182.再考篇:箱書きを作成する(中略あり)

 今回は「箱書き」の復習です。

 まず「転」つまり「佳境クライマックス」の「箱書き」から書いていきましょう。





箱書きを作成する


 コラムNo.46「中級篇:箱書きを書く」、No.73「実践篇:箱書きの書き方」について書きましたが、皆様は憶えていらっしゃるでしょうか。

 そこであえてもう一度「箱書き」について述べたいと思います。




箱書きとは

「箱書き」とは小説に登場する「場面シーン」を視覚的にわかりやすくするために書いたものです。

 一枚のメモ用紙に場面シーンごとの「時間」「場所」「天候」「人物」「出来事」「言わせたいセリフや書きたい描写」などを書き込みます。

「箱書き」は場面シーンの数だけ書くのです。この「箱書き」によって小説に盛り込む「エピソード」や「場面シーン」を加減していきます。




まず佳境の箱書きを作成する

 「箱書き」は基本的に思いついた順に書けばいいのですが、書き手が最も書きたいのは「佳境クライマックス」のはずですよね。

 だから「佳境クライマックス」を優先して確定していけば、安心して展開や伏線を考慮しながら「佳境クライマックス」以前の箱書きを書けるようになります。


 角川スニーカー文庫の水野良氏『ロードス島戦記』第一巻なら“灰色の魔女”カーラとの直接対決が「佳境クライマックス」です。

 細分すると「主人公パーンたちとカーラの話し合い(思想の対決)と決裂」

「(伏線:魔力の棒杖を用いて)カーラの魔術を封じ込める」「カーラとの近接戦闘に持ち込む」「前衛三人がカーラの注意を惹く」

「(伏線:カーラの肉体であるレイリアはギムの命の恩人)カーラの肉体を気遣っていたドワーフのギムが倒される」

「(伏線:カーラの意志はサークレットに封じてあるという知識)盗賊のウッドチャックがカーラの意志が封じ込められたサークレットを剥ぎ取る」に分けられます。

 これらはすべて箱書きです。


佳境クライマックス」において必要な伏線は三つあることがわかります。これらの伏線は「佳境クライマックス」より前に書かれていなければなりません。

「魔力の棒杖」と「カーラの意志はサークレットに封じられているという情報」は「佳境クライマックス」の前に大賢者ウォートのもとへ赴いて入手しています。

「カーラの肉体であるレイリアはギムの命の恩人」であることは第一章第一節に書かれています。

 つまり物語のスタート時点から張られている「物語を貫く伏線」なのです。だからこそ『ロードス島戦記』第一巻は大きなカタルシスを感じさせます。


 拙著『暁の神話』の「佳境クライマックス」は第七章です。

「帝国軍が王国軍を待ち構える」

「王国軍がやってきて双方、陣を展開する」

「(伏線:軍師カイの策略により)王国軍が帝国軍を翻弄する」

「帝国軍大将クレイドが焦ってしまい迂闊に動けなくなる」

「帝国軍が王国軍と同程度の兵数まで撃ち減らさせる」

「(伏線:皇帝との約束で今回は様子見の戦闘だったため)クレイドが帝国軍の動きをやめさせ引き揚げさせる」

「(伏線:ミゲルは戦争であっても人殺しが嫌いだったため)主人公の王国軍軍務長官ミゲルが帝国軍へ講和の急使を派遣する」

 とこのように分けられます。


佳境クライマックス」において必要な伏線は三つです。「皇帝との約束で今回は様子見の戦いだった」のは直前の第六章に出てきます。

「軍師カイの策略」も直接の「前フリ」は第六章ですが、肝心のカイが軍師として王国軍に配属されるのは第四章まで遡るのです。

 そして「ミゲルは戦争であっても人殺しが嫌いだった」のは第一章から出てきます。つまり『暁の神話』における「物語を貫く伏線」だったわけです。


 このように佳境の展開を考えることで「伏線」として何が必要なのかを、「箱書き」の段階から知ることができます。

 これが「佳境クライマックス」から作ることのメリットです。


 もし「書き出し」から話を組み立てていったらどうなるのでしょうか。

 はっきりとしない漠然とした「佳境クライマックス」を意識しながら「ああでもないこうでもない」と思索を続けて、「どうやって伏線を張ろうか」と悩み続けるのです。

 挙句その物語は執筆途中で頓挫してしまいます。


 せっかくあなたが「こんな『佳境』を思いついた! 皆にも読ませたい!」となったのに、形にならず消え去っていくのはあまりにもったいないのです。

 だから「佳境クライマックス」から書いたほうがいいですよ、と本コラムでは繰り返し述べています。




結末の箱書きを作成する

佳境クライマックス」の「箱書き」ができたら、その勢いで「結末エンディング」の箱書きも作ってしまいましょう。「佳境クライマックス」からすぐに遡っていってもいいのですが、そうすると「結末エンディングでこのキャラがどうなるのかわからないから、「結末エンディング」を仮定してそれをどうやって暗示していくか」が気になって展開に迷いが生じやすいのです。それなら先に「結末エンディング」まで書き切ったほうが、展開に迷わないぶん箱書きを書きやすくなります。


『ロードス島戦記』の結末は(三十年ほど前の作品なのでネタバレは気にせず書きます)以下になります。


〜(中略)〜


「魔術師スレインはレイリアを連れて第一章第一節に出てくる村ターバまで戻る」

 このうち「スレインがレイリアを連れてターバ村に戻る」ということが「書き出し」まで遡ったときに、「書き出し」の第一章第一節をターバ村に設定すればうまくリンクしますよね。

 これが「佳境クライマックス」から「結末エンディング」へ先に終わらせてしまう利点です。


 拙著『暁の神話』の結末は以下になります。

「皇帝が王国軍急使が持ってきた書簡を読み、王国へ講和を打診する」

「国王は軍務長官ミゲルがなぜ講和を要求したのか腹案を聞き、それを了承する」

「“中洲”にある戦場テルミナ平原で講和が成る」

「皇帝はミゲルの真意は別にあるのではないかと問いかける」

「ミゲルが連合政府の構想を打ち明ける」

「国王も皇帝も連合政府の構想を受け入れる」

「その条件としてミゲルが連合政府の首班となる」

「後日談として皇帝の縁談が持ち上がる。縁談が成れば王国と帝国は血を混じえることになり、その流れが両国民にまで及べば二国はやがて一つの国家へと統合されていくことになる」


『ロードス島戦記』にあって『暁の神話』に無いものは「始まりと終わりの場所の提示」にあります。『ロードス島戦記』はターバ村で揃っていますが、『暁の神話』は王都から始まって帝都で終わっています。

 つまり『暁の神話』は場所がリンクしていないのです。もちろんそういう物語は他にもたくさんあります。でも物語としては一方通行にならざるをえません。


結末エンディング」と「書き出し」を工夫してうまくリンクさせてやる。たったそれだけで、もう少し盛り上がりのある小説になったのだろうなと感じています。

 このあたりも連載化するときに考慮したい点です。




結末から遡って箱書きを作成する

佳境クライマックス」から「結末エンディング」までの箱書きが決まったら、今度はそこからひとつずつ前に戻りながら「箱書き」を作成していきます。


『ロードス島戦記』は、

「伝説の六英雄・ファーン国王とベルド皇帝の一騎討ちによりファーン王が倒され、カシュー王がベルド皇帝を倒してヴァリスとマーモの首領が共倒れの形になる。卑怯な手段でベルドを倒したカシューを憎む親衛隊の”黒衣の騎士”アシュラム」


〜(中略)〜


「パーンはザクソン村の若者をゴブリン退治のために説得しようとするがヴァリスの聖騎士だった父を侮辱され、エトと二人でゴブリン退治に赴く。ギムはザクソン村で旧知の魔術師スレインを訪ねる」

「ターバ村でマーファの最高司祭ニースとギムが登場。ギムはニースの娘を連れ帰ることを約束し、一人ザクソン村へ向かう」

 とここまで遡っています。

結末エンディング」はスレインがレイリアを連れてターバへ行くことになるので、「書き出し」はターバからスタートすることになったようですね。





最後に

 今回は「箱書きを作成する」ことについて『ロードス島戦記』と拙著を例にして振り返ってみました。

『ロードス島戦記』の例を見てもわかるように、遡って「箱書き」を考えていくとかなり楽です。「この状態に持っていくにはどういうことを起こすべきか」を考えながら物語を作っていけるからです。

 伏線も入れやすいし入れ忘れる心配もまずありません。唐突感は薄れて流れるように物語が推移していきます。

「箱書き」があればその「エピソード」や「シーン」を膨らませてストーリー展開が生みやすくまた把握しやすくなるのです。

 連載小説が途中で行き詰まる人は、いったん立ち止まって「箱書き」を書いてみましょう。

 連載小説は必ず「佳境」を書きたいから連載しているはずですよね。連載すること自体が目的ではなかったはずです。

 ならばまずは「箱書き」を書いて展開を明確にしておきましょう。それだけで行き詰まりを打破できますよ。

(引用が盗用や二次創作とどう明確に異なるかの線引きがわからないため、あえて引用元を示して引用しています。ただし引用元の『ロードス島戦記』の文章は直接記載していないので、引用といっても参照程度のはずです。『小説家になろう』『カクヨム』運営様方が「二次創作」「盗用」と判断された場合は『ロードス島戦記』部分を削除いたします。規約を読めば引用元を明示して参照するのは規約に触れていないと思われますがどうでしょうか。運営様のご回答を待ちます)。



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