257.意欲篇:問題点がある前提で推敲する

 今回は「推敲」のポイントです。

 ちなみに直近でもう一度「推敲」について述べます。

 そちらは今回のものとは毛色が違うので、投稿する際に言及するつもりです。





問題点がある前提で推敲する


 推敲をするときは頭が小説世界から完全に抜け出るまで「原稿を寝かせる」ことが必要です。

 そうしてから推敲をしたほうが原稿を客観視できるため、直すべき箇所を見つけやすくなります。

 ですが、ただ漫然と原稿をチェックしても、直すべきところを見逃してしまう可能性が高くなるのです。

 どうすれば精度の高い推敲ができるようになるのでしょうか。




問題点は必ずある前提で

 まず認識していただきたいのは「一回目の執筆で完璧な小説を書くなどは『文豪』でもできなかった」ということです。

 多くの「文豪」も、必ずどこかに問題点を見出だして原稿用紙に修正を施しています。

 夏目漱石氏の生原稿にもたくさんの書き込みが見られるのです。

 ましてあなたは「文豪」ではありません。

 「一回目の執筆で完璧な小説を書くことなどできはしない」のです。


 ではどのように推敲すれば、より完璧でスキのない原稿に仕上がるのか。

「問題点は必ずある」という前提で原稿をじっくり検討してみることです。

 そのように意識するだけで、今までの推敲よりも多くの「問題点を見つける」ことができます。




思い込みは捨てる

 今までの推敲では「自分の書いたものだから、さほど間違いはないんじゃないかな」という思い込みが働いて、直すべきところを見落としていました。

 なにを修正対象にするのか明確になっておらず基準がわからないので、解釈が分かれてしまったのです。

 結果として「ここはこのままでいいんじゃないかな」とわざわざ手直ししようとすら思わなくなります。


 その点「問題点は必ずある」という前提で検討してみれば、それまでの思い込みが薄れるのです。

「あれ? ここってこれで合ってるの?」という部分をより検出しやすくなります。

 意識しなければ「問題点があっ」ても気づかないものなのです。

 だからあらかじめ「問題点は必ずあるんだ」と意識し続けましょう。

 自分の書いた原稿であっても、猜疑心を持って文面を読むことができるようになるのです。




疑わしきは修正する

 法の原則は「疑わしきは罰せず」です。

 明確に違法行為が明らかであれば処罰します。

 しかし状況証拠のみで犯人を推測して検挙し、取り調べで自白を強要するケースが今も跡を絶ちません。

 無実の罪に着せられて冤罪を生み出すよりも、「疑わしきは罰せず」が原則なのです。


 しかし小説などの文章の推敲では「疑わしきは書き改める」べきでしょう。

「ここを問題視したら修正が厄介だからなぁ」という理由で見逃すのはまったくの論外です。

「問題が見つかると手直しできて、読み手にもっと伝わる小説になる」という意欲を持ってください。

「疑わしいものはすべて書き改める」つもりで推敲するのです。

 そうすれば、今まで気づかなかった文章の欠陥を早期に発見し、修正する時間があなたに与えられます。

 もし最後の最後まで問題を見逃していると、詰めの段階でかなり多くの修正を余儀なくされ、渋々修正した小説は粗が目立つ結果になるのです。




余分なことに割ける紙面はない

 小説で余分なことに紙面を割く余裕なんてありません。

 そんな部分はばっさりカットして、必要な描写を丹念に書きましょう。

 推敲で最も重要なのは「そのエピソードは物語のテーマを描き出すために必要かどうか」です。

 もしテーマとは関係のないエピソードであれば、ばっさりと切り捨ててテーマに沿ったエピソードに書き替えましょう。


 もちろん息抜きとしてのエピソードが必要な状況もあります。

 あまりにも悲劇が続いてしまって読み手のテンションが目に見えて下がっている状況です。

 こういうとき読み手は「これ以上先を読みたくない」という心理に陥ってしまいます。

 だからそのような息抜きとしての意図を持ったエピソードであれば「テーマに沿っている」と判断してかまいません。

 それ以外の「テーマを描き出すために必要でないエピソード」はすべてカットです。


 シーンも同様で、テーマに沿っていないシーンはすべてカットしましょう。

 シリアスな作品なのに、あまりにもおふざけが過ぎるようなシーンというものがあります。

 書き手は面白いと思っているかもしれませんが、読み手としては「作品に似つかわしくない」「この小説には必要ない」と認識するのです。

 そしてえてしてそういったシーンは分量が多くなっていることでしょう。

 そんなことを読まされるくらいなら「もっと作品の本質を丹念に描いて読ませてくれないかな」と読み手は思います。




文を読ませる順序を適正にする

 そして文の順序が適切かどうかを調べます。

「寒さ」を読み手に疑似体験してもらいたいのに、説明から入るようではダメなのです。

「感覚」として「寒さ」を描写し、その後に説明を入れましょう。

――――――――

 今朝の東京の最低気温は〇度でした。寒さが体にしみてきます。

――――――――

 ではなく、

――――――――

 今朝は寒さが体にしみてきます。東京の最低気温は〇度でした。

――――――――

 のように書けば「あぁこんなに寒いんだ」と読み手に思ってもらえます。

 出だしがいきなり「説明」ではただの情報でしかないため、読んでも疑似体験はできません。

 先に「描写」を出して、その後に「説明」を添付していくようにします。

 そうすれば読み手が感情移入したまま「説明」を読ませることができるのです。





最後に

 今回は「問題点がある前提で推敲する」ことについて述べてみました。

 推敲は小説の最終的な質を担保するために行ないます。

 あなたが「ここは別に悪くはないんじゃないかな」と考えてスルーするのではなく、「問題点は必ずある」という意識を持ち「ここはちょっと伝わらないんじゃないかな」と判断して修正していくクセをつけてください。

 これを心がければ文章は格段に良くなります。

「自分で書いたものだから、そんなに誤りはない」ではなく「問題点は必ずある」という意識を持って推敲しましょう。



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