239.意欲篇:どれだけ書けるようになっても不安で

 今回も成長に関するお話です。

 終盤は比較対象として他人ではなく「過去の自分」に設定するように呼びかけています。





どれだけ書けるようになっても不安で


 小説を書いていてある程度読み手がつき評価やブックマークが増えていったとします。

 すると「私ってこんなに小説を書く才能があるんだ」と思い込んでしまうことでしょう。

 しかしその思い込みは捨てたほうがいいと思います。

 自分の成長を自分で止めてしまう危険性をはらんでいるからです。




成長を止めてはいけない

 前にも(コラムNo.236「意欲篇:人は毎日少しずつ成長できる」で)述べましたが、少しずつでも日々成長を続けることがたいせつです。

 現状維持でよしとすれば、いつの間にか時代遅れになってしまいます。

 今人気が出ていても、いずれ没落していくことでしょう。

 だから「自分には小説を書く才能があるんだ」と思い込んではいけません。

「今書いている小説は皆に読んでもらえるのだろうか」

「たくさん評価してもらえるのだろうか」

「何人がブックマークしてくれるのだろうか」

 そういう不安感こそが「現状維持をよしとしない」心構えとなり「成長を続けていく」ために必要な要素となります。

「いや、そんなに不安にならなくても。意識なんてせずに書いて投稿すれば、今までどおりの成果は挙がるよ。好きなように書いていくのがストレスを溜めずに長続きするんだから」

 と考える人もいそうですね。その言葉をそっくりそのまま読み手に伝えてみてください。どういう反応が返ってくると思いますか。

 ちょっと考えればわかりますが「たいした苦労もしないで小説を書いて投稿しているだけで、私たち読み手のことなんてちっとも考えていないんだ」と思われるはずです。読み手に配慮する気持ちがないんだと見なされます。

 そう思われてもまだ読み手がついてくるような書き手ならそれでいいでしょう。

 しかしたいていの読み手はあなたから離れていくはずです。




不安感が成長の中核

 それに対して「不安感」を持つと考え方が変わります。

「ここはこう書いたほうがいいの?」「ここはこの展開で合っているの?」「ここはこの行動をとらせた方がいいの?」

 つねに不安がつきまといます。ある程度のストレスがかかっているはずです。

 その代わり「読み手にとって良い小説にしたい」という思いは文章に強くにじんできます。

「読み手にとってよい小説にしたい」と思いながら書いていますから、当然よりよい表現や展開を読み手は読めるわけです。評価やブックマークが増えていきます。

 不安を抱えながらの執筆になるのですが、投稿して評価やブックマークが徐々に増えていけば、そのときの不安なんて一瞬で消し飛びます。かえって大きな達成感が味わえるくらいです。

 この達成感の心地よさのために、多くの書き手は毎日不安を抱えながら執筆しては投稿するを繰り返しています。すべては達成感を味わうためです。


 不安感があれば文章の質に対する向上心を維持できます。

 つまり日々少しずつでも成長していくのです。




できそうかなと自問する

 小説を書くとき、とにかく「できそうかな」「書けそうかな」と自問してください。

 そういう態度を持ち続けている限り、よりよい成果が生み出せます。

「今日はこれをするんだ」「こうするんだ」と強く心に決めてしまうと、どうしても自分に自信を持ってしまうのです。それが続いていくと過信に陥ります。

 初心忘るべからず。初志貫徹。

 どんなに高評価を得ても、ブックマークが増えても、つねに自分の技量に疑問を持ち、「もっと皆に伝わる書き方はできないものか」と考え続けましょう。


 明治後期から昭和中期までの、いわゆる「文豪」も絶えず「もっと皆に伝わるように書きたい」と思案していました。

 ましてあなたはアマチュアの書き手です。「文豪」以上に「もっと皆に伝わるように書きたい」と思って実践していかなければなりません。

「文豪」と違って現代は幸いにして小説投稿サイトが存在します。

「文豪」は「紙の書籍」になって読み手に作品が届き、読んだ感想をファンレターとして出版社の編集さんを通じて受け取っていました。

 それが現在は小説投稿サイトに投稿された作品を読み手が読み、感想を直接コメントできるようになったのです。

 つまり「伝わった」のか「伝わらなかった」のかがリアルタイムでわかります。

「文豪」よりも格段によい環境の中で、私たちは小説を書いているのです。

 数を重ねるごとに「文豪」に追いつき、人によっては追い越す書き手も生まれていきます。

 次世代の「文豪」は小説投稿サイトで活躍している人を指す言葉になるかもしれません。

 それほどの分岐点に私たちは今立っています。 




今いちばんたいせつにしたいことは

 どのレベルの書き手であっても「今いちばんたいせつにしたいことはなにか」を考えてみてください。そしてそれを達成するために自分はどんな行動をとりましたか。それが大事なのです。

 あなたがもし「商業ライトノベルの書き手を目指すこと」をたいせつに思っているのなら、それにつながる行動をしなければなりません。そうでなければ日々努力する意義が見出だせなくなります。

 もし「連載小説を毎日書きあげて投稿すること」をたいせつに思っているのなら、是が非でも毎日投稿すべきです。

 他人に求める要素である「できるだけ高い評価を得ること」「できるだけ多くのブックマークを得ること」を考えてはいけません。それをたいせつにするくらいなら、自分でできる文章表現やストーリー展開を工夫しましょう。

 仮に「今はとくにたいせつにしたいことはないんだけど」と思っているのでしたら、まず「たいせつにしたいこと」を作ってください。

 作りもせずに惰性で小説を書いている限り成長することもなく、目標も達成できないでしょう。

 行動指針として「たいせつにしたいこと」を設定することで、より高く飛躍することができます。




比較対象は過去の自分

 自分が投稿した小説が他人の作品に比べて閲覧数や評価やブックマークが低い。小説投稿サイトを利用し始めた際によく突き当たる壁です。

 しかしその考え方そのものが妥当ではありません。

 比較すべきは他人ではないのです。過去の自分の作品と比べてください。

 もし過去の自分の作品よりも閲覧数や評価やブックマークに及ばないようなら、なにか手を打たなければなりません。もし多いようなら、素直に喜びましょう。そしてよりよい作品になるよう努力するのです。

 他人の作品と比較してもなんら得るものはありません。ひがみ根性だけが増大します。そして「他人の作品に遠く及ばない自分には小説を書く才能なんてないんだ」と思い込んでしまうのです。


 誰にだって初心者の時期があります。小説投稿サイトを利用し始めたときに投稿した作品なんて、今の自分よりも拙いものだってあるはずです。

 だからひがむもとになる「他人と比較する」ことはやめましょう。

 それだけで自分の努力を継続する「向上心」を高めることができます。





最後に

 今回は「どれだけ書けるようになっても不安で」ということを述べてみました。

 評価やブックマークが伸びただけで鼻高々になるようでは、それ以上成長できません。

 自分の実力が及んでいないんだと感じて「もっとよくするにはどんなことをしてみるべきか」をつねに考え続けて実行に移しましょう。

 また「いちばんたいせつにしていること」の中に「よりよい小説を書く」ことを入れるべきです。たいせつに思っていないことを努力しようとしても身につくはずがありません。

 そして絶対に他人とは比較しないことです。性根がねじ曲がるだけで得るものなどなにもありません。比較すべきは過去の自分です。成長は過去の自分との比較でしか測れません。



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