225.描写篇:舞台の描写(1/2)

 今回は「舞台の描写」の第一弾です。

 書き込み方は映像のカメラワークと同じです。

 使えるものはリアルなものも使うべきです。





舞台の描写(1/2)


 前々回と前回で主人公と人物の描写について述べてみました。

 今回は「舞台の描写」の第一弾です。

 マンガやアニメ、ドラマや映画、ゲームなどの「二次元の芸術」「二.五次元の芸術」ではまずロングショットで舞台の全体像を見せてから主人公へ寄っていくカメラワークがあります。また人物に焦点を当ててパンすることもあるのです。

 そういったカメラワークを意図して小説に取り込めば、自然な流れで舞台設定を読ませることができます。




遠くのものから近くのものへ

 たとえばいちばん遠くに「空」と「太陽」、その手前に「富士山」、その手前に「精進湖」、その手前に「湖畔の森」があり、主人公がいるのは「緑の丘」の上だったとします。

 これを「遠くのものから近くものへ」描写していくのです。

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 夜明けの深い青空に昇り始めた太陽がまぶしく照り輝く。

 昨夜の雨が埃を払い落としてくれたおかげか空気が澄んで陽の光が冴えわたっている。

 朝日に映し出された富士山はいつも以上に霊験な雰囲気をたたえており、精進湖には逆さ富士が浮かび上がっていた。

 木々が生い茂る湖畔の森を隔てて私たちのいる緑の丘までが一望できる。

 まさに絶景だった。

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 とこのように書きます。

 きちんと「空」「太陽」「富士山」「精進湖」「湖畔の森」「緑の丘」の順に書かれているのがわかるでしょうか。

 またこの描写はよく読むと「上のものから下のものへ」描写していることもわかるはずです。

 地上にいる場合は上にあるものが遠くにあり、下にあるものが近くにあることが多くなります。これは遠近法も関係してきます。

 アイレベルにカメラが据わっていて、それより上にあるものは自分の目でも上にあるのです。

 そして屋外では目線よりも上に物はなく、空が広がっています。だから上にあるものほど遠くに見えます。

 屋内では天井があるためアイレベルより上は近くにあり、消失点に向かって物が遠くにあるような配置になるのです。


 これとは真逆の手法もあります。「近くのものから遠くのものへ」描写していくのです。とくにスケールの大きさを表すときに用います。

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 暖房のきいたオンボロ列車に揺られて、寂れた田舎の無人駅に着いた。

 出発時間は十分後なので気晴らしとストレッチを兼ねてホームに降りることにした。

 そこには雪がうっすらと積もっている。

 周囲を見渡すと駅舎も周りの木々にも雪があった。あたり一面が銀世界だった。

 見上げると空には雲が厚く垂れ込めていて陽光を遮っている。

 さらに雪が降らんばかりの空模様だ。

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 とこのように書きます。「オンボロ列車」「無人駅」「無人駅のホーム」「無人駅の周囲」「空に垂れ込める雲」と少しずつ舞台のスケールが大きくなっているのがわかるでしょうか。


「遠くのものから近くのものへ」「近くのものから遠くのものへ」と描写していくカメラワークは映像ではひじょうに初歩的な演出法です。初歩だからこそ最初にマスターしておくとよいでしょう。




大きなものから小さなものへ

 冬の夜にシーンを移してみます。大きいものは順に「星空」「天の川」「冬の大三角形」「三日月」です。

 これを「大きなものから小さなものへ」描写していきます。

 視線の流れを意識してズームアウトやパンしていくカメラワークですね。

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 夜になると眺望が一変する。

 満天の星空には天の川がくっきりと映えていた。

 数え切れないほどの星がまたたいているが、冬の大三角形を構成するシリウス、プロキオン、ベテルギウスは他のどの星よりもひときわ力強く輝いている。

 空の一画に三日月が煌々と輝いており、わずかな月明かりに照らされた大地は化粧をしたように白みがかっている。

 私たちは雪の上に寝そべってこの贅沢な夜空を満喫することにした。

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 とこのように書きます。こちらも「星空」「天の川」「冬の大三角形」「三日月」の順で書かれているのです。

 人間は物を見るとき一点を凝視してから周りが見えてくる場合もあります。ですが、たいていは周りのものの中にある大きなものに視線が行って、そこから小さなものへと視線が流れていきます。

(本来なら月が出ているときは月の周辺にある星の瞬きは月明かりで消されてしまいますが、今回はそれを無視して書きました)。

「大きなものから小さなものへ」描写していく手法は、とくに主人公や人物を描写するときによく用いられます。

 人物の全体像を書いて風貌を書く、そして目にズームインして瞳の色を描写する。この手法は幅広く用いられています。

 イラストでも大きなものがまず観ている者の目を惹きつけます。そこから徐々に小さなものへと視線が誘導されて流れていくのです。そうやって構図が定まります。


 こちらも真逆の手法があります。「小さなものから大きなものへ」描写していくのです。ズームアウトしていくカメラワークになります。

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 サイコロを湯呑み茶碗の中に放り込み、適当に揺らして畳の上へ湯呑み茶碗をかぶせた。

 周囲にいた人は皆丁か半かを口々に言い合って銭を張る。

 出揃ったところで湯呑み茶碗が持ち上げられた。ピンゾロの丁である。

 ある者はいきり立ち、ある者は頭を抱えていた。

 ここは丁半賭博の賭場。繁華街の一画にある。

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「サイコロと湯呑み茶碗」「博徒の人々」「賭場」「繁華街の一画」へとズームアウトしていっていますよね。

「大きなものから小さなものへ」描写していく手法と同様、主人公や人物を描写するときにもよく用いられます。

 まずその人物の特徴的なたとえば泣きぼくろにズームインして始め、風貌、体つき、全身から醸し出される雰囲気とズームアウトしながら書いていくような場合です。

 とくに語っておきたい物事を読み手の印象に残したい場合によく使われます。

 上記の例ですと「賭場」の象徴である「サイコロ」が重要なので真っ先に「サイコロ」を書いたのです。

 そのためどんどんズームアウトしていっても「サイコロ」のことは記憶に残ります。





最後に

 今回は「舞台の描写」の第一弾について述べてみました。要は「風景描写」ですね。

 次回は第二弾になります。

 イラストでも重要になってくる「目立つものから目立たないものへ」の視線誘導についてのお話になります。



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