259.意欲篇:複数の作品を応募する

 今回は「複数作品を応募する」ことについて述べます。

 多くの小説賞や新人賞には一人一作の制限があります。

 ですがもし制限のない賞があったら、あなたならどうしますか。

 一年かけて一作だけを丹精込めて仕立て、応募する。それもありでしょう。

 ですが今回は「複数応募可能なら複数応募すべき」という提案です。





複数の作品を応募する


 出版社が行なっている「小説賞」「新人賞」はたいてい年一回の開催です。

 となれば一年かけてじっくりとひとつの作品を作りあげたほうがよいと思いますよね。

 ですが、とくに規定がない限り複数の作品を応募するようにしてください。




ひとつをじっくり作り上げると

 ひとつの作品をじっくり一年かけて作り上げると、文章の完成度は確実に上がると思います。

 あなたが最初に書く小説であれば「あれも書きたい」「これも書きたい」というほど物語がたくさん思い浮かばないでしょうから、一作を突き詰めていくのも「あり」です。

 ただし、ひとつの作品に一年もかかってしまうようでは「小説賞」「新人賞」を獲ってからどうやって次巻以降を継続的に発売していくというのでしょうか。

 筆が遅いというのはそれだけでかなり損をします。

 出版社としては受賞者にできるだけ速いペースで次巻を書いてもらいたいのです。

「話題性があるうちに売れるだけ売りたい」のが本音なのですから。

 たとえば芥川龍之介賞を授かったお笑い芸人ピースの又吉直樹氏は『火花』を出してから二年後になって、ようやく次作『劇場』を発売しました。しかし売上は『火花』に到底及びません。なぜでしょうか。

 話題性がなくなってしまったからです。

 もし『火花』の四か月後に『劇場』が発売されていたら、『火花』並みの売上が見込めたはず。

 ではなぜ『劇場』の発売がかなり間延びしてしまったのでしょうか。

 それは又吉直樹氏が本職である「お笑い芸人」を優先させたからです。

 文学小説を書いて芥川賞を受賞しても、彼は「お笑い芸人」であり続けました。

 その合間に『劇場』をコツコツと執筆していたのです。

 それなら二年も空くわけですよ。

(この過程はNHKドキュメントになりました)。

 ただ、この姿勢によって又吉直樹氏は芥川賞をドブに捨てたと思ってかまいません。

 出版社が話題性でどんどん新作を売りたいのに、自ら新作を書くチャンスを捨ててしまったのです。


 では又吉直樹氏はどうすればよかったのでしょうか。

 ひとつは「芥川賞作家として文学小説を多作するプロの書き手に徹する」ことです。

 つまり「芸人」を捨てることになります。

 もうひとつは「お笑い芸人として舞台で笑いをとる漫才師に徹する」ことです。

 つまり「芥川賞作家」を捨てることになります。

 しかし又吉直樹氏は「お笑い芸人と芥川賞作家を両立しよう」としました。

 それにより漫才師としては顔が売れました。

 でも芥川賞作家としては二作目『劇場』がそれほど売れなくなったのです。


「二兎追うものは一兎をも得ず」と言います。

「漫才師」と「芥川賞作家」の二兎を追ったために、どちらも中途半端になったのです。

 ひとつの作品をじっくり作りあげるといえば聞こえはいいのですが、要は「自由になる時間を作らず執筆活動に集中できなかった」ということになります。

 現在仕事をしている方で「小説賞」「新人賞」を狙っている人は、もし受賞したらどのようなスタンスをとるべきかを今のうちに考えておきましょう。

 たいていは受賞すること自体が珍しいので絵空事で終わります。

 ですが本当に受賞してしまった場合の身の振り方はその場の思いつきだけを頼りにするのでは心許ないのです。

 それこそ「二兎追うものは一兎をも得ず」になります。


 あくまでも「小説賞」「新人賞」は臨時収入くらいに思っておいて、今までどおり仕事に邁進する手もあるのです。

 水嶋ヒロ氏『KAGEROU』が好例と言えるでしょう。

 彼は受賞作後に「プロの書き手」は目指さず二足のわらじも履かず、俳優業に復帰しています。それもひとつの生き方です。

 逆に仕事を控えめにして「プロの書き手」として活動する手もあります。

 どちらがいいかは個人の意志によります。

 もし「継続的に小説の収入を得たい」と思っているのでしたら、仕事を控えめにして「プロの書き手」になるべきです。




複数の作品を書きあげる

 一作に凝りすぎると「小説を書く」ために身につけておくべき小説の基礎、物語の展開などのバリエーションがどうしても進歩しません。

 つまりどのような作品を書こうとしても、同じような展開にしかならないということです。

 そうなると次作を書こうとしたときに「どんな物語にしたらいいんだろう」「どんなエピソードを加えたらいいんだろう」「どんな場面シーンを印象的に見せたいんだろう」ということがわからなくなります。

 だから、ある程度書けるようになったら、複数の作品を立て続けもしくは同時進行で作りあげていくべきです。

 次作の不安であった「物語」「エピソード」「場面シーン」の多様性が身につきます。


 どうしてもひとつの物語しか浮かばないようであればどうするべきか。

 その一作だけに集中して一、二か月で完成させて、早期に次の物語に着手しましょう。

 とくに応募作品数に制限がない、または複数の小説賞へ一斉投稿する場合は、多作が最大の強みを持ったスキルになります。

 一年間でどれだけ多くの作品を書けるのか。とことん追求してください。


 もし本気で「プロの書き手」になりたければ、一年で何本の作品を書けるのか。それをどこまで多くできるかに工夫を凝らすべきです。

 場合によっては転職をして「自由な時間」を確保しなければ二作すら書けないという人も出てくるでしょう。

「転職せずに何作書けるか」「転職してでも可能な限り多く書こうとするか」の二択だと思ってください。




複数の作品があれば

 あなたに一年で複数の作品を書く力があったらどうなるでしょうか。

 もし出版社の編集さんがそれらの作品を読めば、「こちらの小説のこの部分と、あちらの小説のあの部分を組み合わせた小説は書けますか」というような建設的な意見交換ができるようになります。

 それとは別に「この作品とあの作品を紙の書籍化したいのですが」という話になるかもしれません。ライトノベルでは川原礫氏の『アクセル・ワールド』『ソードアート・オンライン』が好例でしょう。

 複数の作品があることで、出版社は話題性のあるうちに同じ書き手の作品を切れ目なく発売し続けられます。

 売り逃しがないため、出版社としてもバクチのような賭けをしなくて済むのです。

 書き手と出版社がともに利益を得る「WIN−WIN」の関係を構築できます。

 そうなれば出版社はあなたを手放したくなくなるのです。

 出版社に大きな利益をもたらす「プロの書き手」として最大限配慮してくれます。


 だから「応募作品数に制限がない小説賞へまとめて投稿」や「(すべて別の作品で)複数の新人賞への一斉投稿」できるほど作品のストックがあれば、将来の書き手生活はかなり有利な形で進められるのです。

 複数の作品があれば建設的ですし、一年で多作できれば売り逃しも発生しません。

 仮に「プロの書き手」になっても、小説だけで生計を立てられるようになるにはだいたい連載五巻以上はかかると思います。

 それまでは仕事との二足のわらじである書き手が多いのです。

 連載十巻もあれば看板作家の仲間入りと言っていいでしょう。





最後に

 今回は「複数の作品を応募する」ことについて述べてみました。

 応募作品が「一人一作」の縛りがある場合は別ですが、もし「一人何作でもOK」な「小説賞」「新人賞」があれば「複数の作品を応募」しましょう。

 もし見当たらなくても、別々の「小説賞」「新人賞」へ別々の作品を同時応募する手もあります。

 とにかく多作できるように努力してください。

 一年で何本書きあげられるか。それを最大化できれば、それだけでも「質の高い小説」により早く近づけます。



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