205.再考篇:あなたの文体を見つけるリライト修行

 今回は建設でいう「居抜き」の提案です。

「名作」をあなたの感性でリライトしてみましょう。

「自分のオリジナル小説」だと物語のレベルが保証されないので、うまくリライトできたと思っても読み返すと「何か違う」と感じてしまいます。

 だから「名作」をリライトするのです。





あなたの文体を見つけるリライト修行


 小説を書こうと思い立ったときにまずは「名著」を書き写すのがほとんどだと思います。

 確かに書き写すと小説のルールや文体や文調を身につけるのに役立つのです。

 だからある程度の間「書き写す」ことを徹底してください。


 ある程度ルールもわかったし文体や文調が身についたのであれば、そこから一歩踏み込んでみましょう。

 なにをするのかといえば「リライト修行」です。

 馴染みのない言葉だと思います。私の造語ですから。

 ではどのようなことが「リライト修行」なのでしょうか。




手本を通読しておく

「リライト修行」はまず「手本」を用意しなければなりません。できれば短編か中編がオススメです。長編でもかまいませんが、時間がかかるし継続する忍耐力も必要になります。なので短編か中編を選びましょう。

 あなたが理想とする「手本」が見つかったら、まず通読してください。つまり「一気読み」するのです。一度通読する必要があるので、まとまった時間がとれない人はやはり短編か中編を選ぶべきでしょう。




展開と発言を抜き書きする

 そのときどのような人物が出てくるのかどのような展開をしているのか、どのような言葉のやりとりが交わされているのかを「箱書き」にしてください。短編や中編ならこの作業はそれほど苦にならないでしょう。

「リライト修行」においては「手本」でどのような人物が出てくるのか、どのような出来事が起こりどんな展開をしているのか、どのような発言をしているのかを憶えておく必要があります。

 すべてを憶えていられる人はいないでしょうから、必ず「箱書き」にしておきましょう。

 こうやって人物と出来事や展開と発言をまとめておくのです。

「箱書き」の束のことを「プロット帳」と呼ぶことにします。




試行錯誤しながら書いてみる

「プロット帳」を作り終えたらここからが本番です。

 あなたが書き写した「プロット帳」を使って「手本」を見ずに「自分の書きやすいように試行錯誤しながら書いて」みましょう。

 あなたの用意した「プロット帳」には、その物語に登場する人物も出来事や展開も発言もすでに「箱書き」として手元にあります。

 しかも「名作」であることがわかりきっているはずです。これを用いて「あなたならこのプロットでどのような文章を書く」のでしょうか。それを知ることが独自の文体を確立するスタート地点です。

 たとえば川原礫氏『ソードアート・オンライン』、渡航氏『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』の「リライト修行」をするのであれば、第一巻だけを「プロット帳」に書いておきましょう。『SAO』と『俺ガイル』はともにそもそも単巻完結の作品だったので皆様にも行ないやすいはずです。


「リライト修行」をすることで、どのような表現をすれば「プロット帳」の「箱書き」情報を活かせるのか試行錯誤できます。

 この試行錯誤であなたの表現力・筆力が必ず高まっていきます。

「手本」とした「名作」とまったく同じ素材を使っているのです。

 だから面白く書けて当たり前。

 小説のルールを知るための書き写しよりも表現力向上の勉強法としては格段に上でしょう。

 自分のオリジナル小説を何度でも書き直す手段もありますが、元々程度の低いオリジナル小説を「手本」にするとどんなに完璧な文体で書けたとしても面白くもなんともない作品が出来あがってしまうおそれがあります。

 その点「リライト修行」の場合「手本」にした小説が「名作」であればどうでしょう。

 あなたが完璧だと思えるような表現ができたときに出来あがった作品も必ず面白いものになるはずです。




書き終えたらいったん寝かせて読み返す

 最初のうちは「手本」には遠く及ばない表現しかできないかもしれません。

 でも書いた直後は小説世界に没入していますから「うまく書けた」と思ってしまうものなのです。

 そこでまずスポーツをしたりドラマやアニメでも観て気分転換して、小説世界から頭を切り替えましょう。

 頭が切り替わったらいよいよ読み返しです。

 最初のうちは内容がまったく伝わってこない文章になっていると思います。だからといってへこまないでください。

「リライト修行」というのは誰がやっても最初のうちは質の低い作品にしかなりません。

 だからといって「リライト修行」を投げないことです。

 何度でも同じ「プロット帳」を使って頭をひねって試行錯誤しながら書いていけば、そのうち満足のいく表現に必ずたどり着けます。

 もしあなたの「リライト修行」した作品を読んでみて「文意がきちんと伝わってくる」のであれば、「手本」と表現が異なっていたとしても「成功」です。

 その表現の仕方こそが「あなたの文体」を指し示しています。




何作でもリライト修行する

 一作をうまく書けたので「あなたの文体」が確立した、というほど甘くないのが小説です。

 さまざまな小説を「手本」として何作でも「リライト修行」をしてください。

 そうすれば一作目よりも二作目は早く書き終えられますし、二作目よりも三作目はさらに早く書き終えるでしょう。

 そうやって何作でも「リライト修行」をすることで「あなたの文体」は確立していきます。


「リライト修行」は「○○氏の劣化コピー」という表現にならないので、批判も少ないのが特徴です。

 だからといって「リライト修行」した成果を小説投稿サイトに投稿しないでください。

「リライト修行」は設定丸々「名作」と同じものを使っていますので「剽窃ひょうせつ」になるのです。

 せっかく書いたのだから投稿したい。そう思っても自重しましょう。


 でもどうしても投稿したいんだという方は「名作」ではなく「あなたのオリジナル小説」を「リライト修行」してください。

 あなたの作品であれば何度「リライト修行」して小説投稿サイトに投稿しても、誰からも批判されるいわれはないのです。

 ですが前記したとおり、そもそも「あなたのオリジナル小説」が「名作」である保証はどこにもありません。

 いくら表現が巧みになっても、底の浅い物語は底が浅いままです。





最後に

 今回は「リライト修行」について述べてみました。

 あなたの文体を身につけるには、とにかくたくさん書くしかありません。

 でも物語の面白さが根本的に足りていない人が、いくらオリジナル小説をたくさん書いても、面白い作品にはならないのです。

 であれば「名作」をたくさん書けばいい。

 ですが、オリジナル小説を書き始めた人がいきなり「名作」をたくさん書けるはずがありません。

 そこで「名作」の「箱書き」を利用して「あなたならどのような表現をしますか」ということにのみ注力すればいいのです。

 そのために「リライト修行」を提案いたします。



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