209.再考篇:【課題】人物を書いてみよう
今回は久しぶりの「課題」です。
一人の人物の設定が書いてあります。あなたならこの人物をどう書きますか。
またジャンルを変えてこの人物を書いてみてください。いろいろと気づくことがあると思いますよ。
【課題】人物を書いてみよう
今回の課題は「人物の書き方」について学んでみたいと思います。
まず下記のような人物がいたとします。このときこの人物をどのように書けばよいのでしょうか。
〔描写する人物〕
氏名:田村佳彦。日本人。男性。十七歳。所属:橘高等学校・二年A組。身長百七十センチメートル・体重六十二キログラム。引き締まった筋肉。趣味は筋トレ。陸上百メートル走選手・県大会二位・来月にも大きな大会が迫っている。日焼けした色黒の肌。黒髪・スポーツ刈り。茶色の瞳・視力左右とも一.五度。低い鼻・大きな口。地理は好きだが英語は苦手。クラスの人気者。同級生に気になる女子がいる。
この人物を同級生の立場から書いてみましょう。
同級生から見れば「日本人・十七歳・高校二年生」は言われなくてもわかるはずですね。これらはまとめて「橘高等学校二年A組で同級生の田村佳彦は」とだけ書けば通じます。「身長」は見た目だけである程度の高さがわかりますからそれを書きましょう。ただ標準的な身長であればあえて書く必要はありません。「体重・視力」に関しては本人が話したことを聞かないかぎりわからないでしょう。勉強の成績についてはテストの結果を見ればわかりますから、そこは書けるはず。後は基本的に見た目だけの問題なので、書き手がどこまで詳細に書き込めばいいかを調整してみましょう。
男性の同級生から見た田村佳彦
では「男性の同級生」から見た「田村佳彦」を書いてみましょう。
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橘高等学校二年A組で同級生の田村佳彦は陸上百メートル走で県大会二位を獲るほどのスポーツマンだ。
来月にも大きな大会が迫っており、毎日のトレーニングを欠かしたことはない。
身長はクラスの中でも標準的である。体育の時間で見せる引き締まった体は、彼が筋肉トレーニングを趣味にしていることを如実に物語っていた。
陸上部ではランニングシャツに短パンを身に着けて日々練習しているせいか日焼けした色黒の肌であり、スポーツ刈りにした黒髪と相まって健康的に映る。
テストでは地理の点数は上位だが、英語はいつも赤点である。これから世界で戦っていくのであればもう少し英語の勉強に身を入れたほうがいいだろう。
彼はムードメーカーで、クラスでも部活動でも大きな口を活かした芸で場を盛り上げている。
クラスメートで特別意識している女子がいるようだが、本人はそのことを聞かれるといつもはぐらかしていた。
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とこのくらいの説明で設定のあらかたは書けたと思います。まず「茶色の瞳」という設定は彼のことを間近でまじまじと見なければわからないことなので省きました。さらに低い鼻はコンプレックスになりやすい設定なのであえて書いていません。人物を書くとき「コンプレックス」はなるべく書かないほうがいいのです。小説で殊更他人を揶揄するような描写はいじめを助長しますし、書き手の差別的な見方がにじんで見えてきます。
女性の同級生から見た田村佳彦
では「女性の同級生」から見た「田村佳彦」を書いてみましょう。
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橘高等学校二年A組でクラスメートの田村佳彦くんは陸上百メートル走で県大会二位を獲るほどスポーツが得意な男子です。
来月にも大きな大会が迫っていて、毎日のトレーニングを欠かしたことがないそうです。
体育の時間に見られる引き締まったたくましい体は、彼が筋肉トレーニングを趣味にしているからとも聞いています。陸上部で日々練習に励んでいるせいか日焼けした色黒の肌であり、スポーツ刈りにした黒髪と相まってとても健康的で頼りがいがあるように映りました。
テストでは地理はクラスでも上位です。でも英語はいつも赤点で先生に泣きついていました。これから世界で戦っていくのであれば、もう少し英語の勉強に身を入れたほうがいいと思います。
彼はムードメーカーで、クラスでも部活動でも大きな口を活かした芸で場を盛り上げてくれます。
クラスメートに意識している女子がいるようですが、男友達がそのことを尋ねても彼はいつもはぐらかしていました。
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「女子」視点ということで地の文を一般的な「です・ます体」で書いてみました。また気になるポイントが男女で違うかなとも思いましたので、フォーカスする部分を少しズラしています。
田村佳彦が異世界に行ったら
田村佳彦のキャラ設定は学園もので活かす範囲のみ書かれています。では彼が異世界に転移したら、異世界の人から彼はどのように見られるのでしょうか。
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目の前にいる男は成人男性の平均的な身長をしているが体はとても引き締まっていた。
この世界では珍しい黒髪を短く刈り上げ、色黒の肌をしている。茶色の瞳に低い鼻、大きな口が印象的だ。
自分の名前をタムラヨシヒコと呼んでいるが、この世界のどの地域にも似たような名前はない。
彼は脚力に自信があると言っており、今も村の若い衆と短い距離を競走しているが、誰も彼には敵わなかった。
――――――――
あれ? 設定が長かった割に書けることが限られてしまいましたね。
そうなんです。異世界に行くと現実世界での設定はほとんど活かせません。
実はこれが「異世界」を舞台にした作品が多くの人に書かれている理由なのです。
特段設定をしなくても人物を書ける手軽さ。それほど深く書き込まなくても読み手に伝わる手軽さ。
これがあるからこそ「異世界」とくに「異世界転移ファンタジー」は初心者には書きやすいように感じられます。
でもそれはただの錯覚です。
書かなくていいことと設定しなくていいことは根本的に異なります。
たとえば田村佳彦に気になる同級生の女子がいなかったら、元の世界(現実世界)へ帰りたいと思わないかもしれません。
また陸上部の大会が来月に迫っているので、なんとしてでも元の世界に帰りたがりますよね。
今までそれを目標としてつらい練習を繰り返してきたのですから。水泡に帰すかもしれないのであればとにかく焦ります。
ですがこの段階ではここまでしか書けません。話を進めていくにつれて現実世界のことも追い追い描写していくことになります。
視力がよい、たとえば動体視力がよいことを活かせる場面を作るとか、周りの人を惹きつける魅力を活かせる場面を作るとか。これらも設定がなければ作れません。
とくに「異世界転移ファンタジー」は現実世界の人物がそのまま異世界に行くわけです。現実世界の設定を意識していれば「異世界」でもそのまま書けます。
これが「異世界転生ファンタジー」であれば意識は同じでも異なった肉体として「異世界」にたどり着くわけです。
現実世界の設定の中で「考えていること(性格)」くらいしか使える要素がありません。
そうなると人物の設定をほとんどしなくてもよくなります。であれば人物の設定をする必要がないです。
だから「ひきこもり」「ニート」「無職」であっても主人公になりえます。
これが「異世界転移ファンタジー」になると「ひきこもり」にも「ニート」にも「無職」にも得意なことや特技がないと、人物の活かしようがなくなるのです。
『小説家になろう』において人気の「異世界転生ファンタジー」は「どんな人物だろうと主人公にできる」という点において他にまさっています。
そして転生したらどうなっているのか。このギャップで興味が惹けるのです。
ドラゴンであったりスライムであったりスケルトンであったりと「人外」へ転生する作品は数え切れないほどあります。
小説を書けない人が真っ先に書こうと思うのが「異世界転生ファンタジー」です。
少し書けるようになると「異世界転移ファンタジー」を書くようになります。
そこから「異世界ファンタジー」に行くのか「SF」に行くのか先のことはその書き手次第です。「異世界転移ファンタジー」に固執する人もいると思います。初志貫徹なのか他に書けないからなのか「異世界転生ファンタジー」ばかりの人もいるのです。
私は「できるだけ多くのジャンルを書く」ほうが筆力が向上して良い作品が書けるようになると思っています。
だから皆様にもできれば多くのジャンルに挑戦していただきたい。
さまざまな物語を作ってみれば「引き出し」が増えます。
将来大成するためにはできるだけ多くのジャンルを書いてみるべきです。
最後に
今回は「【課題】人物を書いてみよう」ということで課題を設定いたしました。
キャラクター表を作ったはいいけれど、どう書いていいのかわからない。そういう人はとにかく人物を書く回数を増やしましょう。
短編や中編ではなかなか細かな人物描写はできません。
かといってそうポンポンと長編のネタを思い浮かべられるものでもないのです。
であれば、読み手に伝わるような「人物描写」だけを何度も繰り返してみるのもひとつの手段でしょう。
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