199.再考篇:理想の一作を見つけよう

 今回はあなたにとっての「理想の一作を見つけよう」という提案です。

 なにごとも「手本」があると上達が早くなります。

「手本」となる「理想の一作」が手元にあれば、あなたの成長は何倍もの速さになるのです。





理想の一作を見つけよう


 小説を書きたい。その思いは誰にも負けない。どんな逆境であっても小説を書くことが人生の楽しみだ。だから小説を書く。

 その心意気はとても立派です。ぜひ小説を書きましょう。

 ただしいくつかアドバイスをさせてください。




ルールは守りましょう

「小説を書きたい」という強い思いがあれば思いどおりに小説が書ける、というものではありません。

 まったく小説を読んだことがないのに「小説を書く」ことは可能でしょうか。そしてその作品が「小説賞・新人賞」を獲ることはできるのでしょうか。


 不可能だと思います。

 小説にはさまざまなルールがあります。ルールが守られていない原稿を読んだ下読みさんは「ルールが守られていない」という一点のみで中身を読まずに「落選」に振り分けます。

「いや、中身を読んでくれればこれは傑作なんだよ」と言ったところで下読みさんには届きません。

 いくつかの書籍によれば応募作の八割方は「ルールが守られていない」のだそうです。

 小説賞への応募は規模の大小こそありますが、だいたい二千作は送られてくるとされています。(ネット小説賞であれば万単位のところもありますが)。つまり下読みさんに中身を読んでもらえるのは四百作のみです。残り千六百作は中身を読まれずに落選します。そして落選理由は応募者には教えてくれません。

 多くの書き手は「もっと内容がとがっていないとダメなのか」と考えて、とがった作品を書くようになります。

 でも落選した本当の理由は「ルールが守られていない」からという基本中の基本です。

 いくら内容がとがっていようと「ルールが守られていない」原稿は一顧だにされません。

 では「ルールを守る」だけで受賞できるのかというとそういうものでもないのです。




なぜ小説を書こうと思ったのですか

 まず小説を書きたいあなたに質問します。

「あなたはなぜ小説を書こうと思い立ったのですか?」


「印税生活で一攫千金ウハウハの左団扇で暮らしたい」からでしょうか。それなら小説など書かないほうがいいですよ。

 小説は苦労が多い割に見返りの少ない仕事だと言われています。

 たとえば定価八百円の小説で初版一刷が五千部、印税率が五%と想定するなら「八百円×五%×五千部」で初回の印税は「二十万円」にしかなりません。とても一作書いて印税生活が成り立つほど甘くはないのです。

 仮に販売が好調で合計二万部が売れたとしても「八十万円」、十万部売れれば「四百万円」になります。出版不況の昨今新人の書き手が第一作で十万部も売ることはまずありません。読み手としては実績のない書き手の書籍を買う根拠がないからです。だから「夢の印税生活」を目指すのはやめましょう。


 では「自分の書いた小説をできるだけ多くの人に読んでもらいたい」からでしょうか。それなら「小説賞・新人賞」に応募するよりも小説投稿サイトへ投稿すべきです

 小説賞に応募しても最初は下読みさんが読み、二次選考に残ればさらに別の人が読み、最終選考に残れば有名作家や腕利き編集者が読みます。その結果最悪の場合前述したとおり下読みさんの段階で中身を読まれずに落とされるのです。

 最終選考に残って落選した場合でも多くて十人弱にしか読まれません。これは芥川龍之介賞・直木三十五賞でも同様です。

 小説賞または特別賞を獲得して「紙の書籍にしましょう」となって初めて「できるだけ多くの人に読んでもらう」下地が出来あがります。

 これが小説投稿サイトで最大手の『小説家になろう』に投稿したら、百万ユーザーが読む可能性があるのです。遥かに桁が違いますよね。だから「できるだけ多くの人に読んでもらいたい」なら「小説賞・新人賞」になど応募せず、小説投稿サイトへ投稿しましょう。

 さらにその小説投稿サイトで「小説賞・新人賞」が開催されていたら、積極的に参加すべきです。賞に応募するだけであなたの作品はぐんと読まれやすくなります。「小説賞・新人賞」への応募作はその特集ページで一覧表示され、誰もが読めるように配慮されているのです。つまりただ異世界転生ものを書くよりも、「小説賞・新人賞」の要項に適った作品を応募したほうが皆に読まれやすくなります。


 また「自分は小説を書くのが大好きで、毎日小説を書いていないと落ち着かない。書いたものはすぐに発表して読み手の反応が知りたい」という方もやはり小説投稿サイトを利用すべきです。

 小説投稿サイトなら毎日書いた小説を毎日投稿することができますし、すぐにリアクションが返ってきます。「小説賞・新人賞」へ応募するのに毎日十枚ずつ送付するなんてマネはできません。(連載中の作品を応募できる賞もありますが)。


 そう考えると、現状「小説投稿サイトへ投稿する」のが小説を書きたい人の最適解ということになります。




どんな小説を書きたいのですか

「小説投稿サイトへ投稿する」ことに決めました。では「あなたはどんな小説を書きたいですか?」。


 今最も勢いのあるライトノベルの渡航氏『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』のような作品が書きたい。

 メディアミックスが幅広い川原礫氏『ソードアート・オンライン』のような作品が書きたい。

 ライトノベルでロボットものが書きたいので賀東招二氏『フルメタル・パニック!』のような作品が書きたい。

「どんな小説を書きたいのか」を質問するとたいてい上記のように目標となる小説が挙がるはずです。

 目標となる小説があれば、どう書いてよいのか指針を得られるのです。自分の小説を書いていて行き詰ったら「目標となる小説」を読み返しましょう。きっと「どう書けばよいのか」を教えてくれます。


「誰も書いたことのない小説が書きたい」という人もいるでしょう。でも「誰も書いたことのない小説」というのは「需要がないから誰も書かなくなった」だけの可能性があります。

 もし『小説家になろう』に登録している百万ユーザーが全員小説を書いて投稿していたとすれば、あなたが「誰も書いたことのない小説」と思う作品はすでに誰かが投稿している可能性があるのです。その結果としてそういう作品がランキングに載っていないのであれば、それは「需要がない」ことになります。




手本にする

 目標となる小説を「手本」にしましょう。

 まずは何も考えずに「手本」の第一巻「書き出し」から一章ぶん書き写してみてください。

 そうすることで「小説のルール」を身につけることができます。まだ不安だと思うなら第二章も書き写しましょう。まだまだ不安なら納得できるまで書き写すべきです。

「小説のルール」がわかったら、今度は「手本」の表現・書き方を意識してください。どんな表現をしているのか。会話文と地の文をどのように組み合わせているのか。わかりやすくするためにどんな単語を用いているのか。漢字をどの程度開いているのか。

「手本」にはあなたが小説を書く際に必要な表現力が詰まっています。表現力を意識しながら何度も読み返すことで、あなたの表現力は格段に高まるのです。


「誰も書いたことのない小説」を目指してしまうと「手本」がありませんから、表現力を高めるにはどうすればよいのかわからなくなります。結果「小説を書く」ことを断念しやすくなるでしょう。


 あなたにとっての「手本」を見つけましょう。そのためにはとにかく「小説を読む」ことです。

 まったく小説を読まずに作品を書くことはできません。

 そして数多くの書き手の作品を読まなければ「手本」とすべき小説を見つけることもできないのです。

 だから「小説を書きたい」と考えている人は、とりあえず小説投稿サイトで「ランキング上位の作品を片っ端から読む」ようにしてください。

 ランキングは日や時間によって変わります。現在人気のある小説はどのような作品なのかを知るためにもランキングのリサーチが最も手っ取り早い方法です。




理想の一作を見つけよう

「小説をたくさん読む」ことが「うまい小説を書く」基本です。その結果として目標となる「手本」を見つけることができます。

 ですがそこで終わらないでください。「手本」探しに終わりはありません。時代は寸秒単位で変化しています。昨日最高だったものが今日も最高である保証などないのです。

 それでも「手本」が揺るぎないのであれば、それがあなたにとって「理想の一作」となります。


「理想の一作」は時代の流れに関係なく売れ続けている作品であることが多いのです。

 佐島勤氏『魔法科高校の劣等生』や鎌池和馬氏『とある魔術の禁書目録』などですね。もちろん『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』や『ソードアート・オンライン』など現在流行りの作品が「理想の一作」になることはじゅうぶんにあります。少なくとも十巻程度は続いている作品を選んで読んでみるとよいでしょう。


 もしあなたが「理想の一作」を見つけられたら、あなたは書き手として大化けする可能性があります。

 ですが当初は「理想の一作」を「手本」にしてスキルを高めることに注力しましょう。

 ある程度書けるようになったら自分の作風を模索していくのです。

 そうすれば「○○氏の劣化コピー」から「あなたのオリジナリティーあふれる作風」へと評価が変わっていきます。





最後に

 今回は「理想の一作を見つけよう」というテーマを述べました。

 自分の小説を書くのでいっぱいいっぱいな方も、できるだけ他人の小説を読み「理想の一作」に出会う機会を増やしてください。

「理想の一作」は成長の起爆剤になりえます。



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