237.意欲篇:年末ジャンボ宝くじに見るリスク思考

 今日は二本立てです。(『ピクシブ文芸』掲載時)

 まずは今販売されている「年末ジャンボ宝くじ」に絡めたお話になります。

 すでに購入された皆様が高額当選することをお祈りいたします。





年末ジャンボ宝くじに見るリスク思考


 人は新しいものを得るよりも、すでに持っているものを取り上げられないようにしたい。そのために自ら意欲的に動きます。

 つまりリスクをとるくらいならリターンを求めない性質があるのです。

 ですがリスクが無くてリターンを得る可能性があれば人はそれになびきます。




ハイリスク・ハイリターン

 まず勝負をして勝ったらもらえるけど、負けたら取り上げるという「ハイリスク・ハイリターン」を人はなかなか選択しません。

「ハイリスク・ハイリターン」を選ぶのは「勝負師」です。勝ち方を研究して、より勝率が高くなるように分析します。そうやってリスクをできるだけ下げて、より確実にリターンが手に入る努力をするのです。

 ハイリスク・ハイリターンの代表が「株式取引」と「FX投資」です。


「株式取引」は証拠金さえあればその三倍の金を動かして株式を売買できます。

 当然儲けるのも三倍ですが、株価が下落したら三倍の損をするのです。しかも保有株式の会社がとんでもない負債を抱えて倒産すると株式は紙くずになります。まさにハイリスク・ハイリターンですね。


「FX取引」は円ドル相場を用いて為替差損益で利益を得ようとするものです。

 円高のときにドルを買い、円安のときにドルを売れば円安になった差額ぶんが利益になります。ただし円高に振れてしまうと差額ぶんが損失になるのです。ですが円ドル相場でどちらかがゼロになることはまずないので「株式取引」よりはゲーム感覚で勝負できる投資になります。それでもやはりハイリスク・ハイリターンですよね。


 他にハイリスク・ハイリターンの代表が世界中にある「宝くじ」です。

 これは極めて小さな確率でとんでもないリターンが見込めるので、少なくないお金を注ぎ込んででも当てたいという心理が働くのです。

 だから「ジャンボ宝くじ」や「ロトくじ」は世界中で毎回大盛況になります。




ノーリスク・ノーリターン

 多くの人は、勝負に勝てばもらえるけど、負けたら取り上げられるという「ハイリスク・ハイリターン」はできれば選びたくない、という消極的な選択をします。とくに日本人は顕著だそうです。

 あえてリスクをとらなくても普通に働いていれば生活に困ることがありません。

 日本は世界でも恵まれた国のひとつです。

 だからリスクがあることはどんなにリターンが多くても避ける傾向があります。

 「宝くじ」を買わない人の論理ですね。




年末ジャンボ宝くじの期待値

 ここで今回のネタの時間です。

 今年ももう「年末ジャンボ宝くじ」の季節となりました。

 風物詩となった「年末ジャンボ宝くじ」は購入者がどのくらい儲けられるか知っていますか。

「年末ジャンボ宝くじ」はくじ一枚を300円で販売しています。以下は重複がいっさいないものとして計算しているのでご注意くださいませ。(ちなみに重複を計算に入れると損失はさらに大きくなります)。


「年末ジャンボ宝くじ」の末等六等はくじ一枚300円に対して1/10の確率で300円が当たります。つまり9割は300円の損、一割は0円の得つまり購入した金額が返ってきます。

 300円返ってくるから300円の得ではないのかと思われますよね。でも最初に購入資金にした300円はリターンから差し引かなければ正しい利益を判定できないのです。

 つまり六等だけを見たら平均化した期待値は▲270円と損になります。


 五等を含めれば1/100の確率で3,000円が当たります。つまり89%は300円の損、10%は0円の得、1%は2,700円の得です。平均化した期待値は▲240円と損になります。


 四等を含めれば1/1,000の確率で10,000円が当たります。つまり88.9%は300円の損、10%は0円の得、1%は2,700円の得、0.1%は9,700円の得です。平均化した期待値は▲230円と損になります。


 三等を含めれば1/20,000の確率で1,000,000円が当たります。つまり88.895%は300円の損、10%は0円の得、1%は2,700円の得、0.1%は9,700円の得、0.005%は999,700円の得です。平均化した期待値は▲180円と損になります。


 二等を含めれば1/400,000の確率で15,000,000円が当たります。つまり88.8949975%は300円の損、10%は0円の得、1%は2,700円の得、0.1%は9,700円の得、0.005%は999,700円の得、0.0000025%は14,999,700円の得です。平均化した期待値は▲179.625円と損になります。


 一等の組違いは1/20,000の確率で500,000円が当たります。つまり88.8899975%は300円の損、10%は0円の得、1%は2,700円の得、0.1%は9,700円の得、0.005%は999,700円の得、0.0000025%は14,999,700円の得、0.005%は499,700円の得です。平均化した期待値は▲154.625円と損になります。


 一等は1/40,000,000の確率で700,000,000円が当たり、前後賞はその前後なのでそれぞれ1/40,000,000の確率で150,000,000円が当たります。これですべての当選が確定するのです。つまり88.889997425%は300円の損、10%は0円の得、1%は2,700円の得、0.1%は9,700円の得、0.005%は999,700円の得、0.0000025%は14,999,700円の得、0.005%は499,700円の得、0.000000025%は700,000,000円の得、0.000000025%は150,000,000円の得×2(前後なので)です。平均化した期待値は▲154.374999775円と損になります。


 勝負するのなら損得の両面から見なければなりません。

 つまり300円で買った「年末ジャンボ宝くじ」1枚は▲154.37円の損にしかならないのです。だから何枚買おうとも一枚あたりの期待値は▲154.37円の損になります。

 販売額の半分以上が胴元に吸い取られているわけです。


 ここまで書けば「年末ジャンボ宝くじ」がいかに割に合わない勝負であるかが一目瞭然ではないでしょうか。

「ハイリスク・ハイリターン」でも「年末ジャンボ宝くじ」が売れるのは「当選金が大きく」て冷静な確率判断にまで頭が回らず、その割に「購入が簡単」だからです。

 それでもあなたは「年末ジャンボ宝くじ」を買いますか。




ノーリスク・ハイリターン

 まず与えておき、勝負をして負けたら取り上げるという「ノーリスク・ハイリターン」というものもときたま出てきます。

 たとえば最初にお菓子をもらって、勝負に負けたら取り上げられます、というルールだったらどうでしょうか。こちらとしてはまったく損をしません。


 この応用として健康食品の通信販売による「お試し無料」サービスがあります。

 商品をタダでもらえて、食べて効果が出たらリターンが生まれるのです。効果が出なくても損はしません。

 だからといって、今CMや広告などで展開されている「お試し無料」の商品を取り寄せるのはオススメしません。

 実はこの「お試し無料」は「初回」という文字が小さく付くことが多いのです。つまり「お試し」でもらったのに実は定期購入サービスに登録されて、以後勝手に商品が送られてきて高い料金を支払わされます。

 だから、とくに必要もないのに「お試し無料」だからといって手を出すのはやめましょう。




ハイリスク・ノーリターン

 この世の中に存在しないのではないかと思わせるものが「ハイリスク・ノーリターン」です。

 リスクが高いのに得るものが少ない。こんな割に合わないことを常識のある人間がするのでしょうか。

 実はする人が出てしまうんですよね。

 覚醒剤が典例です。

 使えば一時的な快楽は味わえるのでしょうが、捕まれば人生を棒に振りますし、仮に捕まらなくても脳には再起不能なほどの副作用が生じます。まともな人なら手を出す理由がありません。

 覚醒剤の密売人から言葉巧みに売りつけられて使用するパターンと、友人から勧められて好奇心で使ってしまうパターンが入り口として多いそうです。




リスクを下げてリターンを上げる努力

 つまり人は「勝ったらあげるよ(ハイリターン)」よりも「負けたら取り上げるよ(ハイリスク)」のほうに強く興味が惹かれます。

 あとはどのような勝負をするのかで決まることが多いのです。

「年末ジャンボ宝くじ」は「買ったらあげるよ(ハイリターン)」の金額がとんでもないので売れます。

 相手にとって「やりたい」「やらなきゃ」と思わせる勝負を持ちかければ、勝負に乗ってくる可能性が出てくるのです。

 相手の自主性をどれだけ引き出せるか。それが勝負に乗ってくるかを左右します。


 中国古典『孫子』や『論語』などでもとくに言われているのが「リスクをできるだけ下げる」ことと「リターンをできるだけ高めること」の両立です。

 大学で習う「ゲーム理論」の「囚人のジレンマ」や「ゼロサム・ゲーム」などもこの勝負を前提としています。





最後に

 今回は「取り上げられないほうが強い動機になる」ことについて述べてみました。

 心理学や兵法などでよく見られる事柄なのですが、人物の行動原理を決める簡単なマトリクスだと言えます。

 日本人のたいていは「ノーリスク・ノーリターン」主義です。

 人生を賭けなくても安定した暮らしが送れるので、あえてリスクをとる必要がないからかもしれません。

 「ハイリスク・ハイリターン」の「株式取引」を行なう人の積極性も見えてくると思います。

 私が予定している『物語(仮)』では「株式取引」を生業とする女性を登場させる予定です。当然積極的な性格に設定してあります。

 もし金持ちで「ノーリスク・ハイリターン」を考えるならバブル期の「不動産投資」が真っ先に思い浮かぶでしょうか。堅実な人ほどバクチは打ちません。



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