて集中力が削がれます。

 この原則を知っていると、だから家の周りで誰かがしゃべりこんでいる状態も注意力を奪われて集中力が削がれるのだなと理解できるのではないでしょうか。




クラシックや映画の劇伴は

 著名な作家には「クラシックをかけて書いています」という方もいらっしゃいます。

 クラシックなら歌詞がないので注意力を奪われる心配がないからだそうです。

 確かに歌詞のある曲に比べると格段に注意力が奪われません。

 しかしそれは程度の問題です。

 クラシックの名曲は「聴いているという感覚を忘れて集中力が上がる」ような印象を持っている方が多いと思います。

 実はクラシックであろうとも音が鳴っていると「そこから人の発する声の周波数が聴こえてくるのではないか」という無意識が働いてしまうのです。

 その結果として「人の発する声の周波数が聴こえてこなかった」から注意力を奪われなかったと思い込んでいます。

 しかし「無意識のチェック機能」が働いているため、わずかではあっても注意力は奪われていて集中力も若干低減している状態なのです。

 単純作業をするのであれば、脳が惰性に飲まれないようにクラシックを流してリズミカルに処理するのは理に適っています。

 ですが「文章をひねり出す」「物語を創造する」という創作分野ではクラシックであろうと邪魔なのです。


 クラシックと同様なものとして映画の劇伴が挙げられるでしょう。

 こちらは明確に注意力を奪い、集中力を削いでいきます。

 なぜかというと、劇伴が流れると無意識に映画の名シーンを脳裏に思い浮かべてしまうからです。

 たとえばシルベスター・スタローン氏主演『Rocky』のテーマ曲が流れる中で執筆すると考えてください。

 あの独特なファンファーレが聴こえてきた途端、頭の中でロッキーがフィラデルフィアの街を走り、冷凍倉庫にある凍った牛肉をサンドバッグにしている姿が浮かんできませんか。

 またマイケル・J・フォックス氏主演『BACK TO THE FUTURE』のテーマ曲が流れてきたらどうでしょう。

 マーフィーがデロリアンに載って時計台脇の電線に向けて疾走している姿が思い浮かびませんか。

 マーク・ハミル氏主演『STAR WARS』のテーマ曲が流れてきたら画面の中心(奥)に向かって字幕が流れていく光景が、帝国のマーチが流れてきたらダース・ベイダーが歩いてくる姿が浮かんでくると思います。

 映画の劇伴は映画のシーンの記憶と直結しているため、耳に入っただけでそのシーンが頭に浮かび、注意力の大半を奪われて集中できなくなるのです。

 もう害悪以外のなにものでもありません。




ゲーム・ミュージックは

 好んでゲーム・ミュージックをかける人もいます。

 私も「音楽と注意力・集中力」の関係を検証するまではゲーム・ミュージックをよく聴いていたものです。

 とくに日本ファルコムのゲーム・ミュージックはどれも秀逸。

 聴いているだけで心地よく、テンションの上がる曲もあって書けなくなったときはテンションの上がる曲をセレクトして聴いていたくらいです。

 ですがゲーム・ミュージックも注意力を奪い、集中力を削ぎます。

 これは映画の劇伴と同様で、特定の曲を聴くとゲームの特定シーンが頭に浮かんでしまうからです。

 プレイ経験のないゲーム・ミュージックを聴くという手があります。

 これなら記憶に結びついていないため、クラシックと同様に扱えるのです。

 クラシックと同様つまり程度は低いのですが注意力を奪い、集中力が削がれます。

 この事実に気づいてから、私はゲーム・ミュージックを聴きながら執筆しなくなったのです。




テクノやEDMは

 ここまでくるともう重箱の隅をつつくようなものです。

 聴いてテンションが上がるのなら、当然注意力は奪われ、集中力が大きく削がれます。

 以上に挙げたジャンル以外の曲も同様なので、これ以上つつくのはやめましょう。




執筆中は音を遮断したほうがよい

 皆様にお伝えしたいのは「執筆中は音を遮断したほうがよい」ということです。

 もし完全に音を遮断できたら、聴覚からの刺激が無くなります。

 つまり頭の中で右脳がイメージを浮かべることを阻害するものはなく、イメージを左脳が言語化することを阻害するものもない。

 そして左脳から一次運動野を用いてキーボードを叩いてPCに文字が埋めていく行程も妨げられないのです。

 それはもう恐ろしいほどの速度でイメージが文章化されていきます。


 単純化すると「座禅をしているときのような穏やかな心でいながら、脳内のイメージがすらすらとPCに書き込まれていく」状態です。

 マラソンランナーに見られる「ランナーズ・ハイ」のような状態が、小説を執筆している最中に起こります。

 なんでも書けすぎて困るくらいスラスラと書けるのです。

 明治末から昭和後期くらいまでは「書き手がホテルなどに缶詰にされて無理やり原稿を書かせる」ようなことをしていました。

 これも「聴覚をいかに遮断するか」という点で興味深いのではないでしょうか。


 皆様にもぜひ試していただきたいと思います。

 いっさいの音を遮断した状態で執筆してみましょう。

 きっと時間を忘れるほどの集中力が得られ、それでいて短時間で成果が上がるはずです。

 だから小説を連載している方なら、なおのこと執筆中は無音で取り組みましょう。





最後に

 今回は「聴覚を刺激しない」ことについて述べてみました。

 一般的には「クラシックなら聴いてよい」ということになっています。

 ですが私は経験上「聴覚を刺激しない」ほうが効率が高まり、成果があがると感じているのです。

 これは私だけかもしれませんし、皆様にも同様の効果があるのかもしれません。

 だから、一度だけでもいいので試しに「聴覚を刺激しない」無音の状況で執筆してみてください。

 イメージする力を邪魔しやすいのが聴覚なのです。

 そして「やっぱり私は音楽を聴いたほうが捗る」と客観的に判断できたのなら音楽を聴きながら執筆しましょう。

 私は無音が合っています。

 しかし音を聴いていないと安心できない人も現実にいるのです。

 夜寝るときに豆電球を点けていないと安心して眠れないようなもの。

 効率を上げるやり方は人それぞれです。

 どれが完全な正解かという絶対解は存在しません。

 どのような環境が自分の執筆に向いているのかを知っておくことは、将来小説を連載するようになったときとても役立つでしょう。

 だからアマチュアのうちから「自分の執筆環境」を見つけ出すべきです。



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