226.描写篇:舞台の描写(2/2)

 今回は「舞台の描写」の第二弾です。

 とても短いので、前回とセットにしてもよかったかもしれません。





舞台の描写(2/2)


 今回は「舞台の描写」の第二弾です。

 視線誘導はイラストでも用いられる、描写では基礎的な表現になります。

 基礎的だからこそしっかりと押さえておきたいところです。




目立つものから目立たないものへ

 今度は場所を屋内に変えます。高等学校の放課後の教室です。

 そこで目立つのは「整然と並べられた机と椅子」「教壇」「黒板」「掲示板」「時間割」「時間割を留める画鋲」の順にします。

 これを「目立つものから目立たないものへ」描写していくのです。

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 放課後の部活動が終わり教室に戻ってきた。

 誰もいないがらんとした室内には机と椅子が整然と並べられている。

 前方へ視線を移すと教壇があり、その背後に黒板が置かれていた。

 黒板の右脇には掲示板があり、そこに時間割が記載された紙が貼り付けられている。

 しかし時間割を留める画鋲の一つが外れていて紙はめくれていた。

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 とこのように書きます。こちらも「整然と並べられた机と椅子」「教壇」「黒板」「掲示板」「時間割」「時間割を留める画鋲」の順で書かれているのです。

 人間は目立つものにまず視線が向きます。

 大きいものから見ようとするのも目立つからです。

 どこまで目立たない物を書くかで読み手の関心を惹いていく手法になります。

 イラストで色味を用いて視線を誘導する手法があります。

 たとえば「黒と黄色」を掛け合わせると観ている者の注意をそこに惹けるのです。また「緑と赤」のような補色も目を惹きます。


 こちらも前回紹介した「近くのものから遠くのものへ」「小さなものから大きなものへ」のように「目立たないものから目立つものへ」と描写したいところですよね。

 ですが地の文での語り口は「先に書いたものが目立つから先に書いてある」ように出来ています。

 なので「目立たないものから目立つものへ」と描写することはできません。

 これが前の二パターンとは明確に異なる点です。




移り変わる風景を書く

 以前旅客機を見送る側が、動く旅客機を追いながら書いた描写があります。

 今回は動く電車の中から、移り変わる風景・景色を書いてみたいと思います。

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 新宿駅で京王線準特急高尾山口行きに私は乗り込んだ。通勤時間帯ではないので空席が目立つ。

 ドアの隣りにある座席へ腰掛けることにした。

 座ってしばらくすると発車を告げるチャイムが鳴る。電車のドアがゆっくりと閉まり、次いでホームドアも閉まった。

 準特急は静かに線路を進んでいく。ホームの看板や次発の電車を待つ人々が後方へと加速度をつけながら流れ去っていった。

 すぐに窓の表が暗くなる。トンネルの中を進んでいるのだ。京王線は新宿駅から笹塚駅の手前までトンネルが続いている。

 電車は速度を上げてこの長いトンネルを駆け抜けていく。トンネルを照らす電灯がものすごい速さで後ろへ飛び去った。

「次は笹塚、笹塚です。笹塚の次は明大前に停まります」

 車内には車掌からいつもの伝達事項が流れていた。

 三分ほど暗がりが続いたあと、急に表が明るくなった。トンネルから抜け出て停車する笹塚駅に近づいたのだ。視界に飛び込んでくるビル群が高速で後ろへ流れ去っていった。

 すると次第に飛び去るビル群や架線柱の速度も落ちていく。

 電車はそのまま速度を落としながら笹塚駅のホームへと滑り込んだ。

 急な減速をしているはずなのにたいした揺れを感じない。運転技術が優れているのか車両設計が優れているのか、鉄道に詳しくない私には判断できなかった。

 いつの間にかホームに設置されている行き先案内板を視認できる速度まで落ちていた。

 程なくして電車は停車位置に寸分違わず到着して停車する。

 ゆっくりとドアが開き、笹塚駅を利用する乗客が降りていったり乗ってきたりした。

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 電車は少し描写が難しくなるので避けたほうがよかったかなと思いました。後悔しています。

 京王線はミシュランガイドで三ツ星を獲得した高尾山にアクセスするため利用者の多い路線です。

 そこで今回例として用いてみました。

 ゆったりと流れていく川下りボートなどのほうがより描写しやすくて勉強になると思います。





最後に

 今回は「舞台の描写」の第二弾について述べてみました。

 ライトノベルのとき、単に「風景描写」をするだけなら「説明」でさらっと書いてしまいましょう。

 ライトノベルの読み手は風景描写を緻密に書かれるより、主人公や人物の描写を緻密に書いてほしいと思っているからです。

 なにせライトノベルは「キャラクター小説」とも呼ばれるくらい、人物が重要になります。


 文学小説やエンターテインメント小説(大衆小説)や随筆などでは「風景描写」をいかに読ませるかが作品の評価をある程度決めてしまいます。

 だからそういったものを書く機会を考慮して、ある程度「風景描写」ができるようになるべきでしょう。

 今回紹介したのは一人称視点での「心の声」「感情」「五感など」をそれほど書いていません。

 実作では人物を描写したときのように動作に混ぜ込んで「説明」を散らばせると「読まされた感」が薄れてよりよい文章になるはずです。

 もっと極めたい方は、とにかく名筆家の作品を読みまくってください。

 先ほど述べたようにライトノベルは「風景描写」が弱いので、文学小説や大衆小説に範を求めればよいでしょう。



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