188.再考篇:ストーリー先のあらすじづくり
三回にわたる「あらすじづくり」の二回目。
今回は「ストーリーから創る」方法です。
ストーリー先のあらすじづくり
物語の基本となる「企画書」は「誰がなにをする話」なのかです。今回は「なにをする話」なのかを深く掘り下げてみましょう。
これを「ストーリー先」と呼ぶことにします。
なにをする話かを先に決める
「なにをする話」かはある程度種類が限られています。
恋愛小説なら「意中の異性と結ばれる」か「結ばれない」かでしょうし、バトル小説なら「敵対者を撃退する」か「敗れる」かでしょう。
また『小説家になろう』で一大ジャンルとなった異世界転生・異世界転移ものなら「人間に戻る」「元の世界に戻る」のが基本です。「そのまま異世界で暮らすことを選択する」ということもあります。
勇者譚なら「治世を乱す賊を討伐する」かもしれません。
推理小説なら「犯人を追い詰めて自白させる」ことが鉄板の展開です。
意表を突いて「通販番組で商品を紹介してたくさん買ってもらう話」という商売をネタにするのも「あり」でしょう。
以上に挙げたいずれのパターンもストーリーの骨子になります。
骨子もないのにストーリーが展開できるほど小説は甘くありません。
このようにどういったジャンルの物語を書こうと思い立ったら、ある程度「何をする話」なのかは限られてしまうものなのです。
さらわれたお姫様を救い出す
おそらく本コラムをご覧の皆様は「さらわれたお姫様を救う」物語の骨子を持つ作品を少なくともひとつは知っているはずです。
ゲームの任天堂『スーパーマリオブラザーズ』はクッパにさらわれたピーチ姫を救い出す横スクロールアクションゲームです。
初代『スーパーマリオブラザーズ』は全世界で600万本以上売れた任天堂の看板作品であり、たとえSEGA愛好家やPlayStation愛好家でさえこの作品を知らないゲーマーはいないでしょう。
ゲームの任天堂『ドンキーコング』もドンキーコングにさらわれたレディをマリオが救いに行く設定になっています。
少しマニアックですが、ゲームのCAPCOM『魔界村』シリーズもさらわれたお姫様を救い出す騎士アーサーの物語です。
川原礫氏『ソードアート・オンライン』のフェアリィ・ダンス編も、囚われたアスナをキリトが救いに行く物語となっています。
このようにバトルものでなぜかお姫様や恋人が敵にさらわれて、彼女たちを救い出しに行く主人公、というのがゲーム勃興期では鉄板の設定でした。今でもこの類いのゲームや小説は跡を絶ちません。
奪われたものを取り戻す
たとえば「平和」。
平和な日常が奪われて戦乱に突入したら、平和を取り戻すために主人公が尽力します。
『ソードアート・オンライン』のアインクラッド編では誰かがゲームをクリアしない限り、ゲーム内で死んでしまうと現実でも死んでしまいます。「命の安全」を奪われてそれを取り戻す物語です。
アクションRPGのファルコム(現日本ファルコム)『Ys』は奪われたものを取り戻すことがメインのお話です。吟遊詩人レアが何者かに「銀のハーモニカ」を奪われたり、サラ・トバが「イースの書 トバの章」を奪われて殺されたりします。それらを取り戻すのが主人公アドルの役割です。
「奪われたものを取り戻す」の中に「さらわれたお姫様を救い出す」を含めることもできます。
そう考えると妻を人質にとられた主人公を描いた映画のブルース・ウィリス主演『ダイ・ハード』もこのカテゴリーに入ることになるでしょう。
目標に勝つ
何か目標を設定し、それと戦って勝つことが目的の物語があります。
水野良氏『ロードス島戦記』は善と悪のバランスを保とうと企む“灰色の魔女”カーラを主人公パーンたちが倒す物語です。
同じく水野良氏『魔法戦士リウイ ファーラムの剣』は世界を混沌で飲み込もうとする魔精霊アトンと戦うリウイの物語になります。
田中芳樹氏『銀河英雄伝説』では銀河帝国のラインハルト・フォン・ローエングラムが自由惑星同盟のヤン・ウェンリーに勝つことが目的の物語ですが、逆にヤンがラインハルトに勝つことが目的の物語でもあります。これは『銀河英雄伝説』が群像劇であり、どちらの陣営にも主人公がいるから互いに相手より勝ろうとする流れが生まれているのです。
バスケットボールマンガの藤巻忠俊氏『黒子のバスケ』は黒子テツヤと火神大我がいる誠凛高校が「キセキの世代」の五人が所属する高校と戦って勝つことが目的の物語になります。
バトルものならたいてい「目標に勝つ」ことが物語の骨子です。
負けてもなおその先を見据えて終わった物語の代表としては同じくバスケットボールマンガの井上雄彦氏『SLAM DUNK』が挙げられるでしょう。
少年マンガは主人公が勝って当たり前でしたが、湘北高校はインターハイで負けます。
その挫折からの再起を誓いますが物語はそこで終わりです。
読み手としては「勝って終わってほしい」と思いますから『SLAM DUNK』は「後日談を描いてほしい」という読み手がとても多い作品になりました。
展開をあまりズラさない
物語の展開は基本的にパターンがあります。
それでも「小説の差別化」のために「意表を突いたストーリー」を作り上げたいと思うのが物語の書き手の性ではないでしょうか。
その場合も基本は「少しズラす」ことになります。
恋愛小説と見せて話を進め、気がついたら想い人を奪い合う競争小説になっていたということもあるでしょう。
マンガの美内すずえ氏『ガラスの仮面』は演劇を志す主人公の北島マヤが純粋に演劇に打つ込むところからスタートして、ライバルとなる姫川亜弓と『紅天女』の主演を競う物語になります。
のちにあしながおじさん“紫のバラの人”である速水真澄とのロマンスでも駆け引きが生まれていきますよね。
これはよい「ズラし方」の一例です。
悪い「ズラし方」の例として、冒険マンガだった鳥山明氏『DRAGON BALL』がいつの間にかバトルマンガになってしまったケースがあります。
同じように海賊の冒険マンガだった尾田栄一郎氏『ONE PIECE』も気がついたらバトルマンガになっています。
さらに冒険マンガだった冨樫義博氏『HUNTER×HUNTER』も同様にバトルマンガへ。
冨樫義博氏といえば出世作となった『幽☆遊☆白書』も当初は霊界探偵マンガでしたがなぜかバトルマンガに変わってしまいましたね。
久保帯人氏『BLEACH』も死神代行からバトルマンガに。
『週刊少年ジャンプ』ではこのように人気を得るためにバトルマンガ化してしまう作品が殊のほか多いのです。これではあまりにも節操がなさすぎます。
すべてが悪いとは言いがたいのですが、安易にバトルマンガと化して票狙いの姿勢が全面に出すぎました。連載40周年で終了した秋本治氏『こちら葛飾区亀有公園前派出所』のようなギャグマンガは『銀魂』などを除くと絶滅の危機に瀕しているといっていいでしょう。
結果的にどの作品にもバトル要素が盛り込まれて没個性化してしまい、『週刊少年ジャンプ』本誌の売上は最盛期の六百五十万部超から二百万部弱と、三割ほどまで、実に七割減に縮小したのです。
スポーツ部活ものの許斐剛氏『テニスの王子様』や藤巻忠俊氏『黒子のバスケ』、最初からバトルマンガの岸本斉史氏『NARUTO』や堀越耕平氏『僕のヒーローアカデミア』のようなバトルをする必然性があるのなら話は別。
そうではなくまったく別の物語なのに途中からバトルものへズラして落ちぶれていく作品が悪いのです。
最後に
今回は「ストーリー先のあらすじづくり」について述べてみました。
「キャラ先」で物語を作る書き手は登場人物の魅力で読み手を惹きつけたい人です。
それに対し「ストーリー先」で物語を作る書き手は物語の展開で読み手を惹きつけたい人になります。
「企画書」である「誰がなにをする話」というのは「誰が」を先に決めると「キャラ先」に、「なにをする」を先に決めると「ストーリー先」になるのです。
ですがこの二つは並行して作られることが多い。主人公を少し決めたらそれに合いそうな展開を考える。その展開をするのなら主人公はこうあるべきだろう。主人公がそういう人物なら物語はこう展開すべき。
このように相互に高めあっていくのが「企画書」から出発するあらすじの作り方です。
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