229.描写篇:情景による心理描写(3/6)
今回も「情景による心理描写」についてです。
番号だけが増えていくとわかりにくいですよね。
なんとか工夫できないかな、と模索しています。
でも「ちゃぶ台返し」があるのでわかりやすくする意味がないような気もします。
情景による心理描写(3/6)
今回も「情景による心理描写」のうち気象による表現法について引き続き述べていきます。
希望を感じさせる明け方
日暮れとは逆に、周りが徐々に明るくなっていき、遠くのものがはっきり見えてくるようになる。当然演出としても「心機一転」「前途洋洋」「希望を見出だす」といった前向きな気持ちを仮託することが多くなります。
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明かりをまったく持たされず俺は暗い山中に取り残されてしまった。借金取りに無理やり連れてこられたのだ。
金を借りるだけ借りて返していない。借金取りが躍起になるのも致し方ないだろう。
とりあえず月明かりを頼りに山を下りようと考えた。
運良く川に行き当たれば、川に沿って歩いているといつか人里を見つけることもできるだろう。
しかしよくよく考えると、下へ下へと向かっても目印になるものはそう簡単に見つけられるものではなかろう。
盆地の只中に入り込んでしまえば方向感覚が麻痺してどちらに進めばいいのかわからなくなる。それが怖かった。
ならば逆の発想をしてみよう。
山を登るのだ。道に迷っている以上動かないほうがよいのだろうが、黙って救助を待つ気にもなれない。そもそも借金取りが俺の救助を要請するだろうか。まずしないはずだ。
(登れるところまで登ってみるか)
そう腹を決めて山を登っていくことにした。
あれからどれくらい経ったのだろうか。登っているせいか外界に広がる鬱蒼たる森が不安を煽ってくる。
それでも俺は登ることをやめられない。もう元の場所には引き返せないのだ。
自分の勘を信じてひたすら登り続けた。
すると景色が少しずつ彩りを取り戻していく。もう夜明けがやってきたのだろうか。
それでも俺は歩みを止めなかった。
いつの間にか俺は山の頂上に達していた。程なくして周囲が明るくなってきて、山々の合間から太陽の昇ってくる方角がわかるほどになる。ついに朝を迎えたのだ。
ひとまず視界は得られた。
あたりを見渡して俺は気づいた。俺の勘が正しかったことに気づいたのだ。
山頂には案内板があり、この山の地図が掲示されていた。そしてどの方角の登山道を下りていけば鉄道の駅にたどり着けるのか、手に取るようにわかる。
「よっしゃー!」
迷ったことで俺はひとつの教訓を手に入れた。山で迷ったら登ること。そうすれば道標を見つけることができるのだ。
その気づきを祝福するように昇ってきた太陽の光が俺を、そして山頂を照らしている。
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今回はちょっとした知識を加えてストーリー仕立てにしました。
「山で迷ったら登ればいい」という情報は意外と知られていませんよね。
でも文中で書いたように、気楽に登山できる山では山頂にたどり着ければ案内板が立っています。
皆様も山で道に迷ったらとりあえず登ってみてください。
隠れてコソコソな夜中
夜中は表に出てもなかなか人に見つからないものです。
とくに現代日本のように幹線道路沿いに街路灯がない場所にいればなおのこと。
隠れてなにかをやるには絶好の状況です。犯罪が夜に多発するのも人に見つかりにくいからですよね。
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少数のノーリツ軍はパーミッシュ城に立て籠もっている。
城を包囲するように野営していたカルロ軍は精鋭揃いであり、ノーリツ軍は窮地に陥っていた。
〈はははっ。ノーリツの臆病者は城に籠もるだけが望みの綱だ。包囲して兵糧攻めにすれば程なく降参するだろうさ〉
すでに戦で勝ったかのようにカルロ軍の警戒心は薄らいでいる。
「ふっ、カルロも存外バカなものだな」
パーミッシュ城の鐘撞き堂屋上からカルロ軍の布陣を眺め、望遠鏡からカルロの声を読唇術で聞いていたノーリツ軍の軍師カッツェはある作戦を将軍に提案し、即座に採用された。
パーミッシュ城は隣接する川から生活水を確保するために地下水路が張り巡らされている。そこを通って工作部隊が城外に抜け出ていった。
工作部隊はカルロ軍に気取られないよう注意深く進んでいき、食糧備蓄倉庫のそばまで近づいていった。
警戒心が薄くなっているカルロ軍の不意を突く作戦である。
工作部隊は存在を知られることなく食糧備蓄倉庫脇へたどり着くと、隊長の合図とともに倉庫へ火矢を射たり松明を投げ込んだりした。
すると瞬く間に倉庫に火の手が上がった。
元々燃えやすい天幕倉庫であり、中に置いてある食糧も小麦粉など燃えやすい代物だ。
時が経つにつれ大量の食糧が焼かれていく。動揺したカルロ軍はすぐに火を消そうと躍起になっていた。
カルロは倉庫を焼かれた報に触れると、すぐに全戦力を鎮火へ投入する。
「早く水を持ってこさせろ! 食糧が無くなれば生きて帰ることもできなくなるぞ!」
すると火のついた輸送車が転倒して小麦粉があたりに飛び散った。と同時に大爆発を起こす。粉塵爆発だ。
カルロ軍が混乱するさまを屋上で確かめたカッツェは、城から全兵力を敵の食糧備蓄倉庫へと向かわせた。
燃え盛る炎と迫りくるノーリツ軍によりカルロ軍は恐慌状態に陥り、為す術もなく倒されていった。
食糧を失ったうえ恐慌を来たした状況では全滅もありうると判断したカルロは、仕方なく全軍を自国へ撤退させることにした。
ノーリツ軍は直ちにこれを追撃してカルロ軍を追い散らした。
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このように相手の目に触れることなく何を行なうには夜間が最も適しています。
恋愛なら『ロミオとジュリエット』のように夜に密会するというのもよくあるシチュエーションですよね。
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隆は低めた声で尋ねる。
「なあ宏美、誰にも気づかれずに来られたか?」
「ええ、皆が寝ているのを確かめてきたから」
私の家族は隆との交際を認めていない。だから逢うには人目を忍ばなければならなかった。
夜の公園は街路灯がいくつか点いているものの薄暗さを醸し出している。
周囲を見渡すと、恋人と思しき人たちが先着していたようだ。あちこちからささやき声が聞こえてきた。
「なんとかして宏美の家族に認められたいんだけどな」
「無理よ。父も母も『国立大卒で優良企業に勤めていなければ結婚させない』なんて言うんだから」
「でも、いつまでもこんなヒソヒソ逢うなんて続けられないし」
「隆はバンド頑張っているんだから、それで見返してやればいいのよ」
隆のドラムスは安定して力強いビートを刻み、観客を大いに沸かせていた。
「考えたんだけど、なにか理由をつけて宏美の両親を次のライブに呼んだらどうかな?」
「理由ねえ……」
私は理由にできそうなものを考え始めた。
誕生日は父も母も過ぎているし、結婚記念日は再来月だ。私の就職記念日というのにも無理がある。
さまざまな出来事を想像するが、なかなかいい口実が見つからない。
「確か直樹くんの誕生日が近くなかったっけ」
「あっそういえば……」
確かに弟の直樹は来週に誕生日を迎える。
「それでさ。うまく直樹くんに『行きたいライブがあるんだけど』とか理由をつけさせて両親も一緒にライブに呼ぶとかさ。チケット四枚なら確か手元にあるんだ」
そういって彼は長財布を取り出してチケットの枚数を数え始めた。
「今六枚あるから四枚渡しておくよ。直樹くんをなんとか抱き込んで、来週のライブに家族で来てくれよ」
隆のことを認めさせるには、彼のすごいところを両親に見せてやるのが一番だと思えてきた。
「わかったわ。今すぐ帰って直樹に頼んでみる」
「急で難しいかもしれないけど――」
「大丈夫。直樹は隆のこと尊敬しているもの。きっと了解してくれるわ」
私は隆からチケットを四枚受け取ると家へと駆け出した。
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密やかな愛というのはいつの時代でもあると思います。
そして密会するときに深夜を選ぶというのも古典的ですが今でもよく見られるのではないでしょうか。
最後に
今回は「情景による心理描写」の第三弾です。
天候や時間などを活用すると心理描写が幅広くなります。
今回は「夜明け」「夜間」を紹介してみました。
次回も「情景による心理描写」について書きます。
これまでは天候の活用でしたが、次回は「世界の見え方」についてです。
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