200.再考篇:タイトルの付け方

 今回は「タイトル」についてです。

 ウケないタイトルを4パターン、ウケるタイトルを3パターン例示しています。

 もちろん「ウケないタイトル」でも売れている作品はあります。

 でも小説投稿サイトに限るとやはり読まれないんですよね。





タイトルの付け方


 小説とくにライトノベルはタイトルが肝です。

 あなたは小説投稿サイトに作品を投稿しました。

 ジャンルも「キーワード」「タグ」もきちんと押さえている。なのに閲覧数が伸びない、という小説がかなりあります。

 ではその「閲覧数が伸びない」小説は面白くないのでしょうか。


「閲覧数が伸びない」けれど「面白い小説」はいくらでもあります。

 試しに『小説家になろう』で「更新された連載中小説」で「週別ユニークユーザ」が少ない小説をいくつか読んでみてください。

 意外なほど面白い小説を見つけることがあります。


 ではなぜ「面白い小説」なのに「閲覧数が伸びない」のでしょうか。




タイトルで興味を惹かないと読まれない

『小説家になろう』で「週別ユニークユーザ」が少ない「面白い小説」のタイトルに注目してください。

 たいていの場合は「興味を惹けないタイトル」であることが多いのです。

 ではどのようなものが「興味を惹けないタイトル」なのでしょうか。


■漢字だけで五文字以上の意味がわからない

 まず「漢字だけで五文字以上の意味がわからない」タイトルが挙げられます。

 何がいけないのかというと「具体的なイメージが湧かない」のです。

 たとえば半村良氏『戦国自衛隊』のようにぱっと見ただけで「戦国時代で自衛隊が活躍する話かな」と「具体的なイメージが湧く」タイトルなら興味を惹けます。でも少し格調が高くて手を出しにくいタイトルです。

 ライトノベルに似たような設定で柳内たくみ氏『GATE 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり』という作品があります。かなり長いタイトルですが『戦国自衛隊』ほど手を出しにくい雰囲気は与えずに中高生が「どんな小説なんだろう」と感じて「興味を惹くタイトル」になっているのです。


 同じく『戦国』を用いても『戦国雪月花』『戦国花鳥風月』というタイトルからは「具体的なイメージが湧かない」のではありませんか。

「戦国」だと歴史小説・時代小説の印象を与えますが「雪月花」「花鳥風月」はそれぞれ自然の美しい景物を指す言葉です。歴史小説で自然の美しい景物の物語。果たして「読みたい」と思うでしょうか。私なら「具体的なイメージが湧かない」という理由で切ります。

 でも読んでみると「面白い小説」ということが往々にしてあるものです。タイトルひとつでもったいないと思います。


 田中芳樹氏『銀河英雄伝説』は漢字六文字ですが「銀河を舞台にした英雄の伝説」とすぐに脳内変換できますので「意味がわからない」ということがありません。

 でもほとんどの小説は「漢字だけの場合は四文字以下」に抑えられています。ライトノベルならカルロ・ゼン氏『幼女戦記』は漢字四文字ですよね。


■○○の××

 次に『○○の××』のように「単語を助詞”の”でつなげる」タイトルです。

 拙著で内容が同作品である『希望の灯』も『暁の神話』もこのタイプになります。さらにいえば短編の『始まりの勇者』も当てはまるんですよね。

 このタイプはタイトルをひねらないとき真っ先に思い浮かびます。しかし小説投稿サイトではこれが殊のほか興味を惹かないのです。トホホ。


 純文学小説やエンターテインメント小説(大衆小説)ではこの手のタイトルでヒットを飛ばす書き手が数多くいます。芥川龍之介氏『蜘蛛の糸』、川端康成氏『伊豆の踊子』、黒柳徹子氏『窓ぎわのトットちゃん』、東野圭吾氏『容疑者Xの献身』、上橋菜穂子氏『精霊の守り人』、百田尚樹氏『永遠の0』などですね。

『○○の××』タイプは格調が高い小説によく見られます。だからライトノベルが主流の小説投稿サイトでは、その格調の高さのせいで「小難しい小説なんだろうな」と思われて切られるのです。

 タイトルから受ける第一印象はこのくらい影響力が強くなります。


 でもこのタイトルを付けた本人は「これくらいシンプルにしたほうがわかりやすくて皆が読むかな」と勘違いしてしまうのです。

 私もこれまで勘違いしていました。

 確かに純文学小説や大衆小説では『○○の××』タイプは興味を惹きます。

 でもあなたが小説を上げたのはライトノベルが主流の小説投稿サイトです。

 見事に需給のミスマッチを起こしています。


 ライトノベルではおそらく谷川流氏『涼宮ハルヒの憂鬱』、鎌池和馬氏『とある魔術の禁書目録』、丸戸史明氏『冴えない彼女の育てかた』というヒット例を挙げて『○○の××』タイプはウケると思っている方が多いと思います。

 でも『ハルヒ』『インデックス』『冴えカノ』などだいたいは小説投稿サイト発ではありません。

 ここが勘違いのもとになっているようです。

 だから小説投稿サイトでは『○○の××』というタイトルを付けるべきではありません。


 では『○○の××の△△』のように単語三つを助詞”の”でつなげるタイトルなら、とお思いかもしれませんがそれもウケません。

 司馬遼太郎氏『坂の上の雲』は相変わらず格調の高さが残ります。

 アニメの宮崎駿氏『風の谷のナウシカ』も同氏の思想を反映した格調の高い作品です。

 ただし同じくアニメの宮崎駿氏『崖の上のポニョ』は『坂の上の雲』のタイトルパクリでしょうけどね。(これを「オマージュ」とは言いたくないので)。


 単語に修飾詞を入れてみる手も考えられますよね。たとえばノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロ氏『遠い山なみの光』、マンガ・荒木飛呂彦氏『ジョジョの奇妙な冒険』、アニメ・宮崎駿氏『ハウルの動く城』のようなものです。こちらも小説投稿サイトではウケません。


 なので「『○○の××』タイプは小説投稿サイトではウケにくい」と判断してしまっていいでしょう。

「文章になっている」タイトルで助詞”の”が使われるぶんには助詞”の”の持つ格調の高さを薄れさせる効果があります。

 なのでどうしても助詞”の”を使いたければ「文章になっている」タイトルにしてみましょう。

 太田紫織氏『櫻子さんの足下には死体が埋まっている』、住野よる氏『君の膵臓をたべたい』くらいに振り切ってしまえばOKということです。


■○○と××

 次は『○○と××』のように「単語を助詞”と”でつなげる」タイトルです。

 こちらは助詞”の”とは異なり、親しみやすさを感じさせます。

 しかし話の展開や構造が単純そうに感じられるため、ライトノベルでは避けたほうがよいでしょう。

 ウィリアム・シェイクスピア氏『ロミオとジュリエット』、フョードル・ドストエフスキー氏『罪と罰』、アーネスト・ヘミングウェイ氏『老人と海』、マンガ・藤田和日郎氏『うしおととら』のように、親しみやすさはあるのですが○○と××の二つだけで話が展開していくようにタイトルからは受け取られます。

 そして『ロミオとジュリエット』も『老人と海』も『うしおととら』も基本的には双方を中心に話が展開していく構造が単純な作品です。『罪と罰』は例外的に読み進めるのが困難なほどの超長編で内容もひじょうに重い作品ですが、テーマの構造自体はとても単純になっています。

 助詞”の”よりも小説投稿サイトでの食いつきはよいのですが、ランキングの上位に来ることはあまりありません。


■漢字+カタカナ

 また「漢字+カタカナ」のタイトルもあまりウケません。

 理由は「センスが古い」からです。

 テレビドラマの草創期は『快傑ハリマオ』『少年ジェット』のように「漢字+カタカナ」のタイトルだらけ。

 他にも『仮面ライダー』『宇宙刑事ギャバン』『秘密戦隊ゴレンジャー』『新造人間キャシャーン』『機動戦士ガンダム』『六神合体ゴッドマーズ』『超時空要塞マクロス』『美少女戦士セーラームーン』『新世紀エヴァンゲリオン』もこのタイプです。いずれも「古さ」を感じませんか。

 これらを踏まえつつ新しさを出すには「他の文字種を加える」とよいでしょう。

 ガンダムシリーズでは『機動戦士Ζガンダム』『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』『機動戦士ガンダムF91』『機動武闘伝Gガンダム』『機動戦士ガンダム00』『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』などいずれも「他の文字種」(ギリシャ文字・ひらがな・アルファベット・数字)を加えています。

 ただ「助詞”の”」が入っているタイトルは格調の高さを感じさせるはずです。この中では『逆襲のシャア』と『鉄血のオルフェンズ』ですね。

 この「漢字+カタカナ」のタイトルは今でこそウケませんけれども、一周回ってウケる世相になる可能性があります。

 これまでさまざまなタイトルの作品が生まれてきました。

 一時期の流行りとして廃れていたはずなのに、なぜか突然「漢字+カタカナ」のタイトルが大ヒットを飛ばすことがあるのです。

 その先鞭をつける書き手になりたければ「漢字+カタカナ」で勝負してもいいでしょう。

 ただし先鞭をつけるのはなかなかに難易度が高い。

 「二匹目のドジョウ」狙いとして考えたほうがよいと思います。




ウケるタイトルは

 ではウケるタイトルはどんなものでしょうか。


■キーワードを的確に書く

 まず「キーワードを的確に書いた」タイトルです。

 小説に出てくるキーワードをタイトルにするのは昔からありました。

 芥川龍之介氏『羅生門』、三島由紀夫『金閣寺』、川端康成氏『雪国』、又吉直樹氏『火花』、マンガの鳥山明氏『DRAGON BALL』など枚挙に暇がありません。


 他にも川原礫氏『ソードアート・オンライン』は作中のVRMMORPGの舞台である「ソードアート・オンライン」というキーワードをそのままタイトルにしています。

 弓弦イズル氏『IS〈インフィニット・ストラトス〉』、丸山くがね氏『オーバーロード』、伏見つかさ氏『エロマンガ先生』もキーワードですよね。


 川原礫氏『アクセル・ワールド』は元々『超絶加速バースト・リンカー』という「漢字+カタカナ」のタイトルで、このタイトルが不評でした。

 なのでキーワードの『アクセル・ワールド』に改題して電撃小説大賞に応募されました。結果は「大賞」です。キーワードで勝負したからかちえた作品だとも言えるでしょう。


■わかりやすい横文字

 他のパターンとして有名なのは「わかりやすい横文字」が挙げられます。とくにマンガやアニメに多く見られます。

 あだち充氏『タッチ』、北条司氏『キャッツ★アイ』『シティーハンター』、冨樫義博氏『HUNTER×HUNTER』、原泰久氏『キングダム』、アニメ・サンライズ『TIGER & BUNNY』、ゲームのナムコ(現バンダイナムコゲームス)『THE IDOL M@STER』、アスキー・メディアワークス&ランティス&サンライズ『ラブライブ!』などはいずれも「わかりやすい横文字」ですよね。

 ライトノベルでは蝸牛くも氏『ゴブリンスレイヤー』、葵せきな氏『ゲーマーズ!』なんて「わかりやすい横文字」になっています。

 変化球としてアニメのサンライズ『コードギアス 反逆のルルーシュ』のように「わかりやすい横文字」に格調の高い「助詞”の”」をプラスしたタイトルがあります。

 また賀東招二氏『フルメタル・パニック!』のようにハリウッド映画『フルメタル・ジャケット』をもじるようなタイトルもわかりやすいさを刺激してくれるでしょう。


■文章になっている

 最近の流行りはなんといっても「文章になっている」タイトルです。

 アニメ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない』、平坂読氏『僕は友達が少ない』、虎虎氏『中二病でも恋がしたい!』、伏見つかさ氏『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』、暁なつめ氏『この素晴らしい世界に祝福を!』、渡航氏『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』、枯野瑛氏『終末なにしてますか? 忙しいですか? 救ってもらっていいですか?』、大森藤ノ氏『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』、長月達平氏『Re:ゼロから始める異世界生活』などずらりとあります。

 最近のビッグヒット作やメディアミックス作は「文章になっている」タイトルを付けたものが多くなりました。

 現在書店のライトノベルコーナーに行ってみると、実にさまざまな「文章になっている」タイトルの作品を見かけるのです。

 この「文章になっている」タイトルの利点は、タイトルを見た時点である程度「どんな物語なのか」が読み手に伝わるところにあります。

 稀にタイトル詐欺な作品もありますが、そういう作品はなかなかビッグヒットしないものです。

 小説の内容がタイトルに違わないからこそ、多くの読み手を惹きつけることができます。

 ではどうやって「文章になっている」タイトルを作ればいいのでしょうか。

 最も簡単なのは「企画書」をアレンジすることです。

 「企画書」とは「誰がなにをする話」なのかを書いたものであることは以前からお話ししていますよね。

 つまりそれを使えば内容にフィットする「文章になっている」タイトルを付けることができるのです。





最後に

 今回は「タイトルの付け方」について述べてみました。

 タイトルには時代が反映されます。

 現在は「文章になっている」タイトルが主流ですが、いつ転換点が来るかは誰にもわからないのです。

 おそらく大当たりした小説が別タイプの命名法を用いていたら、タイトルの流行りも転換するでしょう。

 でも最初から小説投稿サイトでクリックされにくい「漢字五文字以上」のタイトルを付けても大当たりすることはまずありません。

 ある程度フォロワーさんが生まれるまでは、今の流行りを押さえた命名法でタイトルを付けるべきでしょう。



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