187.再考篇:キャラ先のあらすじづくり
今回から三回にわたり「あらすじづくり」について述べてみました。
今回は「キャラから創る」方法です。
キャラ先のあらすじづくり
小説に「これでなければならない」という書き方はありません。
ですが私は「誰がななにをする話」なのかを明確にしてから書くべきだと思っています。
このうち登場人物から先に創る方法を「キャラ先」と呼ぶことにしましょうか。
まず主人公を明確にする
主人公はどんな存在でしょうか。ほとんどの場合は人間です。でも異世界に転生したらスライムだったり魔王だったりすることがライトノベルではよくあります。
多くの読み手は「異世界転生してもどうせ人間だろう」と思っているので、スライムや魔王に転生するだけで「他とは違う」小説になるのです。これは小説投稿サイト『小説家になろう』で一大ジャンルを築いた「異世界転生」もので「より目立つ」ために「他とは違う」小説であると示すときによく設定されます。
人間であったとしても職業にはかなりのバリエーションがありますよね。また家族や血縁や性格などはまさに千差万別。ひとりとして同じ人間はいません。
だからまず主人公の設定を突き詰めていって、「この小説はこんな主人公が出来事を繰り広げるんですよ」と読み手にわかりやすくしてあげる必要があります。
小説投稿サイトには書くのが比較的容易な「異世界ファンタジー」が数え切れないほど存在しています。
その中で読み手を一人でも多く獲得したいなら「どんな主人公なのか」を「あらすじ」「キャプション」で丁寧に説明すべきです。
あらすじやキャプションに主人公像を書く
読み手はどのようにして小説投稿サイトで新しく読む小説を決めているのでしょうか。
たとえば「異世界ファンタジー」ものを読みたいなと思って小説投稿サイトで検索をかけます。
表示された検索結果の中から「タイトルが特徴的」か「あらすじやキャプションに惹かれる」かした小説をとりあえずクリックするのです。
そして「あらすじ」「キャプション」の全文を読んでどんな主人公がどんなことをする話なのか。それを知ることから始めるのです。
『小説家になろう』では検索結果で「あらすじ」を500文字まで読ませることができます。ここで「面白そうだな」と思ってもらえなければ本文を読まれずに閲覧候補から外されるのです。つまり「ユニークユーザ」が増えません。500文字も使えるのに読み手に主人公をじゅうぶんアピールできない小説は誰が読みたがるのでしょうか。
『pixiv』の小説機能で検索をかけると検索候補で100文字弱のキャプションが表示されます。「タイトル」がいまいちでも「キャプション」が面白そうならクリックされて本文が読まれることになります。表示文字数の多い『小説家になろう』よりも閲覧数自体は稼げるのが『pixiv小説』『ピクシブ文芸』なのです。
『カクヨム』では小説を検索すると「タイトル」と「キャッチコピー」が表示されます。「あらすじ」よりも「キャッチコピー」が目立つため、絶妙な「キャッチコピー」が書かれていればクリックされる率も高まります。
『小説家になろう』でも『pixiv小説』『ピクシブ文芸』でも『カクヨム』でも評価されるかどうかは閲覧数とはまた別の話になります。それでもまずは読んでもらわなければ始まりません。
だから「どんな主人公なのか」を「あらすじ」「キャプション」でしっかりと説明する必要があるのです。
主人公が決まれば他も決めやすい
小説で読み手が感情移入するのは主人公です。ですが人はひとりでは生きていけません。
小説の主人公だってたった一人しかいない世界ではやることが何もないのです。ただ日がな一日暇をつぶして命が尽きるのを待つばかり。
他人を作る必要があります。
まずは「対になる存在」を決めましょう。
恋愛小説なら「告白することになる意中の異性」です。バトル小説なら「倒すべき敵対者」になります。
このときできるだけ主人公と「対になる存在」とは離れた存在にすべきです。
「民衆を苦しみから救いたい平民の主人公」なら「民衆を苦しめる悪徳為政者」が「対になる存在」になります。
男勝りな女性が主人公なら、女々しい男性が「対になる存在」になるかもしれません。
身分や境遇や性格などの差が極端に異なればそれだけで物語が面白くなりそうですよね。
主人公と「対になる存在」の二人だけで進行する小説というのもあるにはあります。
しかしそれでは原稿用紙の文字数を埋めるのに苦労するはずです。
どんな文豪であっても二人しか登場しない小説はショートショートかよくて短編にしかなりません。
そこで仲間を作ってグループにしてみましょう。
英雄譚ならさまざまな職業の人物が集まってパーティーを作ります。
たいてい戦士と盗賊と神官(僧侶)と魔法使い(魔術師)でパーティーを組むのは皆さんが今まで読んできた「異世界ファンタジー」でご存知でしょう。
何人パーティーにするかどういう構成にするかで仲間の数も決まります。
そして仲間の数だけ「エピソード」は加速度的に増やせます。
人物の数だけエピソードは加速度的に増やせる
主人公一人しかいない小説はその主人公の「エピソード」しか書けません。
しかし「対になる存在」がいれば主人公の「エピソード」、「対になる存在」の「エピソード」、主人公と「対になる存在」とが絡む「エピソード」の三つが書けます。
そして主人公に仲間が一人加わるだけで、主人公の、仲間の、主人公と仲間の、主人公と「対になる存在」の、仲間と「対になる存在」の、そして主人公と仲間と「対になる存在」全員が絡む「エピソード」の六つ作れるのです。
すべてを書く必要はありませんが、書ける関係線が増えるだけで原稿用紙を格段に埋めやすくなります。
小説を書き慣れてくると、物語に何人登場させれば原稿用紙を何枚埋めることができるのかが見えてきます。
そのためには一つの「エピソード」を何枚で書けるのかを知ることから始めましょう。
オススメなのは「登場人物を三人に絞って小説を書いてみる」ことです。書ける「エピソード」のパターンは前述したとおり六通りになります。これを読ませる順番を考えたり、同じ関係線を何回も使いまわすことを意識したりして書くのです。
おそらく百枚程度の短編小説になるでしょう。
人物は限ったほうがいい
逆に言うと、登場人物を思いつくままに出し続けていくと際限なく文章が書けてしまいます。
しかしそれでは書いた小説にまとまりがなくなるのです。
「小説賞・新人賞」へ応募する原稿用紙三百枚に数十人も登場させたら、誰が主人公かわかりませんし、書ける関係線も限られてしまいます。
結果登場させる必要のない人物が多数出てくることになるのです。
そんな状態では下読みさんの印象が悪くなります。
「三百枚」に出せる人物はできるだけ絞ったほうがよいのです。
そのうえで関係線を密にするよう展開していけば、よりキャラが立ってエピソードも深まり物語の印象は強くなります。
「心に痕跡を残す」ことにもなるのです。
主要人物は一桁に抑え、他はモブキャラにしてしまうとよいでしょう。
拙著『暁の神話』ではレイティス王国の主人公ミゲルよりも先輩の将軍をすべてモブキャラ化しました。すぐに全員死んでしまいますからね。
軍務長官カートリンクも同時期に死んでしまいますが、ミゲルとガリウスの関係線を強めるためにあえて主要人物にしたのです。
その意味では国王ですらモブキャラに近くなりました。
モブキャラに名前を付けてしまうと、読み手が「主要人物かな」と思って頭の隅に記憶してしまうのです。
「三百枚」を読んだ結果ただのモブキャラだったと判明したら「なら名前なんて書くなよ」という気持ちが湧いてきます。
それでは読み手の記憶力を浪費したにすぎないのです。
また拙著『始まりの勇者』は「キャラ先」で創っています。最初に六人の勇者を考えて、それぞれにマジックアイテムを持たせよう。ではそれを活かすような物語はどんなものだろうか。そう考えて書いています。
そして彼らは現在執筆途中の『伝説(仮)』に登場して最大限に働いてもらう予定です。
最後に
今回は「キャラ先のあらすじづくり」について述べてみました。
主人公の設定から決めていくのが「キャラ先」です。主人公の性質がわかるだけで物語は格段に書きやすくなります。
読み手が感情移入するのは主人公ですから、主人公像が固まってさえいれば物語に没入しやすくなるのです。
とくに初心者の書き手であれば、まず「キャラ先」で書くことをオススメします。
でも人物をむやみに増やすのはやめましょう。
書き手も全員の性格・性質を憶えきれなくなりますし、読み手もまとめきれなくなります。
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