253.意欲篇:完璧な小説なんてない

 今回は「完璧な小説」についてです。

 書き手はそれを追い求めながら執筆し、読み手はそれを探し求めながら作品を読みます。

 でもそんな「完璧な小説」というのは存在するのでしょうか。





完璧な小説なんてない


 小説を書くとき、とくに注意したい点があります。

 それは「完璧な小説なんて存在しない」ということです。




賞は完璧な小説であることを担保しない

「いや、芥川龍之介賞(芥川賞)や直木三十五賞(直木賞)、ミステリー大賞、江戸川乱歩賞、このミステリーがすごい!、このライトノベルがすごい!などで賞を獲るのが完璧な小説でしょう」と返してくださる方がいらっしゃると思います。

 ではそれらの小説は賞にノミネートされる以前から実際にたくさん売れていたのでしょうか。まず売れていませんよね。

 それらは賞にノミネートされたから書籍に特製の帯を巻いて書店に平積みされ、人目を惹くようになっていきます。

 つまりノミネートされたら売れていくというビジネスモデルです。

 実際に芥川賞最大のヒット作となったお笑いコンビ・ピースの又吉直樹氏『火花』は、ノミネートされたことによって売上を伸ばし、受賞が決まってから爆発的に売れて出荷部数もすでに280万部を突破しています。


 もし『火花』が「完璧な小説」なのであれば、又吉直樹氏は「完璧な小説」を書く書き手だったのでしょうか。

 その証明が二作目である『劇場』の売上に現れています。

 もし又吉直樹氏が「完璧な小説」を書く書き手であったのなら、『劇場』も200万部をゆうに超えていたことでしょう。

 ですが現実は初版30万部とスタートダッシュにこそ成功したものの累計部数では『火花』の足元にも及びません。

 このように受賞したから「完璧な小説」というわけではないのです。


 芥川賞・直木賞へのカウンターとして『本屋大賞』が創設されました。

 新刊を扱う本屋の書店員が一推しの作品が集計されています。「目の肥えた書店員が選んだのだから面白い作品に違いない」という点で、芥川賞・直木賞よりは「完璧な小説」に近いかもしれません。

 その点『このミステリーがすごい!』『このライトノベルがすごい!』は読者集計ですから、実際に売れていて楽しく読まれた作品へ投票されて賞が決まります。完全実力主義です。

 ということはこの二つは芥川賞・直木賞・本屋大賞よりも一般人が読みやすい楽しめる作品であることを担保しているのでしょう。

 ですが普段ミステリー小説やライトノベルを読まない人が読んでも「面白い」と思えるほど「完璧な小説」なのかといえば首をひねります。


 どんなジャンルの小説が好きな人でも、読んだら皆が「面白い」というような小説なんて存在しません。つまり「完璧な小説」など存在しないのです。

 『火花』は280万部以上出荷されていますが、小説を読み慣れない人が読んでも「面白い」と思えるような作品かと言われると違いますよね。

 とくに『火花』は又吉直樹氏のネームバリューが活かせる学生・生徒を中心として売れていきましたが、皆が皆「面白い」とは言わないのです。

 必ず不満な声をあげる人が出てきます。

 とくに学生・生徒といえばライトノベルを読み慣れている層です。

 その人たちからすれば「妙に重苦しくて窮屈な作品」という印象になります。

 『火花』は「完璧な小説」ではなかったのです。




完璧な小説を目指すと広く浅い物語になる

 そこで「完璧な小説」なんていうものは存在しないんだという前提に立ちましょう。

 主要ターゲット層の心を掴む作品であることは間違いないのだけれども、それ以外の層のことはいっさい無視すべきです。

 しかし「ターゲット層を絞るほど評価してくれる母数(閲覧数・PV)が減っていき」ます。それは事実です。

 小説投稿サイトの『小説家になろう』ではブックマークが1件につき2ポイント、文章評価・ストーリー評価がそれぞれ5ポイント付けられます。

 つまり文章評価・ストーリー評価を得られなければ、いくらブックマークをしてもらえたところで大ヒットにはならないのです。

 評価してくれる人数(評価者数)を増やさなければランキングに載ることもできません。

「ターゲット層を絞るほど評価してくれる母数(閲覧数・PV)が減っていく」恐怖に直面してしまいますよね。でも心配しないでください。

 詳しくは次々節「ターゲット層を絞る」に書きます。

 本項では逆に「ターゲット層を広げた」ときのことについて書き及んでいきましょう。


 ターゲット層を絞らなければ母数(閲覧数・PV)を稼ぐことはできます。つまり「ターゲット層を広げるほど評価してくれる母数が増えていく」のです。

 ですが、積極的に評価してくれる読み手の人数(評価者数)は逆に少なくなります。

 母数(閲覧数・PV)は増えるのに評価してくれる人数(評価者数)は逆に少なくなっていくのです。

 なぜでしょうか。

 その作品が「広く浅い物語」つまり子供用プールだからです。

 できるだけ多くの人に読まれれば必ず評価も高くなる、というほど単純な構造ではありません。

「広く浅い物語」には読み手の「心に痕跡を残す」ほどの感動がないのです。

 あまりにも漠然としていて、訴えかけてくる「テーマ」も底が浅い。

 これで「心に痕跡を残す」ことなんてできはしないでしょう。

 つまり閲覧数・PVが稼げて母数は増えます。しかし評価してくれる人数(評価者数)は減っていくのです。




本コラムの窮乏

 私の本コラムも閲覧数・PVこそ高いのですが、文章評価・ストーリー評価をしてくれる人(評価者数)はほとんどいません。

 本コラムが取り扱うターゲット層が広すぎるからです。

 もし完全に初心者だけに絞ったり、逆に中級者や上級者だけに絞ったりすれば――。

 ブックマーク数と評価のバランスはもっとよくなっていたのではないかと、現在ではそう思います。

 私自身が自分を「小説では中級者の下ランク」だと思っているのです。

 つまり当初は自分が経験してきた初心者向け、「中級篇」以降を今の自分がおさらいすべき中級者向けと思って書いています。

 中級者が上級者になるために描写をテーマとした「描写篇」を投稿したり現在ストックしている「表現篇」を書いたりして、さらにターゲット層が広がる気配すらしているのです。


 あまりにも評価がつかないので、ほとんどヤケを起こしています。

「まったく書けなかった人が小説の上級者になるまでの一大連載」にしてしまおうという状況になってしまったのです。

 それ相応の段階を踏んでもらおうとして連載が長期化しています。

 ですが、評価がつかなくてコメントや感想がほとんどありませんので、どれだけの人に届いているのかは私自身にもわからないのです。

 だから本心ではなにがしか「評価してほしい」ところ。でも「評価してくれ」とは言いません。

 できればコメントや感想のほうがありがたいくらいです。私のやる気が奮い立ちますから。

 批判やリクエストがあればお応えしますのでお気軽にコメントや感想を残してくださいね。

 まぁ連載が250を突破していますから毎日一投稿ぶんを読んでいくとすべて読むのに八か月かかるというのがそもそも致命的ともいえるでしょう。

 でも一投稿は2500〜5000字を目安にしているので5〜10分もあれば読めます。一日に複数のコラムを読むくらいは簡単にできるでしょう。

 しかも同じことを何度も念押ししながら書いています。だからとくに「記憶しよう」と思わなくても頭に入ってくるはずです。

 ただ読むだけですんなりと「中級の書き手」にはなれます。

 後は「描写篇」以降で上級者を目指すだけでいいのです。




ターゲット層を絞る

 お待たせしました。ここからは「ターゲット層を絞るほど評価してくれる母数が減っていく」現象についてです。

 ターゲット層を絞っていくほど「狭く深い物語」に仕上がります。

 つまり読んでくれる母数(閲覧数・PV)は大幅に減りますが、読み手の「心に痕跡を残す」度合いは強くなるのです。

 ある読み手にとって、とても強く深く「心に痕跡を残す」ことができます。

「狭く深い物語」であるからこそ、より強くより深く「心に痕跡が残る」のです。

 そうなれば、読み手は積極的に文章評価・ストーリー評価をつけてくれるようになります。

 つまり「母数(閲覧数・PV)は減るのに、人数(評価者数)は絞る前より逆に増えていく」傾向が出るのです。


 これは『小説家になろう』における「テンプレート」「キーワード」が好例でしょう。

 今流行りの「テンプレート」「キーワード」を用いることで、多くの書き手が同じ「狭く深い物語」を共有して投稿しています。

 簡単にランキング上位作品と似た小説が出来あがり、閲覧数・PVと評価のおこぼれにあずかれるのです。

 手っ取り早く「評価を高めたい」と思ったら「テンプレート」「キーワード」を積極的に取り入れるべきでしょう。


「テンプレート」無しで評価を高めるには、高い筆力が要求されます。

「中級の書き手」にはとても高く分厚く大きな壁です。

 ですがターゲット層を絞っていくほど、より「狭く深い物語」になります。

 壁を削って「狭く深い」穴に捨てていけば、いつか壁を貫通できるのです。

 であれば、あまりにもニッチな作品になってもかまわないので「ターゲット層を絞れるだけ絞って」ください。

 そうして出来あがった作品を読んだ人がうまくハマってくれれば強く深く「心に痕跡を残せ」ます。

 そこから評価がじわじわと広がっていく可能性があるのです。

 だから、できるだけ「ターゲット層を絞れるだけ絞って」より「狭く深い物語」を書きましょう。





最後に

 今回は「完璧な小説なんてない」ことについて述べてみました。

 書き手の中にある「完璧な小説」とはどのような小説でしょうか。

 より多くの人に読んでもらえて、より多くの評価がついて、それが「紙の書籍化」される。

 そんな作品を「完璧な小説」と思っていませんか。

 ですが、それを最初から狙いに行くのはかなり難しい。

 当初は「テンプレート」「キーワード」を揃えてランキング上位の作品に似た小説を書きましょう。

 評価が高まってきてから独自の展開に持っていってもよいのです。

 また「テンプレート」から離れて、ニッチなより「狭く深い物語」を追求する手もあります。



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